日本地球惑星科学連合2024年大会

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[O-08] 高校生ポスター発表

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球惑星科学系 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(文部科学省)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O08-P36] 逃げ水観測時の温度測定に基づく光路と実測との比較

*谷川 悠1、*髙野 光沙1 (1.京都府立嵯峨野高等学校 地学(気象)ラボ群)

キーワード:空気屈折率、全反射、検証実験

動機と目的
 逃げ水は、夏の暑い時期に起こる現象で、あたかも地面に水があり地面付近の物体や遠くの空などが水に映っているかのように見える現象である。逃げ水が発生する原因は、温度差によって空気の屈折率が変化し、光路が曲げられることとされており、中田(2020)によると蜃気楼の一種であると考えられている1)。石川(2011)は、逃げ水は比較的低温でも発生することと、原因は屈折ではなく全反射である可能性について言及している2)
 私たちは逃げ水は、屈折ではなく全反射によるものであるとして研究を行った。
 逃げ水観測時に温度測定を行い、逃げ水は全反射によるとして温度から推定される光路と、実測した距離からわかる光路との比較を行った。

方法
観測1:まず(写真2)のように逃げ水が見られた約240mの一部勾配のある見通しのよい直線道路で逃げ水の起こり方を推定するために、距離と温度を測定した。距離は逃げ水を見た地点と反転して見えた物体(足)のある地点の距離、その物体の高さ、逃げ水を見た視点の高さを測定し、温度は地面自体と地面から106cmまでを5層に分けた空気を温度センサA(液温用)(イージーセンス用)(型番 E31-6990-01,date harvest社製,最小表示 0.1℃)を用いて測定した。温度センサAは、日射等熱放射の影響を小さくするために、(写真3)のように穴を開けてハンディファン(型番51212 ,artec社製)を取り付けた発泡スチロールの箱に入れた。「空気の屈折率を気圧、温度、光の波長から算出するツール」で空気の温度から屈折率を求め、逃げ水は全反射によるものとしたときの温度による推定値と実測値との比較を行った3)
観測2:校舎のベランダの腰壁上面においても(写真4)のように逃げ水が観測できたため、距離、温度を測定した。校舎のベランダは水平にある。距離は上と同様に測定し、温度はベランダ腰壁上面を赤外線サーモグラフィー フリアーC2(型番 72001-0101,岩崎通信機株式会社製,最小表示 0.1℃)を用いて測定した。測定結果を観測1と同様に、空気の温度から屈折率を求めて、推定値と実測値との比較を行った。
実験:小規模で計算における誤差が小さいであろう鉄板でも逃げ水を観測できると考え、(写真5)のように机の上に直線2mの鉄板、鉄板の下にリボンヒーターを置き、鉄板を温め、そこにレーザーポインターの光を入射させた。レーザーポインターの光は、室温と鉄板を温めた後の鉄板の温度との臨界角より大きい入射角で鉄板に入射させた。次に鉄板を温めてレーザーポインターの光の見え方を観察した。

結果
観測時の屈折率において、全反射によって逃げ水が見えるために必要となる観測地点と反転像の物体の距離を計算した。
観測1では、地面の温度は40.7℃、地上50㎝での空気の温度は34.4℃であった。このとき37mの距離で全反射が観測できたことに対して、温度からの推定では179.8mであり、実測と推定との差異は500%程度であった。(表1)参照。その差異は、臨界角の小さな違いが全反射に必要な距離に大きく影響するにもかかわらず、道路に勾配を考えられていないこと、それに加え気流や日射の強さなど温度にかかわる要因を考えられていないことで生じたと考えている。
観測2では、ベランダの腰壁上面の温度は38.0℃、空気の温度は18.3℃であった。このとき7.05mの距離で全反射が観測できたことに対して、温度による推定では4.73mであり、実測と推定との差異は30%程度であった。(表1)参照。この差異は十分小さく、(図1)のように全反射が起きたと考えるのは妥当である。
実験では、レーザーポインターの光は鉄板温度が43℃を上回ってから鉄板に当たらず、直接壁に当たった。壁側からレーザーポインター側をかなり鉄板とほぼ同じ高さから観測しても鉄板付近の物体は伸びて見えるだけで、逃げ水を観察することはできなかった。温度からの推定では、レーザーポインターの光は全反射というより、屈折して鉄板の0.6cm上を通ると考えられた(図2)。全反射が起こらなかった原因は十分な温度差もしくは距離がなかったからであると考える。

結論
観測1、観測2から逃げ水は全反射によって起こる。今回、実験においては逃げ水を観測することができなかったが、今後さらに距離、温度の条件を工夫して実験をすることで、逃げ水が起こるときの詳細な温度測定を行うことができると考えている。

参考文献
1)一 般, 中田 潔「逃げ水・浮島・蜃気楼」現象の統一的分析、日本物理学会 第75年次大会(2019年) 概要集

2)石川 昌司 2011 逃げ水の物理 
日本物理教育学会北海道支部会報「物理教育研究 Vol.39」
http://www8.plala.or.jp/stoneriver/ronbun/nigemizu/nigemizu.pdf、参照日:2024年4月9日

3)情報対策試験室、空気の屈折率を気圧、温度、光の波長から算出するツール
https://joho-taisaku.com/tools/refractive-index/、参照日:2024年4月11日