13:45 〜 15:15
[O08-P72] 気象条件から遠方の見え方は予測できるか
キーワード:視程、気象条件、浮遊粒子状物質 (SPM)、観測
Ⅰ. はじめに
台風の通過後、普段よりも大気の透明度が改善されたことに気がついた。それに関して次第に気象条件が視程の変化に影響しているのではないかと考えるようになり、本研究に至った。
ここでは、視程の変化の条件を明らかにし、視程の予測を可能にすることを目的としている。
Ⅱ. 研究手法
予め定めた15個の目標物を自宅から毎朝7時頃にデジタル一眼レフカメラで撮影する。その際の目標物の見え方を色味や輪郭の様子から主観的に5段階に分類し、画像や言語化した指標(画像有)を基にその日の視程を判定する。割り出した視程を気象庁アメダスや環境省「そらまめくん」のデータなどと参照し、視程の変化の要因を分析する。ここで、「視程」とは気象庁で定義されているものと異なり「観測を行った当日に視認できた目標物の中で、観測地点から最も遠いものまでの距離」と定義する。
観測期間は2022年7月15日から2023年12月3日まで。そのうち分析には2023寒候年の期間を使用した。また、観測目標物には横浜ランドマークタワーや富士山、塩見岳がある。
Ⅲ. 結果
先ず、視程と気象要素の関係について分析を行った。その結果、視程と最も関わりのある要素は相対湿度と絶対湿度であることが分かった。一方で、その決定係数は平均して0.2前後と低く、視程により強く影響する他の要因があることが考えられた。
そこで、以前から吸水性や吸湿性の性質から視程の変化への影響が考えられた浮遊粒子状物質(SPM)に着目し、分析を行った。その結果、SPM濃度と視程の間に相関係数-0.80以下のかなり強い負の相関があること、SPM濃度と相対湿度(日別値)との間に相関係数0.52の正の相関があること、降雨によってSPM濃度が低下する場合があることが分かった。
また、SPM濃度とは別に、目標物の見え方に関してより遠方の目標物ではSPM濃度の変化だけではなくその場所の天候(降雨や雲の湧き方)などによっても視認の判定が左右されることが分かった。
Ⅳ. 考察・分析
視程の変化の主な要因は大気中のSPM濃度であり、湿度や天候の変化の影響を受ける。特に降雨やそれに伴う空気の入れ替わりによって大気中のSPM濃度の減少が顕著な場合があり、晴天が長期間続いた場合にもそういった現象によって視程が改善する事がある。一方で遠方の目標物では、目標物近傍の天候などの条件が観測地点からの見え方に影響するため、全ての目標物についてSPM濃度との関係は断言できない。
また、現段階で視程の予測は困難である。
Ⅴ. 今後の展望
今後は個々の気象条件や大気汚染物質が視程の変化に与える影響度を回帰分析によって評価し、予測に向けた分析を進めていく。
参考文献
・上田紗也子. 三浦和彦. 都心における大気エアロゾル粒子の湿度特性の季節変化. 大気環境学会誌. 2007, 第42巻, 第6号, p.339-349. https://www.jstage.jst.go.jp/article/taiki1995/42/6/42_6_339/_pdf, (参照2023-03-22)
・岡田益己. 農業気象(J. Agr. Met.). 湿度および関係諸量の計算法. 1985, 40, 4, 407-409. https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet1943/40/4/40_4_407/_pdf, (参照2023-08-08)
・環境省. “SPMとオキシダントの生成メカニズム”. 環境省. https://www.env.go.jp/content/000049544.pdf, (参照2023-10-25)
・環境省大気汚染物質広域監視システム そらまめくん
・気象庁HP
・気象庁. “気象観測の手引き”.気象庁. https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kansoku_guide/tebiki.pdf, (参照2023-02-02)
・田口小桃 :”立川高校における50年間の視程の変化と戦後の大気汚染について”. 日本気象学会, 2019-05.
・日本気象協会HP tenki.jp
・安原拓未 :”立川高校における視程について”. 日本気象学会, 2021-05.
