日本地球惑星科学連合2024年大会

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[O-08] 高校生ポスター発表

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球惑星科学系 岩石鉱物学研究室)、久利 美和(文部科学省)、紺屋 恵子(海洋研究開発機構)

13:45 〜 15:15

[O08-P75] 新潟県瀬波温泉における温泉水の起源と温泉資源の持続可能性

*菊池 信太郎1 (1.市川学園市川高等学校)

キーワード:瀬波温泉、温泉水の起源

瀬波温泉は掘削深度から2つの源泉群に分けられる.これらは現在まで同一湯脈である(例えば,阿部・飯島,1975;渡部ほか,2020)とされてきた.阿部・飯島(1975)は,温泉水の微量分析結果から温泉水の起源は天水であるとした.また,渡部ほか(2020)は,温泉水の水素同位体比とCl-の関係から起源を化石海水と天水が混合されて形成しているとした.この2つの先行研究では温泉水の起源について一致しておらず最終的な結論に至っていない.そこで本研究では,各源泉群から温泉水を採取し,微量成分分析を行うことで,2つの源泉群における成分の差異と,それら温泉水の起源の検証を試みた.また阿部・飯島(1975)は,瀬波温泉において自噴する源泉が減少していることから,温泉水の出湯ラインが低下していると示唆した.この調査から50年以上が経過した現在において,今後の温泉水の持続可能性を明らかにすることを本研究の目的とした.

成分分析では,源泉より直接採取した温泉水(掘削深度の浅い陸側の2カ所,掘削深度の深い海側の2カ所)で微量分析を行い,Na+,K+,NO3-,Mg2+,Ca2+,Cl-,HCO3-の7種を分析した.

その結果から陸側と海側の源泉の溶存量の差が,Na+では約100 mg/L,K+では約10 mg/L,NO3-では約3 mg/L,Cl-では約30 mg/L確認された(表1).しかし,これらは検出方法における測定限界の位の値であるため,大きな差であるとは言えなかった.そのほかの物質では明確な成分差は検出されなかった.

温泉水の起源の判別方法として太秦・那須(1960)はイオンの質量比による比較を提案している.この方法に従いK/Na,Mg/ Ca,HCO3/ Clそれぞれ質量比について温泉水,井戸水,海水,化石海水の値を比較した.井戸水は阿部・飯島(1975),海水は太秦・那須(1960),化石海水は太秦・那須(1960),加藤(2018)から値を引用した.K/Na は,温泉水の値が4.8×10-2,井戸水の値は1.5×10-1,海水の値は3.6×10-2,化石海水の値が2.0×10-3~7.0×10-3を示した(図1).これより値は井戸水≫温泉水>海水≫化石海水の順となり,温泉水は海水に近い値を示した(図1).Mg/Ca は,温泉水の値は4.8×10-3,井戸水の値は8.1×10-1,海水の値は3.2,化石海水の値は0.3~6.0を示した(図2).これより化石海水>海水>井戸水>化石海水≫温泉水の順となり,温泉水の値は他のどの値よりも著しく小さくなった(図2).これはMg2+の溶存量が著しく少ないためである.HCO3/ Clは温泉水の値が2.5×10-2,海水の値は4.0×10-2,化石海水の値は7.0×10-2~8.4×10-1を示した(図3).なお,HCO3/Clの井戸水の値はデータがなく表記していない.これより化石海水>海水>温泉水の順となり,温泉水の値は海水が最も近い値を示した(図3).

源泉の成分については微量成分分析の結果と,阿部・飯島(1975)により背斜構造上に瀬波温泉があることから同一湯脈の温泉水であると判断できる.次に温泉水の起源について,溶存成分の質量比からMg2+の溶存量が海水と比べて非常に少ないものの,起源は海水である可能性が高い.Mg2+が減少した原因として,熱水と岩石による化学変化が考えられる.武井ほか(2018)は,海水と玄武岩を高温高圧化においたところMg2+が大幅に減少したと報告している.瀬波温泉の温泉水は90℃前後と高温であり(新潟県,2010),同様の現象が起こる可能性があると考えている.少なくとも,瀬波温泉の掘削深度付近の岩石は,流紋岩質砕屑岩であり(阿部・飯島,1975),玄武岩がないことは確かである(工藤ほか,2011)ため同様の現象が発生するか検証する必要があり,現在実験中である.最後に温泉水の持続可能性について,温泉水の起源が海水であれば絶えず温泉水が補充され続けるので枯渇することなく利用ができると考える.しかし,現在でも自噴する源泉はなく源泉の掘削深度は50年前と比べ20 mほど深くなっており適切な湧出量に制限する必要はあると考える.

引用文献
阿部・飯島(1975),温泉工学会誌,10,1,1-15.;加藤(2018),石油技術協会誌,83,4.;工藤ほか(2011),5万分の1地質図幅「加茂」,産業技術総合研究所地質調査総合センター;新潟県(2010),新潟県庁ホームページ.閲覧日(2024.04.14);武井ほか(2018),日本地球科学会年会要旨集,66.;太秦・那須(1960),日化誌81 (3), 401-404.;渡部(2020),日本の温泉「瀬波温泉」朝倉書店,p.106.