14:30 〜 14:45
[SSS07-12] 箱根群発地震を用いた小空間スケールにおけるMLTWAの適用
【導入】
地震波形の減衰特性は地下構造の状態を分析する際の重要な基準となるが,物理的性質を考察するためには観測された全減衰から内部減衰と散乱減衰を分離推定する必要がある.Multiple Lapse Time Window Analysis (MLTWA; Fehler et al., 1992; Hoshiba, 1993)は両減衰が観測波形振幅に与える影響の割合が時間経過と震源距離によって変化することを利用して,散乱減衰パラメータQs-1 と内部減衰パラメータQi-1 を推定する手法である.MLTWAで解析する地震の震源距離は概ね減衰パラメータの推定領域のスケールに相当するが,定常観測網を用いた先行研究では震源距離約20 km - 100 km の地震データが利用されてきた.火山地帯などで稠密観測された震源距離の短い微小地震データにも同手法を適用できれば,より局所的な減衰構造推定が望める.
松田・他(2023, SSJ)では震源距離10 km以下の微小地震データに対して従来の研究よりも短い時間窓の効果を検証し,小空間におけるMLTWAの適用可能性があることが示した.本研究では同手法をさらに精査するとともに,箱根地域における減衰パラメータを推定・評価する.
【データ】
解析対象は2015年4月20日から同年10月31日に箱根火山で発生した-1.7 ≤ M ≤ 3.4の微小地震,計4373イベントである.箱根地域には神奈川県温泉地学研究所によって稠密地震観測網が展開されている.これらの地震観測点のうち,8つの短周期地震計(サンプリング周波数200 Hz)で記録された3成分速度地震波形を用いた.震源位置はYukutake et al.(2015)によってDouble Difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)を用いて高精度再決定されたものを用いた.
【手法】
MLTWAではS波走時を始点として3つの時間窓を設け,各時間窓の積分エネルギー値と理論エネルギー値とを同時に比較する.Qs-1 とQi-1 を分離するためには,直達波と後続波が異なるウィンドウに収まるように適切な時間窓幅を用いる必要がある.震源距離が短く(< 10 km)振幅がノイズレベルにまで減衰する時間が短い微小地震データにおいては1.5秒 – 5.0秒の短い窓幅が適切である(松田・他, 2023, SSJ)ため,本研究でも同様の窓幅を用いる.波形には2 - 4 Hz,4 - 8 Hz,8 - 16 Hz,16 - 32 Hz,32 - 64 Hz の5種類のバンドパスフィルタをかけ,3成分記録から2乗平均エンベロープを合成した.また,S波速度は3.2 km/secの一様を仮定した.パラメータの推定はグリッドサーチによって行った.サーチ範囲は10-5 ≤ Q-1≤ 10-1であり,グリッド間隔は対数スケールでlogQ-1=0.1 とした.また,推定結果の信頼性を評価するために,全使用データから無作為に復元抽出したデータ群を用意し,ブートストラップ法により100回の誤差評価を行った.
【結果・考察】
各窓幅,各周波数帯におけるQs-1 とQi-1 の推定値を得た.低周波数帯になるほど推定値は精度よく求まっていた.なかでも残差が小さかった4 - 8 Hz,窓幅3.0秒の場合,Qs-1=1.26×10-2 ,Qi-1=1.00×10-2 と推定された.この値は,諸地域における浅部地殻の減衰パラメータ推定値(Sato et al., 2012)に比べて強い減衰を示している.ほかの周波数帯についても同様に他地域よりも強い減衰を示した.一般的に火山地帯では強い減衰が観察されており,本推定結果と調和的である.また,8 Hz以上の高周波数帯においては散乱減衰よりも内部減衰が強い傾向がみられた.
窓幅が短い場合,高周波数帯においてより強い減衰が得られた.例えば32 – 64 Hzにおいて窓幅1.5秒ではQs-1=4.52×10-4 であり,窓幅2.0秒ではQs-1=2.67×10-4 であった.窓幅は散乱波が伝播した領域のスケールと直接的な関係をもつため,窓幅の違いによる推定値の差は箱根地域内の減衰パラメータが空間一様でないことを示唆している.この傾向は内部減衰よりも散乱減衰でより顕著であった.
箱根の局所的な地震データの解析から,内部減衰,散乱減衰ともに他地域の平均的な減衰より強い値が示された.また解析条件による減衰パラメータの差から,減衰の空間構造を推定できる可能性が示唆された.将来的にMLTWAが局所的な地下構造解析法の一つとなれば,地熱発電探査や放射性廃棄物の地層処分現場の監視手法として,地球科学的のみならず工学的にも有用になると期待される.
