日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

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[O-08] 高校生ポスター発表

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球惑星科学系 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(文部科学省)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O08-P29] アマチュア無線を用いたスポラディックE層の観測

*高田 隆甫1 (1.茗溪学園高等学校)

キーワード:アマチュア無線、スポラディックE層、50MHz

[スポラディックE層]
スポラディックE層(以下Es層)は4月~8月にかけてE層付近に発生する電子密度の極めて高い電離層である。通常の電離層では反射されない超短波帯の電波を反射する特性を持ち、発生時には当該周波数において超遠距離通信が可能となる。
[動機と目的]
スポラディックE層はこれまで様々な方法で観測が行われてきた。情報通信研究機構(以下NICT)はイオノゾンデと呼ばれる観測を行っており、観測結果はWeb上で公開されている。しかし、イオノゾンデ観測はEs層の発生の有無の情報しか得ることができず、Es層の発生地点や、実際にどの地点間の伝搬が引き起こされたのかを知ることはできない。また、NICTが展開するイオノゾンデ観測の設備は全国に4カ所しかなく、日本周辺で発生するすべてのEs層の発生は観測できていないと考えられる。GNSSを用いた観測方法も多くあり、その一つにGPS-TEC法がある。これは、観測衛星と地上のGPS観測点を用いて、衛星と観測点間の全電子数を観測することにより、Es層の発生地点を記録するというものである。Es層の発生地点や概形、発生地点の移動の様子を正確に記録できるのが利点であるが、観測限界が臨界周波数17MHz付近のEs層と、観測対象が比較的強いEs層に限られることや、Es層によってどの地点間の伝搬が引き起こされたのかを知ることはできないという課題がある。
以上より、既存の観測方法では得ることの難しい「ある周波数において、Es層によってどの地点間の伝搬が引き起こされたのか」「強いEs層に限らず、すべてのEs層の発生地点、水面方向の形状、発生地点の移動の様子」の情報を取得したいと考え、アマチュア無線を用いた観測方法を考案した。本研究の目的は、アマチュア無線を用いてEs層を観測し、本観測方法の利点と課題点を明確にすることである。
[観測方法]
アマチュア無線の周波数と通信方式である50MHz帯 FT8モードの信号を受信し、記録する。そして、無線局の呼出符号と信号の電界強度の変化から、Es層の発生とその規模の変化、伝搬が引き起こされた地域の情報を得る。また、呼出符号から送信局のおよその地点を特定し、送信局と本観測地点の中間にEs層が発生していたと考えて、Es層の発生地点を地図上にプロットする。観測設備の概略図を図1に示す。観測地点は茨城県つくば市茗溪学園高等学校の屋上(地上高約12m)、アンテナはダイポールアンテナである。2023年5月~2023年8月まで継続して観測を行い、150万件以上のデータを取得した。
[結果と考察]
まず、信号の電界強度の変化を示すグラフ(図2,図3)を示す。グラフは信号の電界強度の変化を大変分かりやすく示しており、Es層の持続時間の情報を得ることができ、また持続時間とある時間の電界強度の平均を比べることでEs層の規模を評価することも可能である。課題点はスポラディックE層が原因の断続的な入感と、無線局の不規則な送受信の繰り返しによる断続的な入感との区別が非常に難しく、正確にEs層の規模や伝搬の様子を観測できない場合があるということである。また、各無線局のアンテナや送信出力も異なるため、1つの観測点だけでEs層の規模を評価することは困難である。これらの問題を解決するためには、同じインターバルで送信と受信をくりかえす無線局を日本全国に複数設置する必要がある。
つづいて、Es層の発生地点をプロットした地図(図4)を示す。赤い点の集合がEs層である。ほとんどは東西や、やや南北に延びる概形をしており、純粋に列島を南北に縦断する概形のEs層は観測されなかった。これは、GNSS等による観測結果と一致する。GNSS等による観測同様、Es層の概形や移動の様子を記録することができることができた。また、本観測方法は、臨界周波数の比較的低いEs層についてもその発生地点を記録できるため、他の観測方法と比べこの点で本観測方法に優位性があることが分かった。課題点は、地域によってアマチュア無線局数に大きく偏りがあるためにプロット間隔が広くなり概形を掴みづらい場合があることや、無線局の条件(送信時間や出力、アンテナ等)の変化が強く影響し、Es層の移動の様子や速度を正しく観測できない場合があることである。これらの課題点の克服には、観測に複数種類のアンテナを用いることや、観測設備を全国の複数箇所に設置することが必要である。
[まとめ]
FT8モードを用いてEs層の観測を行うことで、Es層によって異常伝搬が引き起こされた地域やEs層の発生地点の情報を得ることができることが分かった。本観測方法は今後のEs層観方法の選択肢の一つになりうるだろう。