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[SSS07-11] 計測波形と数値計算波形の比較を通した実験試料内の不均質場が波形に与える影響の評価
キーワード:岩石試料、波動伝播、空隙、差分法
はじめに
地震波やフィールドにおける能動的透過波には,それらが透過した地殻内部の構造情報が含まれる.媒質の不均質特性と弾性波形の関係がわかれば,直接観測の難しい地下の不均質場の特性を波形から推定することができ,今後需要が高まると予想されるCO2の地中貯留や放射性廃棄物の地層処分において,岩盤モニタリングする際に応用できると期待される.これまで実験室において,媒質の構造変化や亀裂生成の様子を詳細に観察するための岩石試料を用いた透過波計測が行われてきた(例えば,Yukutake, 1989, JGR).既往研究では,初動の到達時刻や振幅の変化から不均質状態の変化が推定されたものの,後続波からはほとんど情報が得られてこなかった.その理由として,後続相には試料の端面で何度も反射・変換した成因が不明な後続相が多数含まれることが挙げられる.そこで後続相の素性を知るために,Yoshimitsu et al. (2016, GJI)は円柱形の均質な試料内を透過した弾性波を3次元差分法による波動伝播シミュレーションで再現し,実験波形に見られる特徴的な位相の起源を計算波形との比較により同定した.本研究では彼らの研究を進化させ,不均質な岩石試料を用いた場合の弾性波の振る舞いを数値計算により観察・評価する.
解析手順
Matsuda et al. (2023, AGU)は,不均質特性の異なる3つの岩石試料を用いて弾性波の透過試験を実施し,波形の違いを観察した.本研究ではそのうち,試料AO1と名付けられた青森県今別市で取得された多孔質安山岩の不均質特性を参考にして計算モデルを作成し,OpenSWPC (Maeda et al., 2017, EPS)を利用して3次元差分法による波動伝播シミュレーションを実施した.試料を含む矩形の解析領域を,格子間隔50 μmで1024×1024×2048グリッドに離散化してモデル媒質とした.AO1は,直径50 mm,高さ100 mmの円柱形試料の中にランダムに直径数mm~数cmの空隙を含む.このうち,圧電素子が貼付された振動入力面から90度回転した方向の高さ60 mmの位置にあった直径約30 mmの最大の空隙を,球形な孔としてモデル媒質内に再現した.Matsuda et al. (2023, AGU)の測定結果を参考に,弾性パラメタはVp=4.2, Vs=2.4, rho=2.23と設定した.岩石実験に用いた圧電素子の動きを模したシングルフォースを高さ50 mmから入力し,タイムステップ0.005秒,空間・時間ともに2次精度で計算をおこなった.比較のために同様の条件で空隙がないモデルを用いた計算も実施した.
結果・議論
計算によって得られた波形には50 kHz - 1 MHzの4次のバタワースバンドパスフィルタをかけ,波動場は速度の発散場と回転場からP波とS波の速度振幅に分離して評価した.空隙のない場合は震源から試料内部に入射した波が,曲率のある試料の周境界で反射波や変換波を生成しながら伝播し,震源とは反対の面で反射・変換した実体波が震源方向へ戻っていく.一方,空隙を含むモデルでは,実体波が震源の対面に到達する前に球形の空隙により進路を曲げられ,P波やS波が直進することができず,波面の広がりにゆがみが出ている様子が観察された.このように,波動場の進行方向が曲がった影響で放出された方向とは異なる方向に波面が傾いたため,試料モデル表面の仮想観測点で取得された振幅は試料の片側で大きくなっていた.また震源の対面に近い領域で得られた波形は,他の領域に比べて振幅が大きかった.空隙がない場合の計算では後続波部分で試料の周方向に伝播する表面波の大きな振幅が見られたが,空隙を含む場合は後続波の乱れが大きく,表面波の伝播は波形からはわからなかった.これらの後続波の傾向は,Matsuda et al. (2023, AGU)で実測により得られた結果とよく一致しており,空隙のサイズと位置が波動場形成に強く影響していることを意味する.本解析の結果は,アレイ状の複数観測点で得られた波形から不均質の位置やサイズが推定できる可能性を示唆している.
