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[O08-P66] 放射線モニタ「コガモ」により測定された環境放射線と気象要素の関係
キーワード:放射線、天気、雷雲
1.背景と目的
環境放射線は、宇宙放射線と天然放射性核種からの放射線に大別される。宇宙放射線は大気の層を通過して地上に飛来するため、大気の状態と地上で観測される宇宙放射線の数との間には相関があると考えられる。また、天然放射性核種についても、気象条件によって地上での存在量が変化すると考えられる。
放射線モニタ「コガモ」は、雷雲によって発生し地上に降り注ぐガンマ線を市民サポーターと連携して観測する市民科学「雷雲プロジェクト」によって一般家庭に配布されており、石川県金沢市を中心に広大な観測網が展開されている。
本研究では、コガモで観測された放射線のデータと、気象台で観測された気温・湿度・気圧といった気象要素との間の相関を解析し、環境放射線と気象の関係を明らかにすることを目的とする。
2.手法
石川県に設置された放射線モニタ「コガモ」(図1)の中から、観測期間や観測地点を考慮して5台選択し、その放射線検出頻度と金沢気象台で観測された気温、湿度、気圧のデータの相関を調査した。気温については2023年11月21日~11月23日の3日分の観測データを使用して、放射線エネルギー毎に相関解析を行った。湿度・気圧については放射線エネルギー領域3~8 MeVのデータを使用し、11月31日~2024年1月25日の8週間分について、2週間分の解析4回に分けて行った。
3.結果・考察
①気温との相関について
5台のコガモのうち3台では、放射線エネルギー3MeV以下の範囲で気温と検出頻度の間に相関が見られ、3 MeVを超えるエネルギー領域の放射線では相関が見られなかった(図2)。別の1つのコガモはすべてのエネルギー領域で相関がみられず、もう1つのコガモは1~2MeVのエネルギー範囲でのみ負の相関が見られた。
コガモ個体毎に相関が異なる理由の考察として、コガモの設置場所が屋内外のどちらに設置したかを考慮しておらず、屋内に設置した場合は環境放射線を検出しにくくなっていると考えられる。また、コガモは個体毎に信号対ノイズ比の差があり、この影響があると考えられる。
また、3台のコガモで3MeV以下のエネルギー領域で気温と検出頻度に負の相関を持つことについて、実際に気温の上昇に伴って放射線の量が減少している可能性と、コガモに搭載されている光検出器の性質が関係している可能性の両方が考えられる。光検出器の増倍率が周囲温度と負で比例していることが知られているため、周囲の温度が高くなると、コガモに同じエネルギーの放射線が入射し電気信号が出力される際に、電圧が低く(エネルギーが低く)出力されると考えられる。負の相関が見られなかったエネルギー領域は3MeV以上であり、負の相関が見られた領域の0~3MeVと比べて広い範囲となっている。したがって、周囲温度の上昇による光検出器の影響を受けにくいと考えられる。これを確認するために、今後は検出器で測定したエネルギースペクトルを温度範囲毎に調査し、温度に対する信号電圧の変化を詳しく調査する予定である。
②湿度・気圧との相関について
湿度とコガモの検出頻度の間には相関が見られなかった。一方、気圧と検出頻度の間にはすべてのコガモで負の相関が見られた。表1は今回用いたコガモのうち1つのコガモでの湿度・気圧と検出頻度の相関係数を、2週間毎に算出したものである。12月14日から12月28日の期間では、気圧との負の相関が強く見られる傾向があった。気圧と検出頻度に負の相関が見られた理由として、3~8 MeVのエネルギー領域は宇宙放射線が主であると考えられる。そのため、気圧が高いと大気にある粒子の数が多く(密度が高く)、宇宙放射線が大気と相互作用する確率が高くなるために地上での検出頻度が低くなると考えられる。また、気圧は降雨や降雪に大きくかかわる。今後は降雨や降雪時のみのコガモのデータを抜き出し、より詳しく気象との相関の調査を行う予定である。
4.参考文献
[1]M. Tsurumi, Citizen science observation of a gamma-ray glow associated with the initiation of a lightning flash. Geophysical Research Letters, 50, e2023GL103612 (2023)
