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[U15-P28] 令和6年能登半島地震(Mj7.6)の長周期(2秒以上)地震動評価のための特性化震源モデル
キーワード:能登半島地震、特性化震源モデル
1. はじめに
令和6年1月1日16時10分に発生した能登半島地震 (Mj7.6)では,最大震度7を観測するなど能登半島を中心に大きな揺れに見舞われた.この地震では,大きな地殻変動も観測され,国土地理院によると輪島市西部で最大約4 mの隆起が観測された.また,F-netによると地震モーメントは1.98×1020 Nm (Mw7.5)であり,レシピ(地震本部,2020)の震源断層の面積と地震モーメントの経験的関係式(S-M0関係式)の第3ステージに対応している.国内に限れば,断層近傍で観測記録が得られた第3ステージの地震は初めてである.このような地震に対して,断層近傍の観測記録を再現できるような特性化震源モデルを構築し,その知見を増やしていくことは,今後の強震動予測のために重要である.
本検討では,能登半島地震の断層近傍の2秒以上の長周期地震動を再現できるような特性化震源モデルの構築を試み,理論的手法による地震動評価結果と観測記録との比較を行う.
2. 特性化震源モデル
断層面の幾何形状は久保・他 (2024)を参考に設定し,その断層面上にアスペリティのみからなる特性化震源モデルを考える.アスペリティはweb上で公開されている不均質すべり分布(国土地理院 (2024),久保・他 (2024),京大防災研 (2024)など)を参考に試行錯誤によるフォワードモデリングにより調整した.その際,能登半島内の断層近傍のK-NETとKiK-netの5観測点(ISKH01,ISK001,ISK003,ISKH04,ISK006)の速度波形や永久変位量の再現性に着目した.なお,KiK-net観測点は地表記録を対象にした.合成波形は波数積分法(Hisada and Bielak, 2003)で評価を行い,地下構造モデルは観測点毎に直下の深部地盤構造をJ-SHISの深部地盤構造モデル(V4)(先名・他,2023)から抽出し,それを水平成層構造として与えた.
図1に本検討で設定したアスペリティの位置と対象観測点の位置を示す.なお,本検討での各アスペリティのパラメータはレシピを参考に,すべり量(Da)はMurotani et al. (2010)のS-M0関係式と仮定した剛性率(3.43×1010 N/m2)から評価される断層面全体の平均すべり量の2倍となる5.8 m,アスペリティ内の破壊伝播速度(Vr)は2.5km/s(0.72×β,βはS波速度で3.5 km/sを仮定),すべり速度時間関数は中村・宮武 (2000),ライズタイム(Tr)は0.5×W/Vr(Wは各アスペリティの幅)から評価される値,すべり角は逆断層を仮定して90°とした.
図2に観測と合成の速度波形(2-20 s)の比較を示す.図2の時刻0秒はMj7.6の地震の震源時に対応している.図より,ISK003やISKH04,ISK006で観測されたパルスは概ね再現できていることが分かる.しかし,ISKH04やISK006の20秒付近の観測波形のEW成分で見られるパルスは生成できておらず,震源付近のISK001とISKH01の再現性も芳しくない.これらの再現のためには震源インバージョン結果等を分析し,それらの知見を特性化震源モデルに取り込む必要がある.なお,ISK001はMj7.6の震源時以前に比較的大きな振幅を有する波群が見られるが,これはMj7.6の地震の約13秒前に発生したMj5.9の地震によるものと考えられる.
図3に合成の永久変位を含む変位波形(2 s以上)と岩田 (2024a, 2024b)から読み取った永久変位量を示す.永久変位量を比較すると,ISK003の水平成分はやや過小評価であるが,ISKH01やISK001,ISK003の上下成分は観測量と調和的な結果が得られた.
3. まとめと課題
能登半島地震について,本研究で構築した特性化震源モデルを用いて能登半島内の断層近傍の周期2秒以上の特徴的な観測波形(速度波形)や永久変位量を概ね再現できたが,一部で再現性が芳しくない点も見られる.再現性向上のためには,今後は特性化震源モデルを調整していくことが必要である.また,本検討で対象としなかった地震動観測点や地殻変動量の面的分布との比較による検証も重要である.さらに,断層モデルの幾何形状の吟味も必要であり,特に地表地震断層が確認されれば,それに整合するようなモデル化も必要と考えられる.
