日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] ポスター発表

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[O-08] 高校生ポスター発表

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球惑星科学系 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(文部科学省)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O08-P30] 多胡石の風化に関する研究

*伊藤 恭吾1、*吉田 拓実1、*白倉 進之介1島津 康行1 (1.前橋東高等学校)

キーワード:多胡石、風化、吉井町、鉱物、多胡碑、牛伏砂岩

多胡石の風化に関する研究
Research on weathering of Tago stone

*伊藤恭吾¹、*吉田拓実¹、*白倉進之介¹
*Kyogo Ito¹, *Takumi Yoshida¹, *Shinnosuke Shirakura¹

1.前橋東高等学校
1.Maebashi Higashi High School

1.研究の背景と目的

 多胡石とは群馬県高崎市南部吉井町周辺で産出される牛伏砂岩の石材名である。多胡石はユネスコ「世界の記憶」に指定されている多胡碑(図1)の石材である。多胡石は古くから吉井町周辺で利用されており、現在でも住宅の外壁、灯籠、墓石など多様な用途・形態で利用されているのが見られる。最近では壊れにくい石材もある中で壊れかけの多胡石でできたものを補強して利用するなど選択的に多胡石を利用している例も見られる。このことから吉井町周辺の住民が多胡石に愛着を持っていると考えられる。しかし、多胡石は現在採掘販売されていない。本研究はフィールド調査と風化実験を通して多胡石の風化の傾向を調べ、多胡石の保護につなげることを目的とした。

2.研究方法

2-1フィールド調査

 高崎市吉井町周辺の墓地や寺で多胡石が利用されている石材などを現地に行き調査する。調査項目は場所、用途、岩相、年代、ヒビ、削れ具合の6項目とした。さらにヒビと削れ具合は年代別に1〜4の4段階で評価し、数字が大きいほどヒビや削れ具合が大きいことを表している。調査は2021年度と2022年度に行った。

2-2風化実験

 多胡産業株式会社を訪問したときのインタビューで「多胡石は水に濡れることや、温度の変化が風化に大きく関わっているのでは」という話を聞いたことをきっかけに温度と水に焦点を当てた、風化実験を2022年度と2023年度に行った。

3.結果

3-1フィールド調査

 年代の分からないものも含めて370個調査した。
削れ具合の結果は表1の通り、1の合計の個数が一番多く、1600年代、1700年代が2の個数、他の年代は1の個数が一番多かった。
表2より、表1と同じように1の個数が一番多く、どの年代も1が一番多かった。
表3より、岩相のほとんどが砂だった。
表4より、半数以上墓石に使われており、風化しやすい多胡石でも柱や礎石などに使われていたことがわかった。

3-2風化実験

3-2-1 2022年度

 2022年度は図2の①〜⑥の実験項目で風化実験を行った。凍結と融解を繰り返した④の岩石で図3のように角がかけ、水の中においたままにした⑤の岩石で図4のように苔が生えた。

3-2-2 2023年度

 2023年度は表5の①〜⑥の実験項目で風化実験を行い、図5のように実験で使用した多胡石それぞれについて薄片を作成し、それを偏光顕微鏡を用いて図6のような格子をつけた薄片写真を各薄片5枚ずつ撮影した。そして、その交点における鉱物の状態をまとめ、風化の評価を行った。結果は、表5のようになり、高温条件の③で水酸化鉄の増加が、凍結と融解を繰り返した④で無色鉱物のヒビの増加が見られた。

4.考察

 フィールド調査から、同じ年代の多胡石でも削れ、ヒビにかなり差があるため年代だけが風化の進行に繋がるとは限らないことがわかった。サンプル数が少ないので正確ではないが一番古い1600年代はどちらも4の割合が低いため、あくまで仮説であるが、この頃は、風化に強い良質な多胡石が採掘できたと推察した。また、比較的加工がしやすい墓石は割合が多く、加工がしにくい柱や灯籠の割合は低い。これは、現存している柱や灯籠の割合が少ないため風化が進みやすく壊れてしまったら修復または新しいものを作るのに多胡石を使用することが難しいからだと推察した。

 風化実験から、多胡石は高温のときに水酸化鉄が増加しやすく、凍結と融解により風化が起きやすいことがわかった。高温のときに水酸化鉄が増加する理由は、高温時は化学反応の起きる速度が早いため、多胡石中の鉄分と空気中の酸素や水蒸気が多く反応するからだと思われる。凍結と融解による風化が起きやすい理由は、水が粒子間や鉱物間に入り込み凍結することで、水の体積が膨張し、それによって風化が引き起こされているのだと思われる。

参考文献

岡本 研
岩石の風化現象の教材化

西山賢一
日本における岩石の風化研究の進展と課題

中村康夫
岩石材料の風化指標

田中源吾・茂木由行・中嶋義明
群馬県高崎市吉井南方に分布する中新統牛伏層の地質学的考察

木宮一邦
地質学から見た岩石風化