13:45 〜 15:15
[O08-P73] 星の瞬きと高層気象~星と気象を結びつける~
キーワード:星の瞬き、高層気象、風
1.はじめに
小学生の時、天体観測のイベントで星の瞬きは日によって異なることに気づいた。そこで、瞬きを定量化し、日毎の気象要素との因果関係を発見することを目的とした。
2.方法
①観測…気象庁による高層気象観測が行われる21:10-21:40に荒川土手下で行う。一眼レフカメラと天体望遠鏡(口径80mm,焦点距離900mm)を接続し、星を30秒間、動画として撮影する。
②動画分析…ソフト(プログラミング作業はKTEさんにお願いした)で行う。
○ソフトで行われる作業1)
1.動画をフレーム画像(計720枚)に分解
2.各画像の、星が写っているピクセルの平均輝度を抽出2)
③定量化…フレーム画像の輝度データから変動係数をとる。10個の星の変動係数の平均を瞬きの指標として、瞬き偏差と定義する。 ※変動係数…標準偏差を平均値で割ったもの(図1)。
3. 瞬き三要素―「星の等級・高度・気象要素」
予備観測(2022年夏)の結果から、星の等級・高度・気象要素の三変数が瞬き偏差と相関することが分かった。気象要素との対照実験のためには、等級・高度の二変数を消去する必要がある。
○変数「星の等級」の消去
フレーム画像の平均輝度と標準偏差には、比例関係がみられた(図2)。
標準偏差=傾きa×平均輝度 とおくと、
瞬き偏差の定義(図1)は傾きaを表す。aは日毎の気象により変化することも分かった。よって、傾きa(=瞬き偏差)は平均輝度(=星の明るさ)の影響を受けない、瞬きの指標になると考えられる。
○変数「星の高度」の消去
星の高度により星光の大気通過距離は変化し、その大気通過距離は計算できる(図3)。瞬き偏差と大気通過距離は強く相関する(図4)ため、観測において大気通過距離は一定にしたい。大気通過距離の計算結果(図5)より、大気通過距離が1.1以下となる高度65°以上の星に限れば、高度の影響を無視できると考えられる。
4. “人”が見る瞬きと“機械”が見る瞬き
自身の目で天頂付近の星の瞬き度合いを6段階で評価した。瞬き度合いは、機械が判断する瞬き偏差と正に相関した(図6)ことから、カメラと人間の目、それぞれが捉える瞬きの相対評価はおおよそ一致すると考えられる。
5.瞬き偏差と気象要素
2023年10月29日~2024年1月15日までの計23日分の観測データを用いた。
○星の瞬きの要因
空気屈折率の異なる気団が「風」によって動かされることで、光路が変化する(図7)。ゆえに、瞬きに影響を与える気象要素は大きく2つに分けることができる。気団を動かす「風」と「屈折率に影響する要素」だ。
○“風”と瞬き偏差
空気密度の影響力も加味した補正風速を定義し、高層各層の補正風速の和(総和風速)を求めた。総和風速と瞬き偏差は強く正に相関した(図8)。
○“屈折率に影響する要素”と瞬き偏差
重回帰分析を用いて「屈折率に影響する要素」の影響力を調べた(図9)。P値・有意Fがともに0.01よりも小さいため、有意な結果が得られたといえる。補正決定係数も0.935と大きく、良いモデルが得られた。
◎重回帰分析の結果ー高層
・総和風速…正に影響
T値が大きく、P値が非常に小さいことから、瞬きに最も大きく影響する要素であることが分かる。
・空気密度平均偏差…正に影響
高層の空気密度のばらつきが大きいほど瞬くと考えられる。
・絶対湿度平均…負に影響
水蒸気が多いと星像が霞み、明暗の変化が弱まるためだと考えられる。実際、水蒸気が多い日と少ない日の瞬きを比較すると、水蒸気の多い日の輝度変化は小さくなっていることが分かる(図10)。
◎重回帰分析の結果ー地上
・空気屈折率…負に影響
原因は現在調査中。
・20時空気屈折率―21時空気屈折率…正に影響
放射冷却の影響で通常は21時屈折率のほうが大きくなるが、上空の強くて暖かい風が地上に吹き降りてくるときは20時屈折率のほうが大きくなる。よって、20時空気屈折率―21時空気屈折率>0のときは上空の強い風が広範囲で吹いているため、瞬きやすいと考えられる。
・平均風速…負に影響
風が強い日は望遠鏡の揺れにより、星像がぼやけてしまったためと考えられる。シャッタースピードを上げ、改善したい。
6.星の瞬きを予測する
予測にあたって、次の天気予報を用いる。
・earth:高層天気予報
・天気(Appleのアプリ):地上天気予報
重回帰分析の結果得られた回帰式に天気予報の値を代入することで、推定瞬き偏差を得る。その値によって、4日先の未来まで、5段階の瞬きレベルを予想しようと考えている(図11)。
7.おわりに
星の瞬きの最も大きな要因は「風」であることが分かった。また、重回帰分析の結果から、空気屈折率に関わる他の気象要素の影響力も調べられた。現在、この結果と天気予報を用いて、瞬きの予測に取り組んでいる。
8.謝辞
本研究の遂行にあたり、ソフトを作成していただいた KTE 様、助言をくださった国立研究開発法人防災科学研究所の出世様に、この場を借りて感謝を申し上げます。
9.参考文献
1)日本天文学会 “恒星の瞬きの数値化と変動天体の光度測定-國學院大學栃木高等学校”
https://www.asj.or.jp/jsession/old/2014haru/yokou2014/05.pdf
2)OpenCV-配列操作 http://opencv.jp/opencv-2.1/cpp/operations_on_arrays.html#cv-mean
