日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 火山噴火のメカニズム

2024年5月29日(水) 10:45 〜 11:45 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:無盡 真弓(東北大学)、田中 良(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、丸石 崇史(防災科学技術研究所)、村松 弾(東京大学地震研究所)、座長:田中 良(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、無盡 真弓(東北大学)

10:45 〜 11:00

[SVC31-13] 桜島火山薩摩噴火堆積物の層相と噴火推移

*木尾 竜也1,2西原 歩2、成尾 英仁3下司 信夫2宮縁 育夫4,2 (1.熊本大学大学院自然科学教育部、2.産業技術総合研究所、3.鹿児島県立出水高等学校、4.熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター)

キーワード:桜島火山、薩摩噴火、噴火推移、プリニー式噴火、PDC堆積物

桜島火山において約12,800年前に噴出した桜島薩摩(P14)テフラ(以後,薩摩テフラと呼ぶ)は,本火山の活動ステージの中で極めて爆発的な軽石噴火と大量の溶岩流出で特徴づけられるStage 2a(新期北岳期)の最初期の噴出物である.本テフラは,同火山の噴火史の中で最大規模の噴出物であり,テフラとしては特異な同心円状の分布を示す.また,この噴火(以後,薩摩噴火と呼ぶ)は,桜島島外にまで火砕物密度流(PDC)をもたらした唯一の噴火であることがこれまでの研究で明らかとなっている.そのため,本噴火の推移を明らかにすることは,桜島火山における最大規模の噴火の全体像を理解するとともに,大規模噴火の推移という点に関しての理解など,本火山周辺域での防災を考える上でも重要である.しかしながら,先行研究では薩摩テフラの層序が正確に定まっておらず,薩摩・大隅両半島間の層序対比が問題点として残されていた.また,薩摩噴火の詳細な噴火推移の把握は十分に行われていないのが現状である.そこで,本研究では,薩摩テフラを対象に姶良カルデラ周辺域で地質調査を実施し,堆積物の詳細な記載と構成物の分析を行った.そして,それらの結果から示唆される薩摩噴火の推移について考察を行った.
 薩摩テフラは層位的に下位からP14A~P14Qの17のユニットに区分される.本研究では,これらを分布主軸の特徴からグループ1(P14A~P14E),グループ2(P14F〜P14K),グループ3(P14L〜P14Q)にまとめた.グループ1は,姶良カルデラ周辺地域の一円に分布する.P14AおよびP14Eは大規模な降下軽石層,P14BはPDC堆積物,P14Cは粗粒火山灰混じりの降下軽石層,P14Dは火山豆石を含む淘汰の悪い褐色細粒の降下火山灰層である.また,P14Bは薩摩・大隅両半島に分布し,桜島火山から半径約10〜18 km付近まで到達している.本ユニットは遠方へと追跡していくとP14Cに遷移する.P14Dは給源からの距離に応じた層厚変化に乏しく,とりわけP14Bが厚く堆積する給源近傍では層厚が薄い.グループ2は,主に桜島火山から南西〜西方向(薩摩半島側)に分布する.これは,岩片を主体とした淘汰の良い粗粒な降下火山灰層(P14F~H,P14J)と比較的小規模な降下軽石層(P14I,P14K)から構成される.グループ2以降の堆積物には,黒色~褐色のガラス質岩片や暗色発泡粒子が認められることが特徴的である.グループ3は,主に桜島火山から東北東〜南東方向(大隅半島側)に分布する.これは,比較的小規模な降下軽石層(P14L,P14P (U)),岩片を主体とした粗粒な降下火山灰層(P14M~N,P14P (L)),火山豆石を含む淘汰の悪い細粒褐色降下火山灰層(P14O,P14Q)から構成される.なお,各グループの見かけの体積は,グループ1で7.4 km3(2.8 km3; 最小見積もり,以下同様),グループ2で0.48 km3(0.38 km3),グループ3で0.73 km3(0.38 km3)と概算される.
 以上より,薩摩噴火の推移について次のような解釈を行うことができる.グループ1では,大規模なプリニー式噴火からPDCを伴う爆発的噴火へと移行し,細粒火山灰を降下させた後,再びプリニー式噴火に至ったと考えられる.この細粒火山灰(P14D)は,給源からの距離に応じた層厚変化に乏しく,給源近傍でより遠方より層厚が薄いなど分布が非常に複雑である.そのため ,これは一般的な降下火山灰というよりもco-PDC的な火山灰である可能性が高い.薩摩噴火ではグループ1で最も噴出量が多く,薩摩テフラ全体の7割以上を占めるため,初期にクライマックスを迎えている.グループ2では規模の大きいブルカノ式噴火とサブプリニー式噴火のフェーズを交互に2回繰り返したと考えられる.その後,大隅半島側に風向きが大きく変化し,グループ3ではサブプリニー式噴火や大規模ブルカノ式噴火のほかに,マグマ水蒸気噴火も発生していたと考えられる.なお,これまでの噴火記録や現在の気象条件などに基づくと,薩摩噴火は夏~秋ごろに発生した可能性が高いと判断できる.今回明らかとなった薩摩テフラの層序や構成物の特徴は,本噴火の発生機構や複雑な噴火推移をもたらしたメカニズムを把握するのに極めて重要な基礎情報を提供すると考える.