地震波やフィールドにおける能動的透過波には,それらが透過した地殻内部の構造情報が含まれる.媒質の不均質特性と弾性波形の関係がわかれば,直接観測の難しい地下の不均質場の特性を波形から推定することができ,今後需要が高まると予想されるCO2の地中貯留や放射性廃棄物の地層処分において,岩盤モニタリングする際に応用できると期待される.これまで実験室において,媒質の構造変化や亀裂生成の様子を詳細に観察するための岩石試料を用いた透過波計測が行われてきた(例えば,Yukutake, 1989, JGR).既往研究では,初動の到達時刻や振幅の変化から不均質状態の変化が推定されたものの,後続波からはほとんど情報が得られてこなかった.その理由として,後続相には試料の端面で何度も反射・変換した成因が不明な後続相が多数含まれることが挙げられる.そこで後続相の素性を知るために,Yoshimitsu et al. (2016, GJI)は円柱形の均質な試料内を透過した弾性波を3次元差分法による波動伝播シミュレーションで再現し,実験波形に見られる特徴的な位相の起源を計算波形との比較により同定した.本研究では彼らの研究を進化させ,不均質な岩石試料を用いた場合の弾性波の振る舞いを数値計算により観察・評価する.
解析手順
Matsuda et al. (2023, AGU)は,不均質特性の異なる3つの岩石試料を用いて弾性波の透過試験を実施し,波形の違いを観察した.本研究ではそのうち,試料AO1と名付けられた青森県今別市で取得された多孔質安山岩の不均質特性を参考にして計算モデルを作成し,OpenSWPC (Maeda et al., 2017, EPS)を利用して3次元差分法による波動伝播シミュレーションを実施した.試料を含む矩形の解析領域を,格子間隔50 μmで1024×1024×2048グリッドに離散化してモデル媒質とした.AO1は,直径50 mm,高さ100 mmの円柱形試料の中にランダムに直径数mm~数cmの空隙を含む.このうち,圧電素子が貼付された振動入力面から90度回転した方向の高さ60 mmの位置にあった直径約30 mmの最大の空隙を,球形な孔としてモデル媒質内に再現した.Matsuda et al. (2023, AGU)の測定結果を参考に,弾性パラメタはVp=4.2, Vs=2.4, rho=2.23と設定した.岩石実験に用いた圧電素子の動きを模したシングルフォースを高さ50 mmから入力し,タイムステップ0.005秒,空間・時間ともに2次精度で計算をおこなった.比較のために同様の条件で空隙がないモデルを用いた計算も実施した.
結果・議論
計算によって得られた波形には50 kHz - 1 MHzの4次のバタワースバンドパスフィルタをかけ,波動場は速度の発散場と回転場からP波とS波の速度振幅に分離して評価した.空隙のない場合は震源から試料内部に入射した波が,曲率のある試料の周境界で反射波や変換波を生成しながら伝播し,震源とは反対の面で反射・変換した実体波が震源方向へ戻っていく.一方,空隙を含むモデルでは,実体波が震源の対面に到達する前に球形の空隙により進路を曲げられ,P波やS波が直進することができず,波面の広がりにゆがみが出ている様子が観察された.このように,波動場の進行方向が曲がった影響で放出された方向とは異なる方向に波面が傾いたため,試料モデル表面の仮想観測点で取得された振幅は試料の片側で大きくなっていた.また震源の対面に近い領域で得られた波形は,他の領域に比べて振幅が大きかった.空隙がない場合の計算では後続波部分で試料の周方向に伝播する表面波の大きな振幅が見られたが,空隙を含む場合は後続波の乱れが大きく,表面波の伝播は波形からはわからなかった.これらの後続波の傾向は,Matsuda et al. (2023, AGU)で実測により得られた結果とよく一致しており,空隙のサイズと位置が波動場形成に強く影響していることを意味する.本解析の結果は,アレイ状の複数観測点で得られた波形から不均質の位置やサイズが推定できる可能性を示唆している.