日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] ポスター発表

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[O-07] キッチン地球科学:多様な到達点を生む実験

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:熊谷 一郎(明星大学理工学部)、鈴木 絢子(東洋大学)、下川 倫子(奈良女子大学)、栗田 敬(東京工業大学 地球生命研究所)

17:15 〜 18:45

[O07-P05] 重液に浮遊させた粒子分散系の回転剪断実験:脆性-延性遷移の再現を目指して

★招待講演

*佐々木 勇人1桂木 洋光1 (1.大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻)

キーワード:アナログ実験、断層、地震、粒子分散系、浮遊粒子

断層粘土や未固結堆積物の変形挙動を調べるために,比較的身近な材料を用いた簡単な実験を行った.具体的には,多数の球体ゲルを液体表面に浮遊させた粒子分散系で,回転剪断実験を行った.粒子を浮遊させることで底面摩擦を無視することができ,回転剪断の変形を採用することで定常状態に至るまで任意の歪みを加えることができる.粒子の充填率を変化させることによって,粒子分散系におけるバルクの粘性流動や固着すべりの挙動を再現することができる.それに加えて,両者の間の脆性-延性遷移についても調べることができる.粒子分散系では実験中のその場撮影によって粒子追跡が可能であり,変形中のミクロな構造変化や粒子運動場とマクロな力学物性とを結びつけることが可能となる.

実験に使用した試料は,弾塑性を捉えやすくするために,柔らかいゲルでできた球状粒子を用いた.粒子は白色不透明で直径4 mm前後のものを用いた.本研究では水槽水濾過用フィルター材を使用したが,吸水膨張ゲルボールなども利用可能であり,いずれも100gあたり1000円程度で購入できる.球体ゲル試料を浮遊させるための液体としては,鉱物の重液分離に使われるポリタングステン酸ナトリウム水溶液を用いた.ポリタングステン酸ナトリウム水溶液の比重は,濃度に応じて最大3.1以上まで大きくすることが可能であり,透明であると同時に毒性も低く扱いやすい [1].粒子分散系の実験として一般に用いられているガラスビーズ(例えば,[2])も浮遊させることができ,先行研究との比較検証も可能となる.

実験のセットアップとしては,透明なビーカーに水溶液を入れ,液面に粒子を浮遊させた.粒子層の厚さは1粒子分とした.粒子層に垂直に円柱を挿し入れて回転させることで,回転剪断を施すことができる.回転円柱は渦巻きバネを介して回転モーターに接続され,回転と同時にトルクも測定した.変形実験中に,ビーカー底面からカメラでその場撮影を行い,粒子層の時系列画像を解析した.

実験は2種類の境界条件で行い,剪断を施す回転円柱の側面に試料と同じ粒子を接着させるか否かで差をつけた.回転円柱の側面に粒子を接着させた場合,断層活動を現象論的に再現し,粒子層の粒子数によらず粒子どうしが噛み合うことに対応した固着すべりが生じた.粒子数が増加するほど固着すべりの再来周期や応力降下量が増大した.また,画像解析の結果,粒子数に応じて多様な剪断帯の幅・形状が生じることが明らかになった.回転円柱の側面に粒子を接着させなかった場合,粒子数の増加に応じて粘性流動から固着すべりへと徐々に移り変わる脆性-延性遷移のような現象が見られた.

粒子分散系は,粒子充填率が閾値を超えると粒子配列が固まる性質を持ち,この遷移をジャミング転移という[3].粒子分散系のジャミング転移を利用して,現象論的に摩擦-流動遷移を再現することによって,断層破砕帯やランドスライドすべり面のような未固結堆積物の剪断特性の変化を調べることができる.また,粒子分散系の一種であるコロイド結晶では,格子欠陥と同様の性質を持った欠陥が再現されている[4].そのため,粒子分散系のジャミング転移という現象から,多結晶体の岩石からなるプレート強度の脆性-延性遷移についても議論することができるかもしれない.

[1] 檀原ほか(1992)無毒な重液SPT(ポリタングステン酸ナトリウム)とその利用.地質ニュース.
[2] Higashi & Sumita (2009) Experiments on granular rheology: Effects of particle size and fluid viscosity. JGR.
[3] Liu & Nagel (1998) Jamming is not just cool any more. Nature.
[4] Schall et al. (2004) Visualization of Dislocation Dynamics in Colloidal Crystals. Science.