[U-15] 2024年能登半島地震(1:J)

[U15-P41] 2024年能登半島地震と1999台湾Chichi地震の最大地動速度距離減衰特性の比較検討

*司 宏俊¹、古村 孝志¹ (1.東京大学地震研究所)

キーワード：2024年能登半島地震、1999年集集地震、最大速度、距離減衰特性

2024年1月1日16時10分ごろにM_w 7.5の能登半島地震が発生し、この地震により石川県を中心とする広域に多数の家屋が倒壊し245名（4月2日現在）もの尊い人命を失なう甚大な災害がもたらされた。特に能登半島では2か所において震度７が観測され、住宅倒壊等の被害が大きかった。このような被害の生成要因などを検討するには当該地震による地震動強度の情報を、国内外で発生した他の大地震との比較を含めて検討する必要があると考えられる。本研究では、能登半島地震と地震規模や深さが近く震源メカニズムがともに逆断層型である1999年の台湾Chichi地震（Mw 7.62）による地震動強度と比較検討を行うこととした。なお、比較を行う地震動特性は、地盤の増幅率をVS30を用いて簡易的に評価できる最大地動速度とした。
検討に用いた強震記録は、能登半島地震については、司・古村（2024）と同じく、防災科学技術研究所(NIED)が運営するK-NET, KiK-netにより観測された加速度波形を用いた。0.1-10Hzで平坦なバンドパスフィルターをかけ、時間積分して速度波形としたものを用いて最大速度（PGV）を求めた。なお、PGVは水平２成分のうち大きいほうの値とした。それぞれの観測点から震源断層までの断層最短距離は2024年1月30日に国土地理院により推定された断層モデルを用いて求めた。断層の平均深さは10㎞とした。一方、Chichi地震については、米国のNGA-W2プロジェクトで整理されたPGV値を用いた。このデータベースで定義されているPGVは水平2成分の平均値に相当するので、２成分の最大値を用いる能登半島地震との比較には、平均PGV値を1.1倍にしたものを用いた。これらのPGVの観測値を司・翠川(1999)の式(4)で定義する地盤の増幅率で除することによりV_S30=600 m/sの硬質地盤上での地震動に変換した値を使用した。
図1にM_w7.5能登半島地震とM_w7.62台湾Chichi地震で観測されたPGVの距離減衰特性の重ね書き示す。図には司・翠川(1999)の地震動予測式（距離減衰式）による予測値も示されている。図から、両地震で観測されたPGVは約20㎞より遠い観測点では重なっており、地震動の平均強さが同程度であることが示される。一方、距離が約20㎞より近い観測点では、M_wがやや小さい能登半島地震の観測値は台湾Chichi地震のデータより平均的に大きいことがわかる。これは、能登半島地震では約20㎞より近い距離では断層の上盤でしか観測記録が得られておらず、平均的に上盤より地震動が弱いと考えられる下盤側での観測記録がないことが理由と考えられる。一方、台湾の内陸部で発生したChichi地震では上盤と下盤側の両方で観測記録が得られており、PGVは地震動予測式の予測値の上下に分布している。このことから、M_w7.5能登半島地震とM_w7.62台湾Chichi地震で観測されたPGVの平均的な強さは、司・翠川(1999)による地震動予測式の予測値と概ね同程度であるが、上盤側にしか観測記録が得られていない能登半島地震では震源近傍での地震動が見かけ上大きくなっている可能性が高い。