日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT39] ハイパフォーマンスコンピューティングが拓く固体地球科学の未来

2024年5月26日(日) 13:45 〜 15:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:堀 高峰(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、八木 勇治(国立大学法人 筑波大学大学院 生命環境系)、汐見 勝彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、松澤 孝紀(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:堀 高峰(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、松澤 孝紀(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

14:45 〜 15:00

[STT39-05] データ駆動型手法により高速化された有限要素法を用いた南海トラフの高詳細粘弾性地殻変動解析

*村上 颯太1藤田 航平1橋間 昭徳2飯沼 卓史3、市村 強1堀 高峰3 (1.東京大学、2.東京学芸大学、3.海洋研究開発機構)

キーワード:南海トラフ巨大地震、低粘性領域、高性能計算、海底観測

プレート沈み込み帯における巨⼤地震後の地殻変動については、アセノスフェアにおける粘弾性応⼒緩和と余効すべりの影響が考えられる。震源域直上の海底地殻変動観測の高度化が進められており、海洋プレート下の粘性構造などを詳細に把握することが可能になりつつある。詳細な推定を実現するためには、プレート間すべりと地殻変動データを結びつけるグリーン関数を、実際の不均質な地下構造をできるだけ忠実に反映したモデルにより計算する必要がある。このようなグリーン関数の計算には有限要素解析が適しているとされてきたが、計算コストが膨大となることから、その軽減が求められてきた。
高詳細3次元地下構造に基づく粘弾性地殻変動解析の計算コストを削減する手法として、これまで著者らはデータ駆動型手法により有限要素解析を高速化する手法を開発してきた(Murakami et al. 2023など)。本手法では、過去の時間ステップでの結果をもとに次の時間ステップの解を高精度に予測することで、有限要素解析の計算のボトルネックとなるソルバーの反復数を削減し、計算時間を削減することが可能である。CPUベースの高性能計算機システムにおいて提案手法の有効性を検証した結果として、従来手法と比較して3.19倍の性能向上が得られている。さらにGPUにおいて高い性能を達成するために低メモリのデータ駆動型予測手法の開発等を行い、結果として8.6倍の性能向上を達成している。
本発表では上記の手法を活用し、南海トラフの現実的な地下構造モデルを考慮した粘弾性応⼒緩和による地殻変動解析を実施した結果を示す。現実的な地下構造を考慮するために、対象領域を2496 km × 2496 km × 1100 kmとし、最⼩要素サイズを500 mとした 4.2×109⾃由度の⼤規模な有限要素モデルを作成した。Lithosphere-asthenosphere boundary (LAB)と呼ばれる沈み込むプレート下の低粘性領域が存在する場合を含めた粘性率分布が異なるいくつかのケースにおいて、仮想的な地震時すべりに対する4年間の地表⾯変位応答を計算した。計算の結果、LABの粘性率が2.5×1017 Pasと低粘性が著しい場合、2011年東北沖地震の場合と同様に、海域で陸向きの⾮常に⼤きい⽔平変位が⽣じた。また、鉛直変位については、ケースによって隆起と沈降の分布が変わる複雑な挙動が⾒られた。これらの変形が時間経過とともに急速に減衰していくことから、地震後1年間での海底地殻変動観測が低粘性LAB検知に有効であることが分かった。