17:15 〜 18:45
[U15-P29] 2024年能登半島地震によるAN-netの強震動記録のアレイ解析
キーワード:能登半島地震、AN-net、アレイ解析
はじめに
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震(M7.6)では,強震動,地殻変動,津波等により能登半島を中心に甚大な被害が発生した.この地震の震源断層は,北東南西方向に約150㎞にわたって延びていると考えられている(地震調査委員会,2024).震源断層の西側は能登半島の下に位置し,直上に地震観測点が存在する.一方,東側は海底下に位置しているため,そこでの断層の運動を調べるには少し離れた富山,新潟あたりの地震計を使うのがよいと考えられる.地震予知総合研究振興会は,2009年より新潟県の長岡平野西縁断層帯の周辺で地震観測網AN-netを展開しており,現在40観測点が稼働中である(佐々木・澤田,2010;関根,2014).各観測点では,地表に広帯域加速度計,深さ約100mのボアホールの孔底に短周期速度計と広帯域加速度計がそれぞれ設置されている.観測点間隔が平均5㎞程度と比較的小さいこと,そして特に広帯域加速度計のデータも連続収録されている点が特徴的である.今回の能登半島地震の際には,破壊開始点から150㎞程度離れたこのAN-netでも強震動が記録された.周期5秒程度以上の地震波形は観測点間の相似性が高く,地震計アレイ解析により地震波の到来方向と見かけ速度の推定が可能である.そこで,特に到来方向の情報から地震波の放射域を推定して,震源断層との位置関係を議論することを本研究の目的とする.
データ・解析
AN-net観測点のうち,震源域に最も近い南西部の5点を小アレイとして設定した.この小アレイは破壊開始点から120㎞程度離れている.アレイから震源断層を見込む角度は大体30°程度であるので,アレイ解析によるバックアジムスの推定でこの範囲の変化を有意に推定できる角度分解能が要求される.解析には,2024年1月1日16時10分から5分間の地表の広帯域加速度記録を使用した.波形の特徴として,周期1sよりも短周期では加速度記録の継続時間は50秒程度であり,エンベロープには2つ程度の山が見られる.主に実体波から構成された波群と考えられ,この地震の震源過程を強く反映した特徴であろう.一方,周期1秒よりも長周期では継続時間が100秒以上に伸びる.後続波は,表面波に加えて,越後平野の厚い堆積層の影響を受けて平野にトラップされた波群から構成されているものと考えられる.本震の約13秒前に発生した前震の直達P波が最初に到達し,次に本震の直達P波,前震の直達S波,本震の直達S波,表面波の順に到達するものと考えられ,詳しく波形を見ると結構複雑である.各小アレイの隣接観測点同士で地震波形を見ると,周期5秒程度以上では波形の相似性が高く,地震計アレイ解析を適用できると判断した.
地震計アレイ解析の手法にはいくつかあるが,本研究ではビームを鋭く絞ることができ,同時に複数の波動が入射した場合にも対応できるMUSIC (MUltiple SIgnal Classification) 法(Schmidt, 1986)を使用する.アレイ内の隣接する観測点間の波形の類似性を見ると,周期5秒程度以上ではコヒーレンスが0.9程度以上と高い.そこで,MUSIC法では周波数0.15Hz(周期6.67秒)のスペクトルを用いた.スペクトルを計算する時間窓の長さを20秒とし,5秒ずつずらしながら,見かけ速度を0.05 s/km刻み,バックアジムスを1度刻みでMUSICスペクトルを計算し,MUSICスペクトルが最大となる見かけ速度とバックアジムスを調べた.
結果と議論
MUSIC法による解析の結果,主に本震のS波の影響が強いと考えられる時間帯では,25秒間程度は破壊開始点とその北東方向から放射された地震波が小アレイに到達していた.その後,破壊開始点の南西方向からの地震波が10秒間程度到達しており,最後に再び北東側からの地震波が15秒間程度到達することが分かった.これらの結果には,震源過程だけではなく伝播過程による影響を含まれていると考えられるため,この結果から直接震源断層との関係を議論できない.そこで,伝播過程の影響を調べるため,2つの方法をとる.一つ目は,中規模の余震の記録を同様に調べた.中規模とは,AN-netでも十分なS/N比を確保できる程度に大きく,しかしできるだけ点震源と近似できるくらいに小さいという意味である.そこで,1月1日16時58分に発生したM5.8の余震を採用した.2つ目は,破壊開始点に点震源をおいて,3次元有限差分法のコードOpenSWPC(Maeda et al., 2017)を用いて数値的に計算したグリーン関数を採用した.いずれの場合でも,直達波を含む時間窓ではバックアジムスは震源の方向に対応するが,それ以外の時間帯では伝播過程の影響でバックアジムスが変化することが分かったが,本震でみられる変化とは異なるため,本震の結果は震源の移動を見ていると判断した.
今後,小アレイをあと一つ増やせるため,それを用いた解析を進める予定である.また,いくつか大きい余震が発生しているのでその解析も進め,本震に対する結果をさらに検証する予定である.