[2]熊谷洸希, 秋田県における地上でのμ粒子検出頻度と天気ごとの地上気温、湿度、気圧との偏相関”, Journal of Science EGGS Volume4, 2110004 (2021)
環境放射線は、宇宙放射線と天然放射性核種からの放射線に大別される。宇宙放射線は大気の層を通過して地上に飛来するため、大気の状態と地上で観測される宇宙放射線の数との間には相関があると考えられる。また、天然放射性核種についても、気象条件によって地上での存在量が変化すると考えられる。
放射線モニタ「コガモ」は、雷雲によって発生し地上に降り注ぐガンマ線を市民サポーターと連携して観測する市民科学「雷雲プロジェクト」によって一般家庭に配布されており、石川県金沢市を中心に広大な観測網が展開されている。
本研究では、コガモで観測された放射線のデータと、気象台で観測された気温・湿度・気圧といった気象要素との間の相関を解析し、環境放射線と気象の関係を明らかにすることを目的とする。
2.手法
石川県に設置された放射線モニタ「コガモ」(図1)の中から、観測期間や観測地点を考慮して5台選択し、その放射線検出頻度と金沢気象台で観測された気温、湿度、気圧のデータの相関を調査した。気温については2023年11月21日~11月23日の3日分の観測データを使用して、放射線エネルギー毎に相関解析を行った。湿度・気圧については放射線エネルギー領域3~8 MeVのデータを使用し、11月31日~2024年1月25日の8週間分について、2週間分の解析4回に分けて行った。
3.結果・考察
①気温との相関について
5台のコガモのうち3台では、放射線エネルギー3MeV以下の範囲で気温と検出頻度の間に相関が見られ、3 MeVを超えるエネルギー領域の放射線では相関が見られなかった(図2)。別の1つのコガモはすべてのエネルギー領域で相関がみられず、もう1つのコガモは1~2MeVのエネルギー範囲でのみ負の相関が見られた。
コガモ個体毎に相関が異なる理由の考察として、コガモの設置場所が屋内外のどちらに設置したかを考慮しておらず、屋内に設置した場合は環境放射線を検出しにくくなっていると考えられる。また、コガモは個体毎に信号対ノイズ比の差があり、この影響があると考えられる。
また、3台のコガモで3MeV以下のエネルギー領域で気温と検出頻度に負の相関を持つことについて、実際に気温の上昇に伴って放射線の量が減少している可能性と、コガモに搭載されている光検出器の性質が関係している可能性の両方が考えられる。光検出器の増倍率が周囲温度と負で比例していることが知られているため、周囲の温度が高くなると、コガモに同じエネルギーの放射線が入射し電気信号が出力される際に、電圧が低く(エネルギーが低く)出力されると考えられる。負の相関が見られなかったエネルギー領域は3MeV以上であり、負の相関が見られた領域の0~3MeVと比べて広い範囲となっている。したがって、周囲温度の上昇による光検出器の影響を受けにくいと考えられる。これを確認するために、今後は検出器で測定したエネルギースペクトルを温度範囲毎に調査し、温度に対する信号電圧の変化を詳しく調査する予定である。
②湿度・気圧との相関について
湿度とコガモの検出頻度の間には相関が見られなかった。一方、気圧と検出頻度の間にはすべてのコガモで負の相関が見られた。表1は今回用いたコガモのうち1つのコガモでの湿度・気圧と検出頻度の相関係数を、2週間毎に算出したものである。12月14日から12月28日の期間では、気圧との負の相関が強く見られる傾向があった。気圧と検出頻度に負の相関が見られた理由として、3~8 MeVのエネルギー領域は宇宙放射線が主であると考えられる。そのため、気圧が高いと大気にある粒子の数が多く(密度が高く)、宇宙放射線が大気と相互作用する確率が高くなるために地上での検出頻度が低くなると考えられる。また、気圧は降雨や降雪に大きくかかわる。今後は降雨や降雪時のみのコガモのデータを抜き出し、より詳しく気象との相関の調査を行う予定である。
4.参考文献
[1]M. Tsurumi, Citizen science observation of a gamma-ray glow associated with the initiation of a lightning flash. Geophysical Research Letters, 50, e2023GL103612 (2023)
[2]熊谷洸希, 秋田県における地上でのμ粒子検出頻度と天気ごとの地上気温、湿度、気圧との偏相関”, Journal of Science EGGS Volume4, 2110004 (2021)