日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] 口頭発表

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[U-14] 地球科学におけるコミュニティ・エンゲージメント促進のために

2024年5月31日(金) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:Tong Vincent(Northumbria University)、早川 裕弌(北海道大学地球環境科学研究院)、宋 苑瑞(早稲田大学)、島村 道代(名古屋大学)、Chairperson:Vincent Tong(Northumbria University)、早川 裕弌(北海道大学地球環境科学研究院)、宋 苑瑞(早稲田大学)、島村 道代(名古屋大学)


14:30 〜 14:45

[U14-04] 自然災害発生時の「レジデント型研究者」の役割

★招待講演

*青木 賢人1 (1.金沢大学地域創造学類)

キーワード:令和6年能登半島地震、レジデント型研究者

筆者の住む石川県では,2024年1月1日にマグニチュード7.6の「令和6年能登半島地震」が発生した.発災地に住まい,自身も広義では被災者でありながら,地域のステークホルダーと関係性を構築していることを通して,災害時の課題解決にあたる「レジデント型研究者」として行動した(しつつある)経験を紹介することで「非常時の地球科学のアウトリーチ」の意味を考えるとともに,被災時に事象に関係するレジデント型研究者がおかれる立場・苦悩も共有してみたい.

【レジデント型研究者としての自身の状況】
自然地理学・地形学・第四紀学の研究者.教員養成系大学を卒業,理学系大学院を修了.2002年に金沢大文学部に着任.2006年から地域課題解決を主要テーマとする地域創造学類の発足準備に関わる(2008年度発足).2007年能登半島地震の発生以降,防災・減災に関わるレジデント型研究者として講演や実践を行っている.特に東北地方太平洋沖地震以降は,県・自治体の防災関連の委員を拝命するとともに,県内各地の自主防災組織の支援,学校防災の支援などを行ってきた.2010年からは白山手取川ジオパークの企画・学術サポートを通して,地域住民とのかかわりを深めてきた.

【地域とのかかわり方の時系列的変化】
1)地元向け情報発信期
発災~半月程度:事象の科学的解説,状況の解説が主務.俯瞰的・先導的な情報提供を心がけていた.地方では研究者の層が薄い.防災に関わってきたレジデント型研究者として,必ずしも自身の専門分野ではない領域についても「科学と社会のインタープリター」としてふるまうことが必要であると判断・行動していた.この時期の情報発信のチャンネルは地元マスコミとの協業となる.日ごろの活動の中でマスコミとのチャンネルを有していることでスムーズな出演が可能となった.また双方向の意見交換ができる局とは番組構成(伝えるべき内容)の段階から関与することができ、より効果的な情報提供ができたと考えている.
生活者としての関係性を持っている市民(行きつけのお店の店員さんなど)から,「テレビ見たよ.私もちゃんと準備しないといけないと思ったよ」などの声をかけられるなど,「体温がある情報」を届けられるレジデント型研究者の特性を実感できた.

2)研究者向け情報発信期
発災~1週間程度:被災地の状況(インフラ,ライフライン,調査実施上の注意点),リモートで見えないグランドトゥルースデータの提示など.これは実際に研究者が入り始めるとあまり必要なくなる.これと入れ替えに共同調査の形で現地に入るようになるのがよさそうではあるが,実際には情報発信の役割で現地に入る時間を確保できないモヤモヤ感がある.

3)全国向け情報発信期
発災1週間~継続中:全国のマスコミへの対応.これが一番大変.地元向けに発信した情報(番組のコンテンツや地元紙の記事)がインターネットを経由して拡散されることにより,「現地の有識者」という扱いで全国媒体からの取材が入る.地元向けに俯瞰的な情報を発信していた反動で,全国向けに専門外の話をすることを求められる.「専門外だから,専門家を探して」と断ることも.もちろん,全国メディアでも丁寧な取材をしてくれたところもあります.

4)コンサルタント対応期
発災1か月~継続中:支援を考えている外部の団体からの問い合わせ対応や人脈のつなぎなど.これは想定外だった業務.既存の人脈を通じて入ってくることが多い.これも専門外の領域への視座や人脈が必要になり,対応に苦慮する.

5)今後の見通し
予稿締め切りの段階で発災1か月半.自分の調査がようやく始められそう.マスコミ対応としては「発災から〇か月」のタイミングの発信になってくる.被災地外の地域や団体から関連する講演を求められ始めている.

【レジデント型研究者の苦悩】
時間が作れない:現地の情報収集・情報発信・日常業務を並列させる必要があり,思った以上に時間が作れなかった.「地元の実態」という情報の発信が求められるため現地調査は不可欠であるが,情報発信のためには継続的なマスコミ対応が必要となり断片的に時間拘束されるため,終日の時間確保が必要となる現地調査ができなくなるという矛盾に陥った.
24時間の対応が必要となる:發災直後はマスコミも24時間体制.こちらもそれに対応することに.情報収集や企画案作りなども含め「災害のことしか考えていない時間」が長く,ピント外れな外部マスコミの要求や中途半端な日常業務(1時間だけ会議が入って現地に行けなくなる など)がストレスフル.過去の災害でレジデント型研究者としての役割を果たした研究者に愚痴を聞いてもらうなどで乗り切った面もある.こうした「被災地のレジデント研究者の経験・声」を共有しておくことが必要だと感じた.