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[O08-P109] 馬門石（まかどいし)の赤色の原因はヘマタイトか？
キーワード：馬門石、阿蘇溶結凝灰岩、ヘマタイト、Fe₂O₃、FeO(OH)
【研究の動機・目的、仮説】
私たちの学校や地域には、古くからの水道の樋や石橋に赤い馬門石（まかどいし）が使われている（図１）。馬門石は、約９万年前のAso-4火砕流堆積物の阿蘇溶結凝灰岩の一種とされており、この馬門石に特徴的な赤色の理由に疑問を持った（図２）。文献を探すと、色の原因には鉄の参加が関係しているとの記述がみられたが、詳しいことは不明である。よって、馬門石の赤色の原因を明らかにすることにした。
鉄で赤色ものには赤さびの他に、ヘマタイト（Fe2O3）があり高温酸化によってできることが分かった。そこで、馬門石にはヘマタイトが含まれ、赤色をしていると仮説を立てた。
【研究内容】
今回はＡ：観察・実験、Ｂ：馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の成分分析、Ｃ：馬門地区での岩石の分布調査と岩石の同定を行った。
Ａ：観察・実験
①馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の違い（黒曜石レンズの有無や硬さ，磁性，磁鉄鉱の量を比較）
→馬門石は阿蘇溶結凝灰岩と比べ、柔らかく、黒曜石や磁鉄鉱が少なく磁性は乏しい。
②鉄クギを空気中と水道水中，水道水に一日つけて取り出したものとでサビの発生を観察
→空気中の鉄クギはサビが発生せず，水道水につけた鉄クギは赤サビFeO(OH)が発生。
水道水につけたままの鉄クギは最初赤サビが発生し，その後黒サビが発生した。
③ガスバーナーでの粉末（Fe、Fe2O3、阿蘇溶結凝灰岩、馬門石）の加熱実験、塩酸での溶液→10分程度加熱しても赤くならなかった。塩酸を加えた溶液は黄色になり、Fe3+を含む。
ヘマタイトの生成は容易ではない。
⇒馬門石の赤色の原因は、Fe2O3かFeO(OH)のどちらか、また、阿蘇溶結凝灰岩の黒は、磁鉄 鉱Fe3O4によると考えられる。
Ｂ：馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の成分分析
馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の成分の違いや、馬門石の赤色の原因はFe2O3かFeO(OH)のどちらかを調べたい。そこで、熊本県産業技術センターで、成分分析と電気炉での加熱を行った。
①蛍光Ⅹ線分析、Ⅹ線回折
馬門石と阿蘇溶結凝灰岩のどちらも鉄が10％ほど含まれ，成分はほぼ同じであった。鉄の酸化物としては、Fe2O3はほとんど見られなかった。馬門石の赤色の原因は、Fe2O3ではないと考えられる(図３)(図４)。
③電気炉での加熱（1,000℃で24時間加熱し、岩石に含まれる鉄を強制的にヘマタイト化）
赤い馬門石だけでなく、黒い阿蘇溶結凝灰岩も赤色になった。
⇒馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の赤と黒の原因は、岩石に含まれる鉄。
赤の原因は、ヘマタイト（Fe2O3）ではなく、FeO(OH)と考えらえる。
Ｃ：馬門地区での岩石の分布調査と岩石の同定
どのようにして馬門石はFeO(OH)が発生して赤く風化したのだろうか？馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の産状を調べるため，現地調査を行った。また、離れた地域での似たような岩石どうしの岩石薄片を作成し、同定作業を行った。
①現地調査（熊本県宇土市網津町馬門）
新たな林道の法面から馬門石と黒い阿蘇溶結凝灰岩との境界を観察できた。上下や左右などの規則的な境界面を成しているのではなく、境界部での色は漸移して変化して境界は不明瞭であった。よって、両者は元々同じ岩石であったと考えられる。岩石は標高により分かれており、低い位置は黒く、高い位置に赤いものが見られる傾向にあった(図５)(図６)。
②岩石薄片の観察
現在作成途中であり、今後観察を行う。岩石の肉眼鑑定では、角閃石が見られる。
【研究のまとめ】
馬門地区において馬門石の分布の詳細を明らかにした。馬門石と阿蘇溶結凝灰岩は、色の特徴を除いて、成分はほぼ同じであり、ともにヘマタイト（Fe2O3）を含まない。
現在のところ、元々黒い色をした阿蘇溶結凝灰岩が、馬門地域では岩石中の角閃石が風化し粘土鉱物化する際に、鉄が水のはたらきで赤サビが形成され、赤くなった。これが馬門石だと考えているが、断定できる状況にはない。
【今後の課題】
●赤サビと黒サビの生成条件の違いを調べる。
●黒い阿蘇溶結凝灰岩は、馬門地域の馬門石の周囲に分布するものを用いて、馬門石と磁鉄鉱の量を比較する。
●馬門の阿蘇溶結凝灰岩は、Aso-4火砕流堆積物のどのユニットのものかを明らかにする。
●角閃石の風化や粘土鉱物化、火山ガラスの脱ガラス化やその呈色について調べる。
●馬門地区の近くでの追加の分布調査や、他の地域での馬門石擬きの文献調査を行い、分布の特徴から馬門石の生成について検討する。
【参考文献】
●酸化鉄、水酸化鉄系化合物の生成と物性 高田利夫（1969）
●鉄サビ生成の現状と未解明点 三沢俊平（1983）
●阿蘇火山の生い立ち 地質が語る大地の鼓動（2003）渡辺一徳
