17:15 〜 18:45
[U15-P21] 近地強震記録を用いた2024年能登半島地震の震源過程解析
キーワード：2024年能登半島地震、震源過程、強震動波形、地殻内地震
【はじめに】
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震(Mj7.6)は国内で発生した地殻内地震としては最大級の規模である．震源域の多くが能登半島の陸域にかかることから，最大震度は震度7に達し甚大な被害を生じた．このような大地震の発生メカニズムや強震動の生成要因を考えるためには，時空間分解能の高い震源過程を推定することが重要である．そのために近地強震波形を用いた震源過程インバージョン解析を行った．
【解析手法】
震源インバージョンに先立って，断層面の設定などに用いるため，本震後2週間以内の震源を対象に，気象庁一元化処理による検測値を使い，Double Difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)による震源再決定を実施した．
震源インバージョンはマルチタイムウィンドウ法(Yoshida et al., 1996; Hikima and Koketsu, 2005)により行った．解析には能登半島および富山県～新潟県南部の地点も含め10地点のKiK-net観測点(主に地中記録)を用いた．更に，震源付近のK-NET観測点も使用したが，明らかにサイクリックモビリティが生じている波形は除いた．また，震源域を取り囲むように佐渡島のK-NET観測点も解析に用いた．合計16地点の加速度波形記録に対して，0.03～0.4 Hzをフラットレベルとするバンドパスフィルタをかけた上で積分した速度波形を解析に用いた．
インバージョンの際のGreen関数はKohketsu(1985)のreflectivity法により計算した．必要な1次元速度構造モデルは，2023年5月5日の能登半島の地震の解析の際に小地震の観測波形によりチューニングを行ったもの(引間・植竹, 2023)を使用した．なお，佐渡島の観測点については今回新たにチューニングを行った．
【震源過程解析】
この地震の震源は，気象庁一元化処理では16:10:22にMj7.6の発震時刻が決定されている．一方，直前の16:10:09にはごく近傍でMj5.9の地震が発生しており，観測記録ではこれらの地震による波形が連続して記録されている．それらの震央間の距離は数kmである．震源近傍の地震記録を確認すると，前震の初動ではM5.9の地震からの震央距離に応じた時刻遅れが認められる．一方，本震に対応すると考えられる波群はほぼ同時刻に到達しており，一元化処理震源からの震央距離とは対応していないように見える．すなわち，本震の主要破壊の開始点はカタログの震源位置とは異なる可能性がある．
これらを踏まえ，複雑な観測波形の特徴のみから，本震の破壊開始点を含めた震源過程の概略を推定することを目的として，はじめに拘束条件を弱くした予備解析を行った．予備解析ではインバージョンの際のマルチタイムウィンドウの伝播速度を考慮せず同時にウィンドウを開き継続時間を長くした解析を行った．未知数が多くなるため，小断層サイズは5 kmとし，余震域を覆う145 km×30 kmの1枚の南東傾斜の矩形断層を仮定した．その結果，本震の破壊は気象庁震源よりも南西の位置を開始点としてはじめに南西方向浅部に伝播している様子が見られた．更に，断層の北東側には南西側への破壊から5～10秒遅れて破壊開始し伝播する様子が求まった．
詳細解析では予備解析から推定される破壊開始位置から破壊が伝播するものと仮定し，更に断層北東側では時間遅れを考慮した上でタイムウィンドウを設定した．また，断層位置は余震分布を参考に設定し，全長148km×幅24kmとなり，解析の際の小断層サイズは4 kmとした．南東傾斜の断層面を基本としたが，震源域の北東端の海域では北西傾斜に余震が並ぶ様子が見られるため，そこでは北西傾斜断層面を設定した．また，震源域の南西端では余震分布を元に南北走向に近い東傾斜断層面を設定した．結果として4枚の断層面を設定しすべりの時間分布を推定した．
得られた最終すべり分布では，能登半島北端直下，珠洲～輪島にかけての海岸直下，輪島の南西の浅部に大きなすべりが推定された．これらは地震動に伴う被害分布や観測された地殻変動と対応している．また，半島北東の海域でも大きなすべりが存在し，津波の発生源との関連が考えられる．一方で，北西傾斜断層でのすべり量は相対的に小さく，本震時の寄与は大きくない可能性がある．全体のMwは7.5～7.6であり，最大すべり量は6.5～7 mと推定される．
なお，M5.9の前震についても解析を試みた．上記で設定した本震の破壊開始位置に近づくように破壊が伝播した可能性があるが，さらなる検討が必要である．
＜謝辞：解析には，防災科学技術研究所K-NET, KiK-netの観測記録，F-netメカニズム解，気象庁一元化処理データ，また，全国１次地下構造モデル(暫定版)を使用しています．記して感謝致します＞
