17:15 〜 18:45
[U15-P40] 2024年能登半島地震(MJ7.6)の強震動伝播領域における距離減衰特性
キーワード:2024年能登半島地震、強震動、距離減衰特性、第四紀火山
1.はじめに
2024年能登半島地震(M7.6)では中部地方を中心に広い領域で強震動が観測された.この領域における波動伝播は火山帯下の高減衰域の影響を受け易く,その距離減衰特性は必ずしも単純ではない.過去には2007年能登半島地震(M6.9)の際に長野県付近から南東方向への波動伝播が抑制される特徴が観察された[池浦,2013].また,2014年の長野県北部地震(M6.7)では震源の東西への波動伝播が抑制され,南西方向のみ大きな揺れが伝播する特徴が認められた[池浦,2015].これらの特徴は中部地方に集中する火山群[例えば,第四紀火山カタログ委員会, 1999]の高減衰体による短周期地震波の減衰効果に起因するものと考えられており,この領域で強震動予測の精度向上を図るには,このような不均質な減衰構造を詳細に把握することが重要となる.今回の地震は地震規模が大きく強震域が広いため,広域にわたって不均質な減衰構造を検討するには適している.そこで,本研究では,近畿~中部~関東~東北南部のK-NET,KiK-netで観測された地震動をもとに,同領域における不均質な距離減衰特性の空間分布を検討した.
2.検討方法
地震動の距離減衰特性を検討するにあたり,始めに対象領域の全観測地点について隣接観測点ネットワークを用いた相対サイトファクター評価法[池浦, 2020]を適用してKiK-net神岡GL-100m(地震基盤内)を基準とする相対サイトファクター(RSF)を評価し,それを用いて観測地震動(OBS)からサイトファクターのみ地震基盤内に変換した地震動(BRM)を求め,距離減衰特性の分析に用いた.
距離減衰特性の分析では,任意地点Pの基盤地震動BRMP(f)と距離減衰係数bP(f)を求めることとし,P毎に震源距離Rと観測点方位φの条件がPに近い観測地点に重みをかけた次式の回帰分析を行った.
ln[BRMP(f)]-ln[BRMj(f)]=0.5ln[Rj/RP]+bP(f)(Rj−RP)
ここに,BRMP(f)とRPおよびBRMj(f)とRjはそれぞれPと観測地点jの基盤地震動振幅と震源距離である.なお,広域の地震動を扱うことを前提として幾何減衰効果はR-0.5を採用している.また,重みとしては,Rの違い(ΔR=Rj-RP),およびPとjの観測点方位φP,φjの違い(Δφ=φj-φP)を考慮することとし,ΔRの重みはμ=0, σ=WR=0.5kmのGauss関数,一方,Δφの重みは周方向の距離RjΔφに対してμ=0, σ=Wφ=15 kmのGauss関数を用いた.
以上の方法を,検討領域において北緯0.04°間隔,東経0.055°間隔(概ね4~5km間隔)に配置した全点に適用し,R>80kmのデータを用いてBRMP(f)とbP(f)の分布を調べた.ただし,半径√(WR2+Wφ2)以内に観測点がない場合は評価を見送った.
3.検討結果
2024年能登半島地震(M7.6)による7Hz付近のBRM(f)の分布(Fig.1)では,震央から南東方向の富山・岐阜・長野の3県境付近でくびれる特徴が見られ,この付近で急激に減衰していることが分かる.同じ帯域の距離減衰係数b(f)の分布(Fig.2)では,この付近の長野と富山,新潟との県境付近の減衰が大きく,さらに群馬県,栃木県,福島県と減衰が大きい領域が北に連続している様子が分かる.これらは西から乗鞍火山帯,富士火山帯,那須火山帯と火山が集中する領域に対応しており,大規模な火山の地下における高減衰性を反映した結果と考えられる.
以上のとおり,今回の1地震だけでもある程度は減衰構造の不均質性を確認できたが,近年日本海側で発生したM≧6の9個の地殻内地震についても同様の検討を行い,それらの結果を平均してより安定的で空白の少ない減衰分布を求め,さらに,S波速度3.5km/sを仮定してQ値を評価した.得られたQ値(Fig.3)は第四紀火山の集中地帯で顕著に低い.また,大規模な活火山の近傍で求められたQ値(Fig.4)は,今回検討した全領域におけるQ値の統計としては,平均値に対して概ね1標準偏差程度低い結果であった.
なお,今回の検討では富士・箱根・伊豆周辺では顕著なLow-Q構造が捉えられていない.日本海側の地震ではこの領域の減衰特性を把握するには無理があるのかも知れない.改めて太平洋側の地殻内地震で検討してみる必要がある.
(謝辞)防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netのデータを使用させていただきました.記して感謝いたします.
