日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM12] Coupling Processes in the Atmosphere-Ionosphere System

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:細川 敬祐(電気通信大学大学院情報理工学研究科)、Liu Huixin(九州大学理学研究院地球惑星科学専攻 九州大学宙空環境研究センター)、大塚 雄一(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、Chang Loren(Institute of Space Science, National Central University)

17:15 〜 18:45

[PEM12-P28] 短波ドップラー観測システムの距離測定機能と観測事例の紹介

*並木 紀子1細川 敬祐1野崎 憲朗1坂井 純1冨澤 一郎1、有澤 豊志1 (1.電気通信大学大学院情報理工学研究科)

キーワード:HFドップラー、観測システム、周波数変調連続波、電波高度計

短波ドップラー(HF Doppler: HFD)法による電気通信大学の電離圏観測システムは、2001年より日本国内で運用が行われており、日本上空の中緯度電離圏E領域やF領域の変動を常時観測している(冨澤ほか, 2003)。HFD送信機と国内11カ所の受信機で構成されるシステムは、多点バイスタティック観測を特徴とし、複数地点における多周波HFDデータを提供している(http://gwave.cei.uec.ac.jp/~hfd)。得られたドップラーシフトのデータは、反射波の位相通路長の時間変化を表し、それが多くの場合電離圏の上下動に相当するため、伝搬性電離圏擾乱やスポラディックE現象、磁気圏または下層大気からのエネルギー流入に伴う状態の変化を観測するために用いられてきた。HFD観測のために電気通信大学から送信している電波は5.006 MHzと8.006 MHz(どちらも200 Wの送信出力)の2周波がある。電離圏擾乱は昼夜を問わず発生するため、24時間連続で北海道から沖縄まで届く電波を安定的に送信する必要があり、送信機の送信状態を管理することが不可欠である。2022年のJpGUでのポスター発表では、既存のシステムに周波数連続変調(Frequency Modulated Continuous Wave:FM-CW)方式による測距機能を追加するコンセプトを紹介し、その後の関連学会でも送信システムの開発状況を紹介してきた。それらの内容を踏まえ、今回は、バイスタティックFMCWレーダーの実際の試験測定結果を報告する。
新しい観測システムでは、従来ドップラー観測に用いてきた8006 kHzと5006 kHzの連続波(CW)を中心に、距離測定のためにそれぞれ±75 kHzの範囲で周波数掃引したFMCW信号を新しく重ねて送信する。HFD観測システムは、送信点1カ所に対して、複数の離れた受信点をもつため、測距の時刻同期をとるために、送信側と受信側にGPSを採用した。受信側では、受信信号と掃引信号のレプリカをミキサーで合成し、FMCW専用のソフトウェア受信機で処理する方法を採用している。
1つの受信機を、送信機から約17 km離れた地点に置き、実際に空間波を測定する実験を行った。自局FMCW信号と外来ノイズの区別は、数分おきにモールス信号に切り替わるタイミングが一致していることから判別できる。測定値の正確性を評価するために、同時刻の国分寺イオノゾンデと相互評価したところ、新システムの測定結果はイオノゾンデの高度分解能の範囲で一致した。さらに、高い時間分解能と周波数分解能を持っていることも明らかになった。同時に、地表波の測定値も直達波の伝搬距離と一致し、1 kmの距離決定精度を有していると評価できた。さらに、当初の目的であった、ドップラー観測データと合わせて、物理現象の発生領域を定性的に説明できる事例も確認することができた。発表では、これらの空間波測定実験によって得られた初期観測データを紹介する。