日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG52] 沈み込み帯へのインプット:海洋プレートの進化と不均質

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:平野 直人(東北大学東北アジア研究センター)、藤江 剛(海洋研究開発機構)、鹿児島 渉悟(富山大学)、赤松 祐哉(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:45

[SCG52-P01] 浸透流対流の有限要素法による数値計算法とその海底海山の水循環への応用:遅い流れを速く解くその3

*川田 佳史1 (1.海洋研究開発機構・海洋機能利用部門・海底資源センター)

キーワード:浸透流、海底火山、数値計算

海底地殻内の低温の水循環をモデル化する場合、Darcy則を用いた熱対流の数値計算を行うことが必要である。Darcy則は、Navier-Stokes(NS)式における非圧縮性流れと似た式(NS式の粘性項を速度に比例した係数で置き換える)であり、陰解法を用いる数値解法も類似である。もうひとつの重大な特徴として、対象とする地殻が複雑な構造を持つことが挙げられる。水循環が起こる代表的な場所である海底海山は、地殻の高まりであるとともに、堆積物の層を突き破って水平に近い海底に露出している。このような複雑な幾何学を持った系を通常の差分法で扱うには限界があり(差分法であれば斜面を持った山体は階段状形状として扱うことになるだろう)、幾何学的な自由度の高い有限要素法を用いることが望まれる。本発表では、浸透流の熱対流を有限要素法で解くことを考える。ただし、時間積分法として陰解法ではなく陽解法を用いることとし、Runge-Kutta系の加速も行う。

陽解法を有限要素法に適用するためにはいくつか工夫が必要である。有限要素法の定式化で最終的に得られる式は、実は差分法で得られる式と大して変わらないのだが、異なる点が2つある。ひとつめは、幾何学的な不規則さを反映して各従属変数にかかる係数が不均一になることである。この式にそのまま陽解法を適用しても効率よく解くことはできない。一番細かい格子幅で決まる時間ステップで制約されることになるだろう。ふたつめは、時間微分項が周りの点を伴うことである(差分法でいうと、ある点の物理量の0階微分を求めるのに、まわりの点も含む重み付き平均で与えることに相当する)。この場合、時間発展は陽解法であっても、連立一次方程式を解くことが要求される。これらの点を緩和するために、以下の操作を行う。第一の点に関しては、幾何学的に不均一な系は粘性係数などが不均一な系と類似の構造を持つことから、有限要素の形状に応じたファクターを時間微分項にかける。第二の点に関しては、質量集中化を行う。すなわち、時間積分項に関して周りに散らばった情報を、着目点に集めて着目点のみの式にする。

計算の複雑度の異なる2段階の計算を行い、陽解法の有効性とその限界を確かめた。第一段階として、不透水層に挟まれた平行四辺形状の対流層内を流れる水循環を対象とした。行った計算は四角形要素を用いた2次元の熱対流計算である。要素については、差分法の規則格子を連続的に変形し、要素の形状は不規則であるが並びは規則的であるとした。この場合、時間微分項にかかる係数を適切に選択すると、差分法に陽解法を適用した場合と遜色なく解くことができた。係数を選択する方法は試行錯誤的であり、今後、安定性解析に基づく工夫が必要である。第二段階として、海底堆積物から突き出した海山の中を流れる水循環を対象とした。ここでは、四面体要素を用いた3次元の計算を行った。要素の作成はフリーウェアであるTetgenを用いた。この計算では、要素の作成が適切に行われれば、効率解くことができる。一方、極端に細かい要素ができてしまうと、陽解法である以上計算の実行自体は可能なのだが、計算速度は著しく制約されてしまう。海山の流れのような複雑な幾何学をもった系の水循環の計算を陽解法で行う場合、要素の作成の段階からを工夫する必要があることが示された。これは、とにかく収束させてしまえば何とかなる陰解法とは異なる性質である。