日本地球惑星科学連合2024年大会

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[U-15] 2024年能登半島地震(1:J)

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

17:15 〜 18:45

[U15-P61] 現行地質過程としての2024年能登半島地震

*新妻 信明1 (1.静岡大学理学部地球科学教室)

キーワード:2024年能登半島地震、現行地質過程、日本海拡大、丹沢・伊豆衝突による中央構造線屈曲

能登の珪藻土は,1500万年前の日本海拡大以前,北海道渡島半島から佐渡・隠岐・壱岐・大和堆・朝鮮半島北東部に跨るAsia大陸東縁の巨大淡水湖底の存在を物語っている.このような巨大淡水湖は現在,Titicaca湖とPoopo湖として南米に見られる.
能登は,水深3500mの大和海盆によって大和堆から分離する日本海拡大の後,大和堆頂の水深1000mから海面上に顔を出して能登半島となり奥能登丘陵高洲山を標高570mまで隆起させた.水深3500mの大和海盆は,能登と佐渡の間の富山海底峡谷に続いている,
気象庁の2023年12月から2024年1月の速報解100個の震央が能登半島の海岸線内側の陸域に限られて分布していることは,今回のような地震に伴う隆起によって能登半島の地形が形成・保持されていることを示している.
 能登半島は,1)Philippine海Plateの丹沢・伊豆がAmur Plateに衝突によって大屈曲している中央構造線Median Tectonic Lineとほぼ並行に日本海へ突出し,2)Amur Plateの日本海底が北米Plateの東北日本に沈込む富山湾のAM-NA Plate境界に面している.また,3)PC Plateの太平洋底が沈込む北米Plateの東北日本に接している(Fig. A).
 気象庁の2024年1月1日能登半島の最大CMT解M7.5の深度は,破壊開始の初動が16㎞で.主破壊のCMT深度は15㎞で,垂直上方に破壊が進展している.この深度は,地殻/Mantle境界のMoho面直上に位置している.Moho面直下のMantle最上部は,日本列島で最強の大黒柱となっており,今回の能登半島地震は日本列島を支える大黒柱の破損と言える.松田(1975)の地震規模と地震断層の関係によって算出される地震断層長は40㎞で,ずれが3.16mである.主圧縮P歪軸方位は,1)中央構造線 Median Tectonic Lineを屈曲させている丹沢・伊豆衝突のPH-AM に最も良く合致している(Fig. A).丹沢・伊豆の衝突境界と能登半島の間に位置する飛騨では,能登半島の地震と連動して群発地震が発生していた.
 本破壊を発生させる歪の一部が前もって解放されるのが前震であるので,前震と本震の歪方位に差はない.順次発生する前震の主歪軸方位は変化しないが,本震が起これば,本破壊を起こす歪と平衡状態にあった押引逆の歪も余震として開放される.前震から本震終了まで発生しなかった押引逆の地震は,本震終了の目安になる.気象庁の速報解によれば,最大地震2024年1月1日16時10分M7.6の歪軸方位に対して,最初の押引逆の歪軸方位の地震は,2024年1月3日06時32分M4.5pであった.この押引逆地震の速報によって1月1日の最大地震から2日半後に本震終了が確認できた.数日の精査後に公開されるCMT解にも,押引逆の2024年1月3日18時48分M4.7+prが認められる.
既存境界面に歪を累積させるには,境界面に沿う滑りを摩擦によって停止させる必要がある.摩擦によって停止している境界面には境界面に沿う圧縮力と境界面に直交する摩擦の抗力が合成された剪断Shearing歪が累積し,限界に達すると定期的に地震を発生させる.剪断歪の主圧縮P歪軸傾斜方位は,摩擦抗力が合成されるため境界面傾斜と逆方位になる.座屈による新規断層面の傾斜方位は主圧縮P歪軸傾斜方位と同方位なため,既存断層の再活動と区別できる.
 2007年から2022年6月19日M5.1+pまでのCMT解7個の主圧縮P歪軸傾斜方位は全てPlate運動方位で座屈による初生断層である.2022年6月20日M4.9+p以後2023年5月までの7個では,Plate運動方位と逆傾斜の剪断歪による既存断層再活動がM5.1以上の地震に続くM4.9以下の小地震に4個認められた.
能登域は都近郊に位置し,大地震の記録漏れは少ないと予想されるが,最初の記録は,享保1729年M7.0に於ける30%以上の潰家である(宇佐美,2003).次は,明治1892年志賀M6.4・M6.3である.明治以降のM6.0以上の記録は,1933年穴水M6.0,1993年珠洲北方M6.6,2007年冨来M6.6,2023年珠洲M6.2がある(Fig. B).
 1729年享保M7.0の震源を避け,切れ残った所に集積したPlate運動PH-AMの歪を2019年からの群発地震と2023年珠洲M6.2を前震として初生断層によって解放したのが今回の2024年1月1日能登半島地震M7.5と結論できる.

引用文献] 
 松田時彦 (1975) 活断層から発生する地震の規模と周期について. 地震第2輯, 28, 269-283.
 宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会(東京),605p.