謝辞
この研究を行うにあたって助言を下さった国立研究開発法人防災科学技術研究所の鈴木様、出世様にこの場を借りて感謝申し上げます。
台風の通過後、普段よりも大気の透明度が改善されたことに気がついた。それに関して次第に気象条件が視程の変化に影響しているのではないかと考えるようになり、本研究に至った。
ここでは、視程の変化の条件を明らかにし、視程の予測を可能にすることを目的としている。
Ⅱ. 研究手法
予め定めた15個の目標物を自宅から毎朝7時頃にデジタル一眼レフカメラで撮影する。その際の目標物の見え方を色味や輪郭の様子から主観的に5段階に分類し、画像や言語化した指標(画像有)を基にその日の視程を判定する。割り出した視程を気象庁アメダスや環境省「そらまめくん」のデータなどと参照し、視程の変化の要因を分析する。ここで、「視程」とは気象庁で定義されているものと異なり「観測を行った当日に視認できた目標物の中で、観測地点から最も遠いものまでの距離」と定義する。
観測期間は2022年7月15日から2023年12月3日まで。そのうち分析には2023寒候年の期間を使用した。また、観測目標物には横浜ランドマークタワーや富士山、塩見岳がある。
Ⅲ. 結果
先ず、視程と気象要素の関係について分析を行った。その結果、視程と最も関わりのある要素は相対湿度と絶対湿度であることが分かった。一方で、その決定係数は平均して0.2前後と低く、視程により強く影響する他の要因があることが考えられた。
そこで、以前から吸水性や吸湿性の性質から視程の変化への影響が考えられた浮遊粒子状物質(SPM)に着目し、分析を行った。その結果、SPM濃度と視程の間に相関係数-0.80以下のかなり強い負の相関があること、SPM濃度と相対湿度(日別値)との間に相関係数0.52の正の相関があること、降雨によってSPM濃度が低下する場合があることが分かった。
また、SPM濃度とは別に、目標物の見え方に関してより遠方の目標物ではSPM濃度の変化だけではなくその場所の天候(降雨や雲の湧き方)などによっても視認の判定が左右されることが分かった。
Ⅳ. 考察・分析
視程の変化の主な要因は大気中のSPM濃度であり、湿度や天候の変化の影響を受ける。特に降雨やそれに伴う空気の入れ替わりによって大気中のSPM濃度の減少が顕著な場合があり、晴天が長期間続いた場合にもそういった現象によって視程が改善する事がある。一方で遠方の目標物では、目標物近傍の天候などの条件が観測地点からの見え方に影響するため、全ての目標物についてSPM濃度との関係は断言できない。
また、現段階で視程の予測は困難である。
Ⅴ. 今後の展望
今後は個々の気象条件や大気汚染物質が視程の変化に与える影響度を回帰分析によって評価し、予測に向けた分析を進めていく。
参考文献
・上田紗也子. 三浦和彦. 都心における大気エアロゾル粒子の湿度特性の季節変化. 大気環境学会誌. 2007, 第42巻, 第6号, p.339-349. https://www.jstage.jst.go.jp/article/taiki1995/42/6/42_6_339/_pdf, (参照2023-03-22)
・岡田益己. 農業気象(J. Agr. Met.). 湿度および関係諸量の計算法. 1985, 40, 4, 407-409. https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet1943/40/4/40_4_407/_pdf, (参照2023-08-08)
・環境省. “SPMとオキシダントの生成メカニズム”. 環境省. https://www.env.go.jp/content/000049544.pdf, (参照2023-10-25)
・環境省大気汚染物質広域監視システム そらまめくん
・気象庁HP
・気象庁. “気象観測の手引き”.気象庁. https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kansoku_guide/tebiki.pdf, (参照2023-02-02)
・田口小桃 :”立川高校における50年間の視程の変化と戦後の大気汚染について”. 日本気象学会, 2019-05.
・日本気象協会HP tenki.jp
・安原拓未 :”立川高校における視程について”. 日本気象学会, 2021-05.
謝辞
この研究を行うにあたって助言を下さった国立研究開発法人防災科学技術研究所の鈴木様、出世様にこの場を借りて感謝申し上げます。