日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT35] 合成開口レーダーとその応用

2024年5月30日(木) 10:45 〜 12:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、木下 陽平(筑波大学)、姫松 裕志(国土地理院)、朴 慧美(上智大学地球環境学研究科)、座長:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、姫松 裕志(東京大学地震研究所)

11:15 〜 11:30

[STT35-03] L-band InSARにおけるSSMによる電離圏補正について:実用的なレシピ

*長岡 頌悟1高田 陽一郎2森下 遊3 (1.北海道大学大学院 理学院、2.北海道大学大学院 理学研究院、3.国立研究開発法人産業技術総合研究所 デジタルアーキテクチャ研究センター)

キーワード:InSAR、SSM、電離圏補正

L-bandのSARデータは植生のある地域において地殻変動を検出するために不可欠である。一方で電離圏擾乱の影響を強く受けるため、振幅が小さく長波長な変動を検出することが難しいという課題がある。
Split Spectrum Method(SSM, e.g., Gomba et al., 2016)は電離圏の分散性を利用して電離圏擾乱の寄与を原理的に推定し、それをInSAR画像から取り除くことを可能にした。しかしSSMを適用すると帯域分割の影響により誤差が増幅されるため、悪条件においては様々なノウハウを駆使しなければ結果が使い物にならないことも多い。そこで本研究では悪条件のデータに対しSSMをよりロバストに適用するための実用的な手順(レシピ)を提案する。鍵となるのは(i)外れ値の除去、(ii)平滑化フィルタリング、である。
本研究では2015年にヒマラヤ山脈で発生したGorkha地震を対象に、ALOS-2のScanSAR画像(バンド幅14 MHz)にSSMを適用して余効変動を検出することを試みた。まず(i)外れ値の除去方法を2通りで比較した:
 ①多項式曲面を基準面とし、残差が一定値を超えたpixelを外れ値として除去する。多項式の係数はCoherenceで重み付けした最小二乗によって推定した。閾値はデータ全体の分散をもとに算出し、面全体で一定の値とした。
 ②元データにメディアンフィルターを適用した結果を基準面とし、Coherenceに基づく理論的な誤差(Gomba et al., 2016)の範囲に収まらないpixelを外れ値と判定する。
比較の結果,①の方が極端な外れ値のみを効果的に取り除くことができることが明らかになった。(ii)平滑化フィルタリングにおいては、Gomba et al. (2016)が提案したCoherenceによる重み付きガウシアンフィルターが良く機能するが、データの勾配が大きいときに画像端に歪みをもたらすという課題があった。そこで次の手順を踏むことで画像端の歪みを軽減した; ①: 外れ値の除去(i)で推定した多項式曲面を元データから差し引く。②: ①で得た残差に重み付きガウシアンフィルターを適用する。③: ②の結果に多項式曲面を足し戻す。
(ii)の平滑化フィルタリングにおいて、電離圏推定に用いるMulti-look数とフィルターサイズにはトレードオフの関係がある。この関係を系統的に調べた結果、Multi-look数が極端に大きい・小さい場合を除き、Multi-look数とフィルターサイズの積がある値を取るときに誤差が極小となることがわかった。
以上の手順によって余効変動域の解析を行った結果、先行研究(e.g., Wang and Fialko, 2018)と整合的な結果が得られた。