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震(Mj7.6)は国内で発生した地殻内地震としては最大級の規模である．震源域の多くが能登半島の陸域にかかることから，最大震度は震度7に達し甚大な被害を生じた．このような大地震の発生メカニズムや強震動の生成要因を考えるためには，時空間分解能の高い震源過程を推定することが重要である．そのために近地強震波形を用いた震源過程インバージョン解析を行った．
【解析手法】
震源インバージョンに先立って，断層面の設定などに用いるため，本震後2週間以内の震源を対象に，気象庁一元化処理による検測値を使い，Double Difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)による震源再決定を実施した．
震源インバージョンはマルチタイムウィンドウ法(Yoshida et al., 1996; Hikima and Koketsu, 2005)により行った．解析には能登半島および富山県～新潟県南部の地点も含め10地点のKiK-net観測点(主に地中記録)を用いた．更に，震源付近のK-NET観測点も使用したが，明らかにサイクリックモビリティが生じている波形は除いた．また，震源域を取り囲むように佐渡島のK-NET観測点も解析に用いた．合計16地点の加速度波形記録に対して，0.03～0.4 Hzをフラットレベルとするバンドパスフィルタをかけた上で積分した速度波形を解析に用いた．
インバージョンの際のGreen関数はKohketsu(1985)のreflectivity法により計算した．必要な1次元速度構造モデルは，2023年5月5日の能登半島の地震の解析の際に小地震の観測波形によりチューニングを行ったもの(引間・植竹, 2023)を使用した．なお，佐渡島の観測点については今回新たにチューニングを行った．
【震源過程解析】
この地震の震源は，気象庁一元化処理では16:10:22にMj7.6の発震時刻が決定されている．一方，直前の16:10:09にはごく近傍でMj5.9の地震が発生しており，観測記録ではこれらの地震による波形が連続して記録されている．それらの震央間の距離は数kmである．震源近傍の地震記録を確認すると，前震の初動ではM5.9の地震からの震央距離に応じた時刻遅れが認められる．一方，本震に対応すると考えられる波群はほぼ同時刻に到達しており，一元化処理震源からの震央距離とは対応していないように見える．すなわち，本震の主要破壊の開始点はカタログの震源位置とは異なる可能性がある．
これらを踏まえ，複雑な観測波形の特徴のみから，本震の破壊開始点を含めた震源過程の概略を推定することを目的として，はじめに拘束条件を弱くした予備解析を行った．予備解析ではインバージョンの際のマルチタイムウィンドウの伝播速度を考慮せず同時にウィンドウを開き継続時間を長くした解析を行った．未知数が多くなるため，小断層サイズは5 kmとし，余震域を覆う145 km×30 kmの1枚の南東傾斜の矩形断層を仮定した．その結果，本震の破壊は気象庁震源よりも南西の位置を開始点としてはじめに南西方向浅部に伝播している様子が見られた．更に，断層の北東側には南西側への破壊から5～10秒遅れて破壊開始し伝播する様子が求まった．
詳細解析では予備解析から推定される破壊開始位置から破壊が伝播するものと仮定し，更に断層北東側では時間遅れを考慮した上でタイムウィンドウを設定した．また，断層位置は余震分布を参考に設定し，全長148km×幅24kmとなり，解析の際の小断層サイズは4 kmとした．南東傾斜の断層面を基本としたが，震源域の北東端の海域では北西傾斜に余震が並ぶ様子が見られるため，そこでは北西傾斜断層面を設定した．また，震源域の南西端では余震分布を元に南北走向に近い東傾斜断層面を設定した．結果として4枚の断層面を設定しすべりの時間分布を推定した．
得られた最終すべり分布では，能登半島北端直下，珠洲～輪島にかけての海岸直下，輪島の南西の浅部に大きなすべりが推定された．これらは地震動に伴う被害分布や観測された地殻変動と対応している．また，半島北東の海域でも大きなすべりが存在し，津波の発生源との関連が考えられる．一方で，北西傾斜断層でのすべり量は相対的に小さく，本震時の寄与は大きくない可能性がある．全体のMwは7.5～7.6であり，最大すべり量は6.5～7 mと推定される．
なお，M5.9の前震についても解析を試みた．上記で設定した本震の破壊開始位置に近づくように破壊が伝播した可能性があるが，さらなる検討が必要である．
＜謝辞：解析には，防災科学技術研究所K-NET, KiK-netの観測記録，F-netメカニズム解，気象庁一元化処理データ，また，全国１次地下構造モデル(暫定版)を使用しています．記して感謝致します＞