地震波形の減衰特性は地下構造の状態を分析する際の重要な基準となるが,物理的性質を考察するためには観測された全減衰から内部減衰と散乱減衰を分離推定する必要がある.Multiple Lapse Time Window Analysis (MLTWA; Fehler et al., 1992; Hoshiba, 1993)は両減衰が観測波形振幅に与える影響の割合が時間経過と震源距離によって変化することを利用して,散乱減衰パラメータQs-1 と内部減衰パラメータQi-1 を推定する手法である.MLTWAで解析する地震の震源距離は概ね減衰パラメータの推定領域のスケールに相当するが,定常観測網を用いた先行研究では震源距離約20 km - 100 km の地震データが利用されてきた.火山地帯などで稠密観測された震源距離の短い微小地震データにも同手法を適用できれば,より局所的な減衰構造推定が望める.
松田・他(2023, SSJ)では震源距離10 km以下の微小地震データに対して従来の研究よりも短い時間窓の効果を検証し,小空間におけるMLTWAの適用可能性があることが示した.本研究では同手法をさらに精査するとともに,箱根地域における減衰パラメータを推定・評価する.
【データ】
解析対象は2015年4月20日から同年10月31日に箱根火山で発生した-1.7 ≤ M ≤ 3.4の微小地震,計4373イベントである.箱根地域には神奈川県温泉地学研究所によって稠密地震観測網が展開されている.これらの地震観測点のうち,8つの短周期地震計(サンプリング周波数200 Hz)で記録された3成分速度地震波形を用いた.震源位置はYukutake et al.(2015)によってDouble Difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)を用いて高精度再決定されたものを用いた.
【手法】
MLTWAではS波走時を始点として3つの時間窓を設け,各時間窓の積分エネルギー値と理論エネルギー値とを同時に比較する.Qs-1 とQi-1 を分離するためには,直達波と後続波が異なるウィンドウに収まるように適切な時間窓幅を用いる必要がある.震源距離が短く(< 10 km)振幅がノイズレベルにまで減衰する時間が短い微小地震データにおいては1.5秒 – 5.0秒の短い窓幅が適切である(松田・他, 2023, SSJ)ため,本研究でも同様の窓幅を用いる.波形には2 - 4 Hz,4 - 8 Hz,8 - 16 Hz,16 - 32 Hz,32 - 64 Hz の5種類のバンドパスフィルタをかけ,3成分記録から2乗平均エンベロープを合成した.また,S波速度は3.2 km/secの一様を仮定した.パラメータの推定はグリッドサーチによって行った.サーチ範囲は10-5 ≤ Q-1≤ 10-1であり,グリッド間隔は対数スケールでlogQ-1=0.1 とした.また,推定結果の信頼性を評価するために,全使用データから無作為に復元抽出したデータ群を用意し,ブートストラップ法により100回の誤差評価を行った.
【結果・考察】
各窓幅,各周波数帯におけるQs-1 とQi-1 の推定値を得た.低周波数帯になるほど推定値は精度よく求まっていた.なかでも残差が小さかった4 - 8 Hz,窓幅3.0秒の場合,Qs-1=1.26×10-2 ,Qi-1=1.00×10-2 と推定された.この値は,諸地域における浅部地殻の減衰パラメータ推定値(Sato et al., 2012)に比べて強い減衰を示している.ほかの周波数帯についても同様に他地域よりも強い減衰を示した.一般的に火山地帯では強い減衰が観察されており,本推定結果と調和的である.また,8 Hz以上の高周波数帯においては散乱減衰よりも内部減衰が強い傾向がみられた.
窓幅が短い場合,高周波数帯においてより強い減衰が得られた.例えば32 – 64 Hzにおいて窓幅1.5秒ではQs-1=4.52×10-4 であり,窓幅2.0秒ではQs-1=2.67×10-4 であった.窓幅は散乱波が伝播した領域のスケールと直接的な関係をもつため,窓幅の違いによる推定値の差は箱根地域内の減衰パラメータが空間一様でないことを示唆している.この傾向は内部減衰よりも散乱減衰でより顕著であった.
箱根の局所的な地震データの解析から,内部減衰,散乱減衰ともに他地域の平均的な減衰より強い値が示された.また解析条件による減衰パラメータの差から,減衰の空間構造を推定できる可能性が示唆された.将来的にMLTWAが局所的な地下構造解析法の一つとなれば,地熱発電探査や放射性廃棄物の地層処分現場の監視手法として,地球科学的のみならず工学的にも有用になると期待される.