日本地球惑星科学連合2024年大会

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[O-08] 高校生ポスター発表

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球惑星科学系 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(文部科学省)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O08-P71] ハマサンゴ属とキクメイシ属の侵食作用の受け方の比較

*都筑 暖和1 (1.北海道札幌南高等学校)

キーワード:サンゴ骨格、侵食作用、骨格構造

鹿児島県の喜界島の沿岸には、化石サンゴによって形成された段丘があり、完新世のサンゴの炭素固定量を推定することができる。しかし、侵食作用によるサンゴ骨格の残存の仕方は一様ではない。 今回は、 侵食作用のうち化学的な侵食作用と物理的な侵食作用に焦点を当て、サンゴの種類の骨格構造の違いによる侵食作用の受け方の違いを明らかにすることを目的に実験を行った。

本研究では喜界島で採取されたハマサンゴ属とキクメイシ属の骨格を用い、溶食作用と物理的侵食作用の受け方を比較する実験を行ったほか、光学顕微鏡によるそれぞれの骨格構造の観察を行った。溶食作用では一辺約4cmの立方体ほどの大きさのハマサンゴ属とキクメイシ属の骨格を2.5%、5.0%に希釈した塩酸に一定時間浸し、その前後の乾燥重量を測定して経過時間ごとのサンゴ骨格の溶け残る割合の変化を比較した。また、溶食作用を与えている間の塩酸と炭酸カルシウム骨格の化学反応によって発生する二酸化炭素の量や溶け残った骨格の様子を比較した。物理的侵食作用ではハマサンゴ属とキクメイシ属の骨格(約20cm四方)に1.5インチの穴を空け、ポットホールを再現した。水で満たされた箱に入れられた骨格に、ミルクフォーマーによって穴の中に水流を造り、侵食作用を計1時間半与え、侵食作用を与えている間の様子を観察した。

溶食作用の実験では、塩酸2.5%の場合はキクメイシ属のほうが速く溶けた。塩酸5%の場合は最初はハマサンゴ属のほうが速く溶食されていたものの途中からはキクメイシ属のほうが速くなった。塩酸5.0%・2.5%の両方の場合で共通して最終的にはキクメイシ属のほうが速く溶食が進んだ。経過時間による骨格の溶け残る割合はどちらの種類でも一定ではなかった。溶食中の化学反応による二酸化炭素の発生する様子については、塩酸5.0%・2.5%のどちらの場合もハマサンゴ属のほうが気泡の発生量が多く徐々にキクメイシ属のほうが多くなった。また、溶食後のキクメイシ属の骨格では軸中まわり、共壁の部分が溶け残っている様子が見られた(Figure 1)。物理的侵食作用の実験では、サンゴ骨格自体の外観からは目立った変化は見られなかったが、侵食作用を与えている間の様子については、骨格が削れて出てくる粉の量とそれにより水が濁る速さはハマサンゴ属の方が多く、速かったことからキクメイシ属よりハマサンゴ属のほうが物理的侵食作用を受けやすそうであった。光学顕微鏡による観察では、骨格の微細構造の各要素の厚みが、キクメイシ属のほうが厚かった(Table 1)。

溶食実験でのキクメイシ属のほうが速く溶食が進んだという結果と先行研究でハマサンゴ属のほうがキクメイシ属より骨格密度が大きいことや、溶食後のキクメイシ属の骨格において密度の高そうな部位が目立って溶け残っていた(Figure 1)ことから、骨格密度が高い骨は溶食される速さが遅いことが考えられる。物理的侵食作用の実験でハマサンゴ属のほうが侵食されやすかったのは、孔が少ない場合は入ったひびが孔の阻害を受けずにひび割れが進むが、孔が多い場合には孔によってひび割れが阻害される(松原ほか,2012)ことと関連付けて考えられる。光学顕微鏡の観察から、ハマサンゴ属の骨格構造は全体的にキクメイシ属の骨格より細く小さく、ハマサンゴ属のほうが単位面積当たりの空洞の数が多いと言える。このことから、ハマサンゴ属の骨格ではひび割れの進行が遮られる回数は多くなるが、その後新たなひびができる回数も多くなることで侵食が促進されていることが考えられる。

サンゴの種類による溶食作用と物理的侵食作用の受けやすさの違いは骨格の構造に関連し、骨密度が低い場合には酸による溶食作用を受けやすく、物理的侵食作用を受けにくいことが考えられた。今後の展望として、他の種類のサンゴや同じサンゴの異なる部位など比較対象を増やし、詳細に分ける必要がある。その他、実験上での結果が自然の中でどのように現れているのか、ということを調べていきたいと思う。