謝辞 合成波形の計算にはOpenSWPC(Maeda et al., 2017)と東京大学情報基盤センターのスーパーコンピュータシステムWisteria/BDEC-01を使用しました.計算にあたっては,東京大学地震研究所共同利用(2023-S-A101)の援助をうけました。
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震(M7.6)では,強震動,地殻変動,津波等により能登半島を中心に甚大な被害が発生した.この地震の震源断層は,北東南西方向に約150㎞にわたって延びていると考えられている(地震調査委員会,2024).震源断層の西側は能登半島の下に位置し,直上に地震観測点が存在する.一方,東側は海底下に位置しているため,そこでの断層の運動を調べるには少し離れた富山,新潟あたりの地震計を使うのがよいと考えられる.地震予知総合研究振興会は,2009年より新潟県の長岡平野西縁断層帯の周辺で地震観測網AN-netを展開しており,現在40観測点が稼働中である(佐々木・澤田,2010;関根,2014).各観測点では,地表に広帯域加速度計,深さ約100mのボアホールの孔底に短周期速度計と広帯域加速度計がそれぞれ設置されている.観測点間隔が平均5㎞程度と比較的小さいこと,そして特に広帯域加速度計のデータも連続収録されている点が特徴的である.今回の能登半島地震の際には,破壊開始点から150㎞程度離れたこのAN-netでも強震動が記録された.周期5秒程度以上の地震波形は観測点間の相似性が高く,地震計アレイ解析により地震波の到来方向と見かけ速度の推定が可能である.そこで,特に到来方向の情報から地震波の放射域を推定して,震源断層との位置関係を議論することを本研究の目的とする.
データ・解析
AN-net観測点のうち,震源域に最も近い南西部の5点を小アレイとして設定した.この小アレイは破壊開始点から120㎞程度離れている.アレイから震源断層を見込む角度は大体30°程度であるので,アレイ解析によるバックアジムスの推定でこの範囲の変化を有意に推定できる角度分解能が要求される.解析には,2024年1月1日16時10分から5分間の地表の広帯域加速度記録を使用した.波形の特徴として,周期1sよりも短周期では加速度記録の継続時間は50秒程度であり,エンベロープには2つ程度の山が見られる.主に実体波から構成された波群と考えられ,この地震の震源過程を強く反映した特徴であろう.一方,周期1秒よりも長周期では継続時間が100秒以上に伸びる.後続波は,表面波に加えて,越後平野の厚い堆積層の影響を受けて平野にトラップされた波群から構成されているものと考えられる.本震の約13秒前に発生した前震の直達P波が最初に到達し,次に本震の直達P波,前震の直達S波,本震の直達S波,表面波の順に到達するものと考えられ,詳しく波形を見ると結構複雑である.各小アレイの隣接観測点同士で地震波形を見ると,周期5秒程度以上では波形の相似性が高く,地震計アレイ解析を適用できると判断した.
地震計アレイ解析の手法にはいくつかあるが,本研究ではビームを鋭く絞ることができ,同時に複数の波動が入射した場合にも対応できるMUSIC (MUltiple SIgnal Classification) 法(Schmidt, 1986)を使用する.アレイ内の隣接する観測点間の波形の類似性を見ると,周期5秒程度以上ではコヒーレンスが0.9程度以上と高い.そこで,MUSIC法では周波数0.15Hz(周期6.67秒)のスペクトルを用いた.スペクトルを計算する時間窓の長さを20秒とし,5秒ずつずらしながら,見かけ速度を0.05 s/km刻み,バックアジムスを1度刻みでMUSICスペクトルを計算し,MUSICスペクトルが最大となる見かけ速度とバックアジムスを調べた.
結果と議論
MUSIC法による解析の結果,主に本震のS波の影響が強いと考えられる時間帯では,25秒間程度は破壊開始点とその北東方向から放射された地震波が小アレイに到達していた.その後,破壊開始点の南西方向からの地震波が10秒間程度到達しており,最後に再び北東側からの地震波が15秒間程度到達することが分かった.これらの結果には,震源過程だけではなく伝播過程による影響を含まれていると考えられるため,この結果から直接震源断層との関係を議論できない.そこで,伝播過程の影響を調べるため,2つの方法をとる.一つ目は,中規模の余震の記録を同様に調べた.中規模とは,AN-netでも十分なS/N比を確保できる程度に大きく,しかしできるだけ点震源と近似できるくらいに小さいという意味である.そこで,1月1日16時58分に発生したM5.8の余震を採用した.2つ目は,破壊開始点に点震源をおいて,3次元有限差分法のコードOpenSWPC(Maeda et al., 2017)を用いて数値的に計算したグリーン関数を採用した.いずれの場合でも,直達波を含む時間窓ではバックアジムスは震源の方向に対応するが,それ以外の時間帯では伝播過程の影響でバックアジムスが変化することが分かったが,本震でみられる変化とは異なるため,本震の結果は震源の移動を見ていると判断した.
今後,小アレイをあと一つ増やせるため,それを用いた解析を進める予定である.また,いくつか大きい余震が発生しているのでその解析も進め,本震に対する結果をさらに検証する予定である.
謝辞 合成波形の計算にはOpenSWPC(Maeda et al., 2017)と東京大学情報基盤センターのスーパーコンピュータシステムWisteria/BDEC-01を使用しました.計算にあたっては,東京大学地震研究所共同利用(2023-S-A101)の援助をうけました。