日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ45] 地球化学の最前線:その魅力や将来の展望を語り合う

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、飯塚 毅(東京大学)、坂口 綾(筑波大学数理物質系)、服部 祥平(南京大学)

17:15 〜 18:45

[MZZ45-P04] 走査型X線顕微鏡と結像型X線顕微鏡の相補的利用による大面積隕石超薄切片の多元素XANES

*小玉 泰聖1薮田 ひかる1、Vitale Suzy2菅 大暉3、山下 翔平4、高橋 嘉夫5為則 雄祐6 (1.広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻、2.米国カーネギー研究所、3.高輝度光科学研究センター、4.高エネルギー加速器研究機構, 物資構造科学研究所、5.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、6.東京都立大学)

キーワード:走査型透過X 線顕微鏡、結像型X線顕微鏡、炭素質コンドライト、pFIB、有機物ー鉱物相互作用

【序論】近年、地球惑星物質試料中の有機物と鉱物の相互作用を直接観察するためのその場分析が発展している。放射光を用いた走査型透過X 線顕微鏡 (Scanning Transmission X-ray Microscopy, STXM)は、集光X線に対して微小試料を2次元走査し得られる透過X線を測定することにより、試料中の元素分布や化学状態を高い空間分解能で(< 30 nm)測定できる手法である (Kilcoyne et al. 2003)。一方、結像型X線顕微鏡 (Transmission X-ray Microscopy, TXM) は、試料からの透過 X線を拡大投影結像することでより広域の試料の化学状態を迅速に取得することができる(Tamenori and Hoshino 2018)。国内においてTXMは従来イメージングに用いられてきたが、化学状態分析には利用されていなかった。そこで本研究では、地球外物質中の有機物と鉱物の相互作用に関する理解を最大化するため、STXMとTXMを相補的に利用し、炭素質コンドライト隕石の大面積薄片試料のC, O, Fe, Mgに注目したX 線吸収端近傍構造(XANES)分析を行った。また、開発中のTXMに関して解決すべき課題の洗い出しを行った。

【試料・実験】米国カーネギー研究所のFEI Helios PFIB G4を用いて、Orgueil CI炭素質コンドライト隕石の大面積超薄切片 (厚さ350 nm、大きさ50 μm × 25 μm)を作製した。はじめにTXM(BL27SU, SPring-8)を用いて、pFIB隕石試料の O-XANES (520-560 eV), Fe-XANES (700-730 eV), Mg-XANES(1295-1350 eV)を測定した。TXMでの観察視野は40 μm
× 40 μmであり、OおよびFeのXANESエネルギー範囲において、0.1 eV/sec のimage stackデータを取得した。その後、同一試料の C-, O-, Fe-, Mg-XANESスペクトルをSTXM(BL19A, Photon Factory, 高エネルギー加速器研究機構)で測定した。

【結果と考察】TXM により取得したO-, Fe-XANESスペクトルから、層状珪酸塩マトリックス中の酸化物を暫定的に同定した。酸化物の領域をSTXMにより詳細に測定した結果、いくつかの酸化物はフランボイダル構造を有することが判明した。また、そのO-XANESスペクトルから、O 2p – Fe 3d混成軌道(~530 eV)、O 2p – Fe 4s,4p混成軌道(~541 eV)、磁鉄鉱の結晶構造に由来する酸素原子による電子の後方散乱(~547 eV)に相当するX線吸収が検出されたことから、磁鉄鉱 (Fe3O4) であると同定した。TXMとSTXMとで得られたO-XANESスペクトルを比較すると、TXMで得られたスペクトルは STXMのスペクトルに対して約3 eV高エネルギー側にずれていた。また、STXMで検出されたO 2p – Fe 3d、O 2p – Fe 4s,4p混成軌道由来のX線吸収ピークがTXMでは見られず、両者のスペクトル形状は大きく異なっていた。
次に、同じ領域における炭素の分布をSTXM で取得した結果、炭素に富む数百ナノメートルサイズの領域と、炭素が薄く広がる領域がマトリックス中に存在する状態が観察された。いずれの領域のC-XANESスペクトルも芳香族炭素 (~285 eV)、芳香族ケトン(~286 eV)、カルボキシル基 (~288.5 eV)の3 種のX 線吸収ピークを示す点で始原的な炭素質コンドライトの不溶性有機物 (IOM)に典型的なスペクトルが得られたが、IOM より芳香族炭素に富むスペクトルが局所的に検出された。また、フランボイダル磁鉄鉱の縁にはIOM に比べてわずかに脂肪族炭素に富むと共にブロードなスペクトルが検出された。
以上をまとめると、TXMとSTXMとの間で校正方法を比較検討を行う余地があるものの、TXMで試料の広範囲における元素・組織分布を見出し、その中で科学的重要性の高い領域をSTXMで測定することで、 STXMだけでは従来見落としていたかもしれない地球惑星試料中の物質分布についての全容を把握できる可能性を本研究で示すことができた。