謝辞
防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET,KiK-net)の強震データを使用させていただきました.記して感謝いたします.
令和6年1月1日16時10分に発生した能登半島地震 (Mj7.6)では,最大震度7を観測するなど能登半島を中心に大きな揺れに見舞われた.この地震では,大きな地殻変動も観測され,国土地理院によると輪島市西部で最大約4 mの隆起が観測された.また,F-netによると地震モーメントは1.98×1020 Nm (Mw7.5)であり,レシピ(地震本部,2020)の震源断層の面積と地震モーメントの経験的関係式(S-M0関係式)の第3ステージに対応している.国内に限れば,断層近傍で観測記録が得られた第3ステージの地震は初めてである.このような地震に対して,断層近傍の観測記録を再現できるような特性化震源モデルを構築し,その知見を増やしていくことは,今後の強震動予測のために重要である.
本検討では,能登半島地震の断層近傍の2秒以上の長周期地震動を再現できるような特性化震源モデルの構築を試み,理論的手法による地震動評価結果と観測記録との比較を行う.
2. 特性化震源モデル
断層面の幾何形状は久保・他 (2024)を参考に設定し,その断層面上にアスペリティのみからなる特性化震源モデルを考える.アスペリティはweb上で公開されている不均質すべり分布(国土地理院 (2024),久保・他 (2024),京大防災研 (2024)など)を参考に試行錯誤によるフォワードモデリングにより調整した.その際,能登半島内の断層近傍のK-NETとKiK-netの5観測点(ISKH01,ISK001,ISK003,ISKH04,ISK006)の速度波形や永久変位量の再現性に着目した.なお,KiK-net観測点は地表記録を対象にした.合成波形は波数積分法(Hisada and Bielak, 2003)で評価を行い,地下構造モデルは観測点毎に直下の深部地盤構造をJ-SHISの深部地盤構造モデル(V4)(先名・他,2023)から抽出し,それを水平成層構造として与えた.
図1に本検討で設定したアスペリティの位置と対象観測点の位置を示す.なお,本検討での各アスペリティのパラメータはレシピを参考に,すべり量(Da)はMurotani et al. (2010)のS-M0関係式と仮定した剛性率(3.43×1010 N/m2)から評価される断層面全体の平均すべり量の2倍となる5.8 m,アスペリティ内の破壊伝播速度(Vr)は2.5km/s(0.72×β,βはS波速度で3.5 km/sを仮定),すべり速度時間関数は中村・宮武 (2000),ライズタイム(Tr)は0.5×W/Vr(Wは各アスペリティの幅)から評価される値,すべり角は逆断層を仮定して90°とした.
図2に観測と合成の速度波形(2-20 s)の比較を示す.図2の時刻0秒はMj7.6の地震の震源時に対応している.図より,ISK003やISKH04,ISK006で観測されたパルスは概ね再現できていることが分かる.しかし,ISKH04やISK006の20秒付近の観測波形のEW成分で見られるパルスは生成できておらず,震源付近のISK001とISKH01の再現性も芳しくない.これらの再現のためには震源インバージョン結果等を分析し,それらの知見を特性化震源モデルに取り込む必要がある.なお,ISK001はMj7.6の震源時以前に比較的大きな振幅を有する波群が見られるが,これはMj7.6の地震の約13秒前に発生したMj5.9の地震によるものと考えられる.
図3に合成の永久変位を含む変位波形(2 s以上)と岩田 (2024a, 2024b)から読み取った永久変位量を示す.永久変位量を比較すると,ISK003の水平成分はやや過小評価であるが,ISKH01やISK001,ISK003の上下成分は観測量と調和的な結果が得られた.
3. まとめと課題
能登半島地震について,本研究で構築した特性化震源モデルを用いて能登半島内の断層近傍の周期2秒以上の特徴的な観測波形(速度波形)や永久変位量を概ね再現できたが,一部で再現性が芳しくない点も見られる.再現性向上のためには,今後は特性化震源モデルを調整していくことが必要である.また,本検討で対象としなかった地震動観測点や地殻変動量の面的分布との比較による検証も重要である.さらに,断層モデルの幾何形状の吟味も必要であり,特に地表地震断層が確認されれば,それに整合するようなモデル化も必要と考えられる.
謝辞
防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET,KiK-net)の強震データを使用させていただきました.記して感謝いたします.