[S-MP24] 変形岩・変成岩とテクトニクス

[SMP24-08] コロラド台地産ローソン石エクロジャイト捕獲岩の脱水融解：微細組織から探る流体移動履歴

*福島 諒¹、辻森 樹¹、宮島 延吉² (1.東北大学、2.バイロイト大学バイエルン地球科学研究所)

キーワード：脱水融解、コロラド台地、ローソン石エクロジャイト、集束イオンビーム走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡

コロラド台地産ローソン石エクロジャイトはダイアトリーム中の捕獲岩として産し、北米西岸にかつて低角で沈み込んでいたファラロンプレートの断片であった可能性が示唆されている。岩石鉱物学的・地球化学的アプローチに基づく先行研究により、ダイアトリームの形成には（１）スラブの沈み込み角度の増大、（２）蛇紋岩の脱水に伴う流体の放出・地殻物質の加水（'Great hydration'）および（３）プルームの上昇に伴う加熱イベントが関連していると提案されているが、それぞれのイベント同士の関連性や時間スケール、力学的な妥当性については十分に検証されていない。本研究では、同捕獲岩試料中のオンファス輝石とローソン石仮像の微細組織を解析し、変成から噴出に至るシナリオに対し新たな制約を試みる。
　オンファス輝石はややFe³⁺に富み（~aug_35–45 jd_40–50 aeg_15–20）、顕著な組成累帯構造を呈する。特にエクロジャイトの基質を構成するものは溶解の痕跡を多数残し、沈み込みに伴う昇温末期の大規模なメタソマティズムを示唆する。集束イオンビーム走査型電子顕微鏡・透過型電子顕微鏡により計6粒子の微細組織を観察した結果、秩序相由来の散漫散乱が普遍的に確認されたことから、同輝石が短距離秩序構造を残していることが判明した。また一つの薄膜試料においては、マイクロクラック中にCaに富むオンファス輝石（~aug_60–76 jd_21–22 aeg_1–17）と流紋岩質組成（SiO₂ = 72–75 wt%）のガラス包有物が保存されていた。これらはそれぞれGreat hydrationおよびプルームによる加熱イベントに伴って形成された二次的な固相・メルトであると推測される。
　その一方で、ローソン石は加熱イベントによって自形面を残しつつも完全に分解・再結晶しており、主に針状・球晶状のゾイサイトとその周囲を埋める斜長石（オリゴクレース）の微結晶で構成される。この非平衡組織は、シュードタキライト中に発達する結晶組織（e.g., Maddock, 1983）と類似し、メルトからの急速な結晶化で説明される。なお、仮像全体の化学組成は玄武岩質（SiO₂ = ~47 wt%）であった。
　したがって本試料は加熱イベントに伴い、深さ100 km程度で含水玄武岩ソリダス直上（~870˚C）まで加熱された可能性が高い。わずかに粒間に残された流体は局所的なフラックス融解を誘発した一方、ローソン石は脱水融解を被り、多面体状のメルトポケットを形成した。その後、ダイアトリーム形成に伴う急速な冷却・減圧に伴い、ガラス形成能が大きい流紋岩質メルトは結晶化を免れた一方で、ガラス形成能が小さい玄武岩質メルトは完全に結晶化したと考えられる。本講演ではさらにこれらの結果を基に、高圧下（~3 GPa）での含水スラブ物質の融解プロセスについて総合的に議論する。