15:30 〜 15:45
[SGD02-06] 地殻変動の断層形状不変性と物理深層学習による効率解法
プレート運動や地震に起因する地殻変動は、断層の変位食い違いモデル(dislocation model)により記述される。反平面(antiplane)歪み問題は、地下構造が水平一方向に一様でかつ変動がその方向にのみ生じるという仮定を置き、十分に長い横ずれ断層のモデルとして解析されてきた。本発表では、線形弾性体の反平面地殻変動における理論的性質を議論し、それに基づき深層学習による効率解法を実現した以下の研究内容を紹介する:
Okazaki T, Hirahara K, Ueda N (2023). Fault geometry invariance for physics-informed crustal deformation learning. (Preprint at: https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-3689706/v1)
1. Fault geometry invariance
Okazaki et al. (2022)は、物理法則を活用した深層学習(physics-informed neural network: PINN)により、非自明な地形・断層形状をもつ不均質媒質における地震時地殻変動を解析し、断層端部(dislocation line)を共通とする任意の断層上の一様すべりが生成する変位場が、断層形状によらず(断層に囲まれた領域における定数の差を除いて)等しいことを発見した。これはSegall (2010)において、解析解に基づき均質半無限媒質における伏在直線断層に対して示された性質が、一般的に成り立つことを示唆している。本研究では、これらの洞察を反平面地殻変動における断層形状不変性(fault geometry invariance)として提示し、簡潔かつ直感的な導出を与えた。
2. Dislocation potential
断層形状不変性は一様すべりにのみ成り立つ性質であるが、これを一般の断層すべりの解析に活用するために新たな物理量を導入した。古典力学において、仕事が経路によらない保存力である場合、ポテンシャル・エネルギーを導入することで仕事を効率的に計算できることが良く知られている。同様に本研究では、変位場が断層形状によらないという不変性に基づきdislocation potentialを定義した。これは基準点Oを固定し、任意の位置Pに対し線分断層OP上の単位すべりが生成する変位場を対応させるという、変位場に値を取る関数である。Dislocation potentialは空間2次元の関数でありながら、断層形状不変性と線形性のため、任意の断層形状(無限次元)・すべり分布(無限次元)が生成する地殻変動の情報を有する。具体的には、dislocation potentialの断層に沿った方向微分の線積分により変位場を計算できる。ゆえに、与えられた地下構造に対しdislocation potentialを導出することで、任意の断層すべりに対する地殻変動を効率的に解析できる。
3. Physics-informed deep modeling
前述の理論に基づきdislocation potentialを用いた地殻変動解析を実施した。地表変位の計算にdislocation potentialの空間変化を用いるため、空間的に連続な表現を得ることが望ましい。理論解が得られるのは成層構造など比較的単純な地下構造に限られる。数値的方法では解析領域をメッシュ等により離散化することで複雑な地下構造を扱えるが、あらゆる断層位置に対する値の導出には、再メッシュ化を伴う多数の計算を要する。これに対し、PINNはニューラル・ネットワークの損失関数に微分方程式や初期・境界条件を導入することで、微分方程式の解を連続関数として導出できる(Raissi et al., 2019)。そこで本研究では、PINNにより地殻変動を解析したOkazaki et al. (2022)の手法に断層端点Pの情報を追加したsurrogate modelingを構築することで、dislocation potentialの連続表現による解法を実現した。本手法による推定結果が均質半無限媒質において解析解とよく一致することを確認し、複雑な地下構造においても適用可能であることを実証した。
4. Discussion
本研究では、反平面地殻変動における断層形状不変性を提示し、それに基づきdislocation potentialを定義することで、任意の断層すべりに対する地殻変動を効率的に解析できることを示した。PINNは複雑な地下構造においても連続的な解を導出できるため、dislocation potentialの解法に適した手法である。制約としては、断層不変性は反平面歪み問題においてのみ成立し、一般のすべり分布に拡張できるのは線形媒質に限られる点が挙げられる。すなわち、本理論は線形反平面地殻変動において有効である。本手法は、断層形状に関する知見の不足に伴う不確実性評価や、測地観測による地表変位データから断層形状・すべり分布の同時推定などの逆解析への応用が考えられる。
