日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG53] 地震動・地殻変動・津波データの即時把握・即時解析・即時予測

2024年5月27日(月) 10:45 〜 12:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小木曽 仁(気象庁気象研究所)、山田 真澄(京都大学防災研究所)、太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、近貞 直孝(防災科学技術研究所)、座長:小木曽 仁(気象庁気象研究所)、山田 真澄(京都大学防災研究所)

11:15 〜 11:30

[SCG53-03] 火山地域を対象とした変動源モデルリアルタイム推定手法の開発

★招待講演

*大野 圭太郎1太田 雄策2髙松 直史1 (1.国土交通省国土地理院、2.東北大学大学院理学研究科附属 地震・噴火予知研究観測セ ンター)

キーワード:即時把握、REGARD、MCMC、不確実性

地震や火山活動にともなう地殻変動を即時的に把握し,その変動源をモデル化することは,現象理解及び防災・減災の観点からきわめて重要である.リアルタイムGNSSは地殻変動を即時的に捉えるために有用であり, 特に大地震に対する安定した感度から,国土地理院は東北大学大学院理学研究科と共同で電子基準点リアルタイム解析システム (以下「REGARD」という.) を開発し,運用してきた.近年は,観測誤差やモデル誤差に起因して推定結果が持つ不確実性を定量化することを目的として,マルコフ連鎖モンテカルロ法 (Markov Chain Monte Carlo methods: 以下「MCMC」という.) を用いて推定の不確実性を即時的に定量化する手法「RUNE (Ohno et al., 2021)」を開発し,REGARDでの性能評価を進めている.このように,REGARDが地震時変動に特化して開発が進められている一方で, 火山活動や群発地震とともに進行する遷移的な地殻変動といった1日以下程度の時間帯域の現象に対するリアルタイムGNSSの活用は十分に進んでいない.また,日本国内の連続GNSS観測データからそれらイベントの状況を自動的に把握できるシステムも存在せず,火山活動監視における現状把握の観点からその改善は喫緊の課題である.

これらを背景として, 本研究では,推定の不確実性の定量評価を含めた,GNSSによるリアルタイム火山モニタリングシステムの構築を念頭に置き,その基盤技術となる変動源モデルインバージョンプログラムを開発した.RUNEの推定可能なモデルを矩形断層モデルだけでなく圧力源モデルに拡張することで, 火山活動を含む幅広い現象への応用を目指した.Ohno et al. (2021) の工夫を踏襲し,MCMCをリアルタイムで自動的に活用するために,並列計算を用いたMCMC計算の高速化 (計算時間15秒程度)・Parallel temperingを用いた探索効率化・ハイパーパラメータの自動調整機能を実装している.MCMCのサンプラーにはメトロポリス・ヘイスティング法を採用した.対応モデルは,茂木モデル (Mogi, 1958) ・矩形開口モデル (Okada, 1992) ・回転楕円体モデル (Cervelli, 2013) ・矩形断層モデル (Okada, 1992) の4種類であり,任意の組み合わせで複数のモデルを同時に推定できる.これら, 適切なモデルの組み合わせは AIC (Akaike, 1973) に基づいて判断される.また,定量化されるモデル不確実性の応用として,地表面の計算変位の不確実性を可視化する「観測点配置検討マップ」の作成手法を開発した.火山活動等のローカルな地域の活動監視においては, 約20 km で設置されたGEONETよりもより高密度な観測網が望ましい場合があり,継続的な活動モニタリングにおいて,観測点の拡充や観測点を維持すべき領域の判断を行うための客観的な指標とすることを目的としている.

開発した手法の性能検証として,数値実験データ並びに2015年の桜島膨張事例及び2023年の能登半島の地震 (M6.5) の実データへ適用した.推定結果は,数値実験における正解値や先行研究と整合的な中央値を示しつつ,事後確率分布の形状や, 地図上及び断面図上での空間的な広がりとして, モデル推定の不確実性を定量化した.また,「観測点配置検討マップ」は,モデル推定の不確実性を効率的に低減するために観測点を追加すべき領域を可視化できることを確認した.

リアルタイム火山モニタリングシステムの構築のためには,本研究で開発したインバージョンプログラムに加えて,他機関の観測データの取り込みや,地殻変動データ生成の解析フローの検討が必要である.今後,開発した推定手法を軸として,観測データの活用に関して他機関と連携しつつ,システム開発を進める.