(参考文献)第四紀火山カタログ委員会(1999)火山,池浦(2013)日本地震学会秋季大会,池浦(2015)建築学会大会,池浦(2020)日本地震工学会論文集.
2024年能登半島地震(M7.6)では中部地方を中心に広い領域で強震動が観測された.この領域における波動伝播は火山帯下の高減衰域の影響を受け易く,その距離減衰特性は必ずしも単純ではない.過去には2007年能登半島地震(M6.9)の際に長野県付近から南東方向への波動伝播が抑制される特徴が観察された[池浦,2013].また,2014年の長野県北部地震(M6.7)では震源の東西への波動伝播が抑制され,南西方向のみ大きな揺れが伝播する特徴が認められた[池浦,2015].これらの特徴は中部地方に集中する火山群[例えば,第四紀火山カタログ委員会, 1999]の高減衰体による短周期地震波の減衰効果に起因するものと考えられており,この領域で強震動予測の精度向上を図るには,このような不均質な減衰構造を詳細に把握することが重要となる.今回の地震は地震規模が大きく強震域が広いため,広域にわたって不均質な減衰構造を検討するには適している.そこで,本研究では,近畿~中部~関東~東北南部のK-NET,KiK-netで観測された地震動をもとに,同領域における不均質な距離減衰特性の空間分布を検討した.
2.検討方法
地震動の距離減衰特性を検討するにあたり,始めに対象領域の全観測地点について隣接観測点ネットワークを用いた相対サイトファクター評価法[池浦, 2020]を適用してKiK-net神岡GL-100m(地震基盤内)を基準とする相対サイトファクター(RSF)を評価し,それを用いて観測地震動(OBS)からサイトファクターのみ地震基盤内に変換した地震動(BRM)を求め,距離減衰特性の分析に用いた.
距離減衰特性の分析では,任意地点Pの基盤地震動BRMP(f)と距離減衰係数bP(f)を求めることとし,P毎に震源距離Rと観測点方位φの条件がPに近い観測地点に重みをかけた次式の回帰分析を行った.
ln[BRMP(f)]-ln[BRMj(f)]=0.5ln[Rj/RP]+bP(f)(Rj−RP)
ここに,BRMP(f)とRPおよびBRMj(f)とRjはそれぞれPと観測地点jの基盤地震動振幅と震源距離である.なお,広域の地震動を扱うことを前提として幾何減衰効果はR-0.5を採用している.また,重みとしては,Rの違い(ΔR=Rj-RP),およびPとjの観測点方位φP,φjの違い(Δφ=φj-φP)を考慮することとし,ΔRの重みはμ=0, σ=WR=0.5kmのGauss関数,一方,Δφの重みは周方向の距離RjΔφに対してμ=0, σ=Wφ=15 kmのGauss関数を用いた.
以上の方法を,検討領域において北緯0.04°間隔,東経0.055°間隔(概ね4~5km間隔)に配置した全点に適用し,R>80kmのデータを用いてBRMP(f)とbP(f)の分布を調べた.ただし,半径√(WR2+Wφ2)以内に観測点がない場合は評価を見送った.
3.検討結果
2024年能登半島地震(M7.6)による7Hz付近のBRM(f)の分布(Fig.1)では,震央から南東方向の富山・岐阜・長野の3県境付近でくびれる特徴が見られ,この付近で急激に減衰していることが分かる.同じ帯域の距離減衰係数b(f)の分布(Fig.2)では,この付近の長野と富山,新潟との県境付近の減衰が大きく,さらに群馬県,栃木県,福島県と減衰が大きい領域が北に連続している様子が分かる.これらは西から乗鞍火山帯,富士火山帯,那須火山帯と火山が集中する領域に対応しており,大規模な火山の地下における高減衰性を反映した結果と考えられる.
以上のとおり,今回の1地震だけでもある程度は減衰構造の不均質性を確認できたが,近年日本海側で発生したM≧6の9個の地殻内地震についても同様の検討を行い,それらの結果を平均してより安定的で空白の少ない減衰分布を求め,さらに,S波速度3.5km/sを仮定してQ値を評価した.得られたQ値(Fig.3)は第四紀火山の集中地帯で顕著に低い.また,大規模な活火山の近傍で求められたQ値(Fig.4)は,今回検討した全領域におけるQ値の統計としては,平均値に対して概ね1標準偏差程度低い結果であった.
なお,今回の検討では富士・箱根・伊豆周辺では顕著なLow-Q構造が捉えられていない.日本海側の地震ではこの領域の減衰特性を把握するには無理があるのかも知れない.改めて太平洋側の地殻内地震で検討してみる必要がある.
(謝辞)防災科学技術研究所のK-NET,KiK-netのデータを使用させていただきました.記して感謝いたします.
(参考文献)第四紀火山カタログ委員会(1999)火山,池浦(2013)日本地震学会秋季大会,池浦(2015)建築学会大会,池浦(2020)日本地震工学会論文集.