日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[M-ZZ45] 地球化学の最前線:その魅力や将来の展望を語り合う

2024年5月30日(木) 13:45 〜 15:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、飯塚 毅(東京大学)、坂口 綾(筑波大学数理物質系)、服部 祥平(南京大学)、座長:服部 祥平(南京大学)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

14:45 〜 15:00

[MZZ45-08] 同位体ナノスコープによる鉱物中のヘリウム,ネオン,アルゴン同位体の局所分析

*大槻 悠太1馬上 謙一1小長谷 智哉1、Wieler Rainer2圦本 尚義1 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻地球惑星システム科学講座、2.ETHチューリッヒ)

キーワード:希ガス、深さ方向分析、TOF-SNMS

Introduction
月や小惑星イトカワなどの大気を持たない天体の表層は,太陽から放出されるプラズマ流である太陽風に曝されている.それらの天体から持ち帰ったサンプルに含まれる太陽風成分は過去の太陽風を理解するために用いられている [e.g., 1, 2].我々は同位体ナノスコープという二次中性粒子質量分析装置を使い,太陽風起源希ガスの局所分析を行っている.同位体ナノスコープは,高い空間分解能とイオン化効率によりイオン化されにくい希ガスをµmからnmスケールで分析することが可能である.これまで同位体ナノスコープでは,NASA/Genesisミッションの太陽風が注入されたダイヤモンドライクカーボンなど,人工物にイオン注入されたヘリウムの分析を中心に行ってきた [3].我々は,この分析手法を地球外物質の他の希ガス同位体に適用するために,月試料のアナログとしてイルメナイトとオリビンに希ガス(4He,20, 22Ne,36, 40Ar)を注入した試料を作成し,各同位体の深さ方向分布を同時に分析できる条件を構築した.

Methods
4He,20,22Ne,36,40Arの各同位体を,サンカルロスオリビンと南アフリカMonastry Diamond鉱山産イルメナイトの研磨片に注入した.希ガスの深さ方向分析は,~2 µmに集束させた69Ga+イオンビームを試料表面の~15 × 21 µm(30 × 30 ピクセル)の領域に走査させ,各ピクセルにおいて100回のマススペクトルを積算する条件で行った.飛行時間型の質量分析部の測定条件は,455–461 µsの飛行時間を周回させたイオンを検出できるように設定し,m/z 4, 8, 9, 10, 11, 12, 20, 28 のイオンを測定できるようにした.この時,質量分解能は,4He+の半値幅で28,000だった.

Results and Discussion
イオン注入したイルメナイトの分析において,4He+と同重イオンである12C3+をイオン周回軌道に設置したイオンゲートを開閉することにより除去した.もう一つの同重イオンである16O4+はイオンゲートで除去した12C3+よりもm/zが小さいため,4He+に対する干渉は無かった.22Neと36Arはそれぞれ22Ne2+36Ar4+を測定した.この選択により同重イオン55Mn5+27Al3+の妨害は無くなった.
20Neは1価と2価のイオンをそれぞれ分析した.20Ne+では,24Mg16O2+のピークのうち約1%が20Ne+ピークに重なる.そのため,20Ne+の深さ方向分布は,残留ガスによるブランクの強度よりも200倍高い強度で高止まりしてしまった.一方20Ne2+は,24Mg16O4+が検出されず,深さ方向分布はブランク強度の4倍の強度まで測定できた.したがって,MgO成分を含む試料の20Neを分析するために,20Ne2+の方を選択した.
40Arは2価と4価のイオンを測定し,比較した.本研究の質量分解能では40Ar2+40Ca2+を分離することはできない.そのため,40Ar2+の深さ方向分布は,ブランク強度の60倍までしか測定できなかった.一方,40Ar4+の深さ方向分布は,ブランク強度の3倍まで測定できた.これは,Caが2価で閉殻構造をとるため,Caの4価イオンができにくくなるためと考えられる.
イオン注入したオリビンでは,4He,36Arについてはイルメナイトと同じ結果が得られた.しかし,40Arは4価イオンのピークが30Si3+のピークと重なっており,40Ar4+の深さ方向分布もブランク強度の約10倍で高止まりしてしまった.このため,本研究の分析条件ではシリケイト中の40Arの分析は難しい.加えて,30Si3+のピークが20Ne2+に干渉していた.
本研究により,同位体ナノスコープで,鉱物中の主要元素O,Mg,Ti,Fe,Siと4He,20, 22Ne,36, 40Arを,妨害イオンの干渉を抑えつつ,同時分析する条件を確立した.希ガス種の測定限界は,イルメナイトでそれぞれ3 × 1017,3 × 1016,1 × 1016,4 × 1016,3 × 1017 cm−3,オリビンでそれぞれ2 × 1017,9 × 1016,2 × 1016,3 × 1016,3 × 1018 cm3だった.

References: [1] Wieler R. (2016) Geochemistry 76, 463–480. [2] Nagao K. et al. (2011) Science 333, 1128–1131. [3] Bajo K. et al. (2015) GJ. 49, 559–566.