日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL18] 日本列島および東アジアの地質と構造発達史

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:羽地 俊樹(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報研究部門)、大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

17:15 〜 18:45

[SGL18-P02] 本州中央部における中央構造線の形成と前弧域でのテクトニクス

*小野 晃

キーワード:中央構造線、本州中央部、前弧域、テクトニクス

本州中央部のテクトニクスについて,古第三紀中央構造線(MTL)の形成とそのMTLが中新世に受けた変動が重要である.これらのテクトニクスを解明するには,白亜紀後期以降の弧-海溝系の地史を検討する必要がある.Figure1にここで注目するおもな地質事件が列挙されている.
<本州中央部の75-60Ma前後の弧-海溝系>
Figure2は本州中央部の75-60Maにおける弧-海溝系の模式的断面図である.領家変成岩と三波川変成岩の中間の地域(前弧域)について,領家外縁帯の堆積岩や火成岩,肥後-阿武隈帯起源の変成岩や花崗岩,ペルム紀の金勝山石英閃緑岩,跡倉層,木呂子変成岩などが分布している[1,2].領家帯では70-65Maに非持トーナル岩が貫入し冷却中であった.領家外縁帯では滑花崗岩が貫入し,神農原礫岩や骨立山凝灰岩が堆積していた.この時期のサブダクション帯では三波川変成岩の一部が地殻浅部に向かって上昇していた.60Ma頃についても珪長質火成活動が領家外縁帯や領家帯に想定され,約60Maの厚い酸性凝灰岩や砕屑性ジルコンが領家外縁帯に確認されている.一方,三波川変成岩の近傍では,60Ma頃に木呂子変成岩が蛇紋岩を伴って上昇していた.60Maごろの三波川変成岩は,領家変成岩や鹿塩マイロナイトから非常に離れた遠方に位置していたのである.
<60Ma以降の短縮テクトニクスと古第三紀MTL>
60Maごろの前弧域は,その後,大規模な短縮テクトニクスを受ける.その結果,多くの地質体は海洋プレートの方に向かって移動する.このテクトニクスの終末期に跡倉ナップと領家ナップが形成される.跡倉ナップ形成後,白亜紀後期の珪長質火成岩類は,三波川変成岩と低角断層で接合する.引き続いて領家ナップが形成されると,領家変成岩と三波川変成岩が地下で接合して,古第三紀の低角に傾くMTLが形成される[1,2].その形成時期は50Ma 前後と推定される[3].古第三紀MTLの形成によって,60Maごろの前弧域は消滅したことになる.
<伊那山地の中新世MTL>
中部地方の伊那山地ではMTLはほぼ鉛直に傾く中新世中期に形成された高角断層である.このMTLの形成に際して,低角に傾く古第三紀MTLの周辺部一帯は大変動を受けて,多くの地質体が変形され,移動し,消失する.この大変動はMTL近傍の領家帯にもおよび,伊那市のMTL近傍の領家帯は中新世中期の変動帯の一部と考えられている[4-6].そのおもな根拠は(1)MTLに接して鹿塩マイロナイトでも三波川変成岩でもない異地性岩体が鹿塩マイロナイト帯に存在する.異地性岩体とは,泥岩が存在する板山ナップやK-Ar角閃石年代が55.7Maの粟沢変成岩である.(2)トーナル岩などの面構造の走向は,高遠町板山地域では約N15°Eであるが,長谷市野瀬地域ではN30°-50°Eである.回転運動が起きている.(3)いろいろな走向の断層が非常に多い.多数の左横ずれ断層の系統的変位によって地質体の分布が南北方向に変化したことが想定される[6].
<白亜紀後期のナップテクトニクス>
跡倉ナップの木呂子緑色岩メランジュは,木呂子変成岩と蛇紋岩と構造岩塊から構成されている.木呂子変成岩は,構造岩塊の一つとして肥後-阿武隈帯起源の変成岩岩塊を包有している.肥後-阿武隈変成岩の形成場は,三波川変成岩(みかぶユニット)から遠方の白亜紀中期の珪長質火成岩帯である.しかし,Figure2の木呂子変成岩は,みかぶユニットの近傍に位置している.肥後-阿武隈変成岩は,白亜紀末期にはみかぶユニットの近傍まで大移動していたのである[7].白亜紀後期の前弧域ではナップテクトニクスが繰り返し起きていた(Figure3)と考えられる.
文献 [1]小野,2023, GSJ Meeting, T5-P-2. [2]小野,2022, GSJ Meeting, T1-P-7.[3]小野,2010, JpGU Meeting, SGL046-P10.[4]小野,2020, JpGU-AGU Joint Meeting, SGL33-P07.[5]小野,2016, JpGU Meeting, SGL37-P16.[6]小野,2021, JpGU Meeting, SMP46-P01.[7]小野,2015, JpGU Meeting, SGL40-P12.