●国土地理院地図
●熊本の自然をたずねて（2009）熊本県高等学校教育研究会地学部会
●化学辞典
●熊本日日新聞「馬門石 噴火の軌跡に触れる」2021
●化学図録 （数研出版より）
私たちの学校や地域には、古くからの水道の樋や石橋に赤い馬門石（まかどいし）が使われている（図１）。馬門石は、約９万年前のAso-4火砕流堆積物の阿蘇溶結凝灰岩の一種とされており、この馬門石に特徴的な赤色の理由に疑問を持った（図２）。文献を探すと、色の原因には鉄の参加が関係しているとの記述がみられたが、詳しいことは不明である。よって、馬門石の赤色の原因を明らかにすることにした。
鉄で赤色ものには赤さびの他に、ヘマタイト（Fe2O3）があり高温酸化によってできることが分かった。そこで、馬門石にはヘマタイトが含まれ、赤色をしていると仮説を立てた。
【研究内容】
今回はＡ：観察・実験、Ｂ：馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の成分分析、Ｃ：馬門地区での岩石の分布調査と岩石の同定を行った。
Ａ：観察・実験
①馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の違い（黒曜石レンズの有無や硬さ，磁性，磁鉄鉱の量を比較）
→馬門石は阿蘇溶結凝灰岩と比べ、柔らかく、黒曜石や磁鉄鉱が少なく磁性は乏しい。
②鉄クギを空気中と水道水中，水道水に一日つけて取り出したものとでサビの発生を観察
→空気中の鉄クギはサビが発生せず，水道水につけた鉄クギは赤サビFeO(OH)が発生。
水道水につけたままの鉄クギは最初赤サビが発生し，その後黒サビが発生した。
③ガスバーナーでの粉末（Fe、Fe2O3、阿蘇溶結凝灰岩、馬門石）の加熱実験、塩酸での溶液→10分程度加熱しても赤くならなかった。塩酸を加えた溶液は黄色になり、Fe3+を含む。
ヘマタイトの生成は容易ではない。
⇒馬門石の赤色の原因は、Fe2O3かFeO(OH)のどちらか、また、阿蘇溶結凝灰岩の黒は、磁鉄 鉱Fe3O4によると考えられる。
Ｂ：馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の成分分析
馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の成分の違いや、馬門石の赤色の原因はFe2O3かFeO(OH)のどちらかを調べたい。そこで、熊本県産業技術センターで、成分分析と電気炉での加熱を行った。
①蛍光Ⅹ線分析、Ⅹ線回折
馬門石と阿蘇溶結凝灰岩のどちらも鉄が10％ほど含まれ，成分はほぼ同じであった。鉄の酸化物としては、Fe2O3はほとんど見られなかった。馬門石の赤色の原因は、Fe2O3ではないと考えられる(図３)(図４)。
③電気炉での加熱（1,000℃で24時間加熱し、岩石に含まれる鉄を強制的にヘマタイト化）
赤い馬門石だけでなく、黒い阿蘇溶結凝灰岩も赤色になった。
⇒馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の赤と黒の原因は、岩石に含まれる鉄。
赤の原因は、ヘマタイト（Fe2O3）ではなく、FeO(OH)と考えらえる。
Ｃ：馬門地区での岩石の分布調査と岩石の同定
どのようにして馬門石はFeO(OH)が発生して赤く風化したのだろうか？馬門石と阿蘇溶結凝灰岩の産状を調べるため，現地調査を行った。また、離れた地域での似たような岩石どうしの岩石薄片を作成し、同定作業を行った。
①現地調査（熊本県宇土市網津町馬門）
新たな林道の法面から馬門石と黒い阿蘇溶結凝灰岩との境界を観察できた。上下や左右などの規則的な境界面を成しているのではなく、境界部での色は漸移して変化して境界は不明瞭であった。よって、両者は元々同じ岩石であったと考えられる。岩石は標高により分かれており、低い位置は黒く、高い位置に赤いものが見られる傾向にあった(図５)(図６)。
②岩石薄片の観察
現在作成途中であり、今後観察を行う。岩石の肉眼鑑定では、角閃石が見られる。
【研究のまとめ】
馬門地区において馬門石の分布の詳細を明らかにした。馬門石と阿蘇溶結凝灰岩は、色の特徴を除いて、成分はほぼ同じであり、ともにヘマタイト（Fe2O3）を含まない。
現在のところ、元々黒い色をした阿蘇溶結凝灰岩が、馬門地域では岩石中の角閃石が風化し粘土鉱物化する際に、鉄が水のはたらきで赤サビが形成され、赤くなった。これが馬門石だと考えているが、断定できる状況にはない。
【今後の課題】
●赤サビと黒サビの生成条件の違いを調べる。
●黒い阿蘇溶結凝灰岩は、馬門地域の馬門石の周囲に分布するものを用いて、馬門石と磁鉄鉱の量を比較する。
●馬門の阿蘇溶結凝灰岩は、Aso-4火砕流堆積物のどのユニットのものかを明らかにする。
●角閃石の風化や粘土鉱物化、火山ガラスの脱ガラス化やその呈色について調べる。
●馬門地区の近くでの追加の分布調査や、他の地域での馬門石擬きの文献調査を行い、分布の特徴から馬門石の生成について検討する。
【参考文献】
●酸化鉄、水酸化鉄系化合物の生成と物性 高田利夫（1969）
●鉄サビ生成の現状と未解明点 三沢俊平（1983）
●阿蘇火山の生い立ち 地質が語る大地の鼓動（2003）渡辺一徳
●国土地理院地図
●熊本の自然をたずねて（2009）熊本県高等学校教育研究会地学部会
●化学辞典
●熊本日日新聞「馬門石 噴火の軌跡に触れる」2021
●化学図録 （数研出版より）