Okazaki T, Hirahara K, Ueda N (2023). Fault geometry invariance for physics-informed crustal deformation learning. (Preprint at: https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-3689706/v1)
1. Fault geometry invariance
Okazaki et al. (2022)は、物理法則を活用した深層学習(physics-informed neural network: PINN)により、非自明な地形・断層形状をもつ不均質媒質における地震時地殻変動を解析し、断層端部(dislocation line)を共通とする任意の断層上の一様すべりが生成する変位場が、断層形状によらず(断層に囲まれた領域における定数の差を除いて)等しいことを発見した。これはSegall (2010)において、解析解に基づき均質半無限媒質における伏在直線断層に対して示された性質が、一般的に成り立つことを示唆している。本研究では、これらの洞察を反平面地殻変動における断層形状不変性(fault geometry invariance)として提示し、簡潔かつ直感的な導出を与えた。
2. Dislocation potential
断層形状不変性は一様すべりにのみ成り立つ性質であるが、これを一般の断層すべりの解析に活用するために新たな物理量を導入した。古典力学において、仕事が経路によらない保存力である場合、ポテンシャル・エネルギーを導入することで仕事を効率的に計算できることが良く知られている。同様に本研究では、変位場が断層形状によらないという不変性に基づきdislocation potentialを定義した。これは基準点Oを固定し、任意の位置Pに対し線分断層OP上の単位すべりが生成する変位場を対応させるという、変位場に値を取る関数である。Dislocation potentialは空間2次元の関数でありながら、断層形状不変性と線形性のため、任意の断層形状(無限次元)・すべり分布(無限次元)が生成する地殻変動の情報を有する。具体的には、dislocation potentialの断層に沿った方向微分の線積分により変位場を計算できる。ゆえに、与えられた地下構造に対しdislocation potentialを導出することで、任意の断層すべりに対する地殻変動を効率的に解析できる。
3. Physics-informed deep modeling
前述の理論に基づきdislocation potentialを用いた地殻変動解析を実施した。地表変位の計算にdislocation potentialの空間変化を用いるため、空間的に連続な表現を得ることが望ましい。理論解が得られるのは成層構造など比較的単純な地下構造に限られる。数値的方法では解析領域をメッシュ等により離散化することで複雑な地下構造を扱えるが、あらゆる断層位置に対する値の導出には、再メッシュ化を伴う多数の計算を要する。これに対し、PINNはニューラル・ネットワークの損失関数に微分方程式や初期・境界条件を導入することで、微分方程式の解を連続関数として導出できる(Raissi et al., 2019)。そこで本研究では、PINNにより地殻変動を解析したOkazaki et al. (2022)の手法に断層端点Pの情報を追加したsurrogate modelingを構築することで、dislocation potentialの連続表現による解法を実現した。本手法による推定結果が均質半無限媒質において解析解とよく一致することを確認し、複雑な地下構造においても適用可能であることを実証した。
4. Discussion
本研究では、反平面地殻変動における断層形状不変性を提示し、それに基づきdislocation potentialを定義することで、任意の断層すべりに対する地殻変動を効率的に解析できることを示した。PINNは複雑な地下構造においても連続的な解を導出できるため、dislocation potentialの解法に適した手法である。制約としては、断層不変性は反平面歪み問題においてのみ成立し、一般のすべり分布に拡張できるのは線形媒質に限られる点が挙げられる。すなわち、本理論は線形反平面地殻変動において有効である。本手法は、断層形状に関する知見の不足に伴う不確実性評価や、測地観測による地表変位データから断層形状・すべり分布の同時推定などの逆解析への応用が考えられる。