小学生の時、天体観測のイベントで星の瞬きは日によって異なることに気づいた。そこで、瞬きを定量化し、日毎の気象要素との因果関係を発見することを目的とした。
2.方法
①観測…気象庁による高層気象観測が行われる21:10-21:40に荒川土手下で行う。一眼レフカメラと天体望遠鏡(口径80mm,焦点距離900mm)を接続し、星を30秒間、動画として撮影する。
②動画分析…ソフト(プログラミング作業はKTEさんにお願いした)で行う。
○ソフトで行われる作業1)
1.動画をフレーム画像(計720枚)に分解
2.各画像の、星が写っているピクセルの平均輝度を抽出2)
③定量化…フレーム画像の輝度データから変動係数をとる。10個の星の変動係数の平均を瞬きの指標として、瞬き偏差と定義する。 ※変動係数…標準偏差を平均値で割ったもの(図1)。
3. 瞬き三要素―「星の等級・高度・気象要素」
予備観測(2022年夏)の結果から、星の等級・高度・気象要素の三変数が瞬き偏差と相関することが分かった。気象要素との対照実験のためには、等級・高度の二変数を消去する必要がある。
○変数「星の等級」の消去
フレーム画像の平均輝度と標準偏差には、比例関係がみられた(図2)。
標準偏差=傾きa×平均輝度 とおくと、
瞬き偏差の定義(図1)は傾きaを表す。aは日毎の気象により変化することも分かった。よって、傾きa(=瞬き偏差)は平均輝度(=星の明るさ)の影響を受けない、瞬きの指標になると考えられる。
○変数「星の高度」の消去
星の高度により星光の大気通過距離は変化し、その大気通過距離は計算できる(図3)。瞬き偏差と大気通過距離は強く相関する(図4)ため、観測において大気通過距離は一定にしたい。大気通過距離の計算結果(図5)より、大気通過距離が1.1以下となる高度65°以上の星に限れば、高度の影響を無視できると考えられる。
4. “人”が見る瞬きと“機械”が見る瞬き
自身の目で天頂付近の星の瞬き度合いを6段階で評価した。瞬き度合いは、機械が判断する瞬き偏差と正に相関した(図6)ことから、カメラと人間の目、それぞれが捉える瞬きの相対評価はおおよそ一致すると考えられる。
5.瞬き偏差と気象要素
2023年10月29日~2024年1月15日までの計23日分の観測データを用いた。
○星の瞬きの要因
空気屈折率の異なる気団が「風」によって動かされることで、光路が変化する(図7)。ゆえに、瞬きに影響を与える気象要素は大きく2つに分けることができる。気団を動かす「風」と「屈折率に影響する要素」だ。
○“風”と瞬き偏差
空気密度の影響力も加味した補正風速を定義し、高層各層の補正風速の和(総和風速)を求めた。総和風速と瞬き偏差は強く正に相関した(図8)。
○“屈折率に影響する要素”と瞬き偏差
重回帰分析を用いて「屈折率に影響する要素」の影響力を調べた(図9)。P値・有意Fがともに0.01よりも小さいため、有意な結果が得られたといえる。補正決定係数も0.935と大きく、良いモデルが得られた。
◎重回帰分析の結果ー高層
・総和風速…正に影響
T値が大きく、P値が非常に小さいことから、瞬きに最も大きく影響する要素であることが分かる。
・空気密度平均偏差…正に影響
高層の空気密度のばらつきが大きいほど瞬くと考えられる。
・絶対湿度平均…負に影響
水蒸気が多いと星像が霞み、明暗の変化が弱まるためだと考えられる。実際、水蒸気が多い日と少ない日の瞬きを比較すると、水蒸気の多い日の輝度変化は小さくなっていることが分かる(図10)。
◎重回帰分析の結果ー地上
・空気屈折率…負に影響
原因は現在調査中。
・20時空気屈折率―21時空気屈折率…正に影響
放射冷却の影響で通常は21時屈折率のほうが大きくなるが、上空の強くて暖かい風が地上に吹き降りてくるときは20時屈折率のほうが大きくなる。よって、20時空気屈折率―21時空気屈折率>0のときは上空の強い風が広範囲で吹いているため、瞬きやすいと考えられる。
・平均風速…負に影響
風が強い日は望遠鏡の揺れにより、星像がぼやけてしまったためと考えられる。シャッタースピードを上げ、改善したい。
6.星の瞬きを予測する
予測にあたって、次の天気予報を用いる。
・earth:高層天気予報
・天気(Appleのアプリ):地上天気予報
重回帰分析の結果得られた回帰式に天気予報の値を代入することで、推定瞬き偏差を得る。その値によって、4日先の未来まで、5段階の瞬きレベルを予想しようと考えている(図11)。
7.おわりに
星の瞬きの最も大きな要因は「風」であることが分かった。また、重回帰分析の結果から、空気屈折率に関わる他の気象要素の影響力も調べられた。現在、この結果と天気予報を用いて、瞬きの予測に取り組んでいる。
8.謝辞
本研究の遂行にあたり、ソフトを作成していただいた KTE 様、助言をくださった国立研究開発法人防災科学研究所の出世様に、この場を借りて感謝を申し上げます。
9.参考文献
1)日本天文学会 “恒星の瞬きの数値化と変動天体の光度測定-國學院大學栃木高等学校”
https://www.asj.or.jp/jsession/old/2014haru/yokou2014/05.pdf
2)OpenCV-配列操作 http://opencv.jp/opencv-2.1/cpp/operations_on_arrays.html#cv-mean