日本地球惑星科学連合2024年大会

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[O-08] 高校生ポスター発表

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球惑星科学系 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(文部科学省)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O08-P107] 知らない現象(不知火現象)を科学する6~シミュレーションから現代の観測への新たな視点~

*徳丸 亮汰1、*小林 瑞1、本田 琢磨1、新宅 草太1、米田 直人1、村上 聖真1、*吉田 大暉1、西川 幸輝1、橋本 直大1、堀田 舞衣1 (1.熊本県立宇土高等学校)

キーワード:蜃気楼、屈折、観測、シミュレーション、再現、光学

[背景、目的] 宇土半島南側に位置する不知火海で見られるとされる不知火現象を研究して今年で7年目となる。不知火とは1年に1回、八朔(旧暦8月1日)の晩にのみ見られる現象とされており、時間変化で1つの光源が横方向に分裂し、つながって見える蜃気楼の一種であると考えられている。過去の研究は約40年前で終わっており、未だ科学的に解明されていない不思議な自然現象である。研究を進める上で生じた3つの疑問を解決するために、観測・シミュレーション・再現という3つ視点から不知火の科学的な解析・考察を行った。
1.今、不知火は見られるのか? 2.観測した現象の原理は? 3.不知火の再現はできるのか?

[疑問1:観測] 昔からの観測場所として知られている熊本県宇城市不知火町の永尾神社で観望所(高さ9m)と海岸(高さ1m)の2地点で観測を行った。大潮である昨年の9月2日、14日、15日、30日の4日間、夜間の満潮から干潮にかけて一晩中実施した。観望所では変化が見られなかったが、海岸では時間変化で対岸の街明かりが縦に0個、1個、2個と変化する不思議な現象を観測した。しかし、これまで一度も不知火のような横方向に光源が変化する現象は見られず「近年、不知火は見られなくなっている」ことを明らかにした。

[疑問2:原理] 観測した光源が変化する不思議な現象の原理を科学的に説明することにした。日本蜃気楼協議会の森川浩司さんからいただいたプログラムに、実験から得られた海面上の温度プロファイルを作成したものを入れ、光路を可視化、シミュレーションをした。観測点、光源の高さを自由に変えることが可能であり、実際の野外観測では難しい状況でもシミュレーションをすることができる。シミュレーションの結果、日本最大級の不知火海の干満差に加えて大潮の影響で観測点、光源の高さが相対的に海面から高くなることから変化する「単なる下位蜃気楼(浮島現象)」だとわかった。そこで、追加の疑問として現在ではもう不知火は見られないのか?と考えた。様々な条件を変えていく中で光源の高さが低くなると、海面近くの温度変化の影響を受けやすく、より光が曲がることがわかった。さらに、地元の漁業組合や酒屋さんへの聞き込みから禁漁期間を設け始めてから不知火が見られなくなっているとわかり、不知火の発生・観測には海面に近い光源としての漁火が重要だと考えた。

[疑問3:再現] 不知火を見ることはできなかったが、不知火現象を再現するために室内でシリコンラバーヒーターや扇風機などを使用した装置を作成した。海の内部に向かって吹く風(陸風)や広大な干潟、冷たい水脈(みお)の3つの要素を取り入れて、不知火海の特徴を表現した。装置は2000分1の縮尺であり、1mm移動させるだけでも現実では2m変わることになり細かい調整が難しい。十数回実験を繰り返した結果、ヒーターを加熱すると観測対象として置いたライトが横に2つに分かれる現象を確認することができた。観測者側から対象に向けて風を流すと、光源が下に分かれる下位蜃気楼(浮島現象)になった。しかし、微風を流すと分かれた光源がつながるような不知火現象の再現に成功した。室内実験で世界初となる側方蜃気楼、不知火の鮮明な写真・動画撮影を行った。

[まとめ、今後の展望] ①野外観測:最近、不知火が見られなくなっている。②シミュレーション:観測に観望所(少し高い場所)が良いとされてきた理由の解明、漁火があれば見られるかもしれない。③再現実験:側方蜃気楼、不知火の再現に成功。明瞭な記録は世界初!これまで不知火が見られなくなっている原因は地球温暖化や干潟の減少といった環境変化であると考えてきたが、禁漁期間の設定による漁火(漁船)がないという可能性があることがわかった。今年は市役所や地元の漁師さんなど地元の方々に協力をお願いして、漁火がある状態での不知火の観測検証を行う予定である。

[参考文献]
川合秀明,北村裕二,柴田清孝.下位蜃気楼の光路計算-マダガスカルで見た蜃気楼-,2020
日本蜃気楼協議会.蜃気楼のすべて!.草思社,2016
立石巌.不知火新考.築地書館,1994
山下太利.不知火の研究.葦書房,1994