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[PPS07-P05] エウロパ大気における発光輝線の探索:地上望遠鏡による可視撮像・分光観測
キーワード:ガリレオ衛星、地上望遠鏡、大気
大気中の原子は太陽光共鳴や電子衝突により励起され、特定波長の輝線を発することから、発光輝線の観測により大気成分の推定が可能である。エウロパにおいては、ナトリウム原子とカリウム原子による発光輝線(波長590, 767 nm)が検出されたことから、それらの存在が明らかになった [Brown and Chaffee, 1974; Brown, 2001]。このような大気成分は、氷地殻に存在する物質との関連が示唆されている。エウロパ上には、ナトリウム・カリウム・マグネシウム・カルシウム等の硫酸塩や炭酸塩などの水和物といった塩類の存在が木星探査機ガリレオの赤外分光観測から推測されている [e.g., McCord et al., 1999]。また、地殻褐色化の原因とされてきた塩化ナトリウムの存在もハッブル宇宙望遠鏡の可視分光観測から明らかになった [e.g., Trumbo et al., 2019]。氷地殻に存在が示唆されるそれらの物質は、地下海からの物質表出を伴うと思われる地形に集中して存在することから、岩石質のマントルと接する海底には岩石と液体水との相互作用が行われる環境が存在し、液体水に溶出した塩分が氷地殻に取り込まれ対流運動などに伴って表出、あるいはプルームとして地下海から直接に 噴出する内的要因がその起源として考えられている。また、イオの火山活動に起因する木星ナトリウム雲と呼ばれる巨大構造やイオ周辺大気、彗星などからエウロパ表面へともたらされる外的要因も考えられている。エウロパに大気が形成される機構は、塩類の存在が示唆される表面に木星磁気圏の高エネルギー粒子が衝突し、地殻から原子が叩き出される(スパッタリング)過程や、太陽光加熱により表面物質が昇華する過程が提案されている。そのような機構によりマグネシウム原子による発光も予想されたがこれまで検出には至らず[Horst and Brown, 2013]、現在検出されているのはナトリウム原子とカリウム原子の発光輝線のみである。衛星大気中の発光輝線の検出とその時変動の調査は、衛星内部-表層間や衛星間の物質輸送過程を知る手順であり、衛星形成時の材料物質やその後の進化過程を知ることにも繋がる。しかしながら、過去の探査機によるスナップショット的な観測や時間が限られた宇宙望遠鏡による観測で捉えた輝線は僅かであり、衛星における物質調査は不十分と言わざるを得ず、物質の起源や衛星の進化過程について理解は停滞している。北海道大学大学院理学研究院附属天文台は北海道名寄市にあり、地上望遠鏡(ピリカ望遠鏡)を所有している。主鏡口径は1.6 mであり、その大きさは太陽系内天体観測用の望遠鏡としては世界最大級である。本研究では、衛星内部から、あるいは、衛星間の物質輸送過程を明らかにすることを目的とし、ピリカ望遠鏡に搭載されたスペクトル撮像装置 MSI [Watanabe et al., 2012] を用いて、2020年から2023年にかけて数十夜の多波長撮像観測を行い、エウロパ大気における発光輝線の探索 (500-900 nm) を行った。本講演ではその報告を行う。また、京都産業大学神山天文台の荒木望遠鏡に搭載された可視光高分散偏光分光器VESPolaを用いた今後の観測計画も紹介する。