日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

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[U-15] 2024年能登半島地震(1:J)

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

17:15 〜 18:45

[U15-P83] 生物遺骸の分布高度に基づく2023年・2024年能登半島地震に伴う海岸隆起調査

*立石 良1安江 健一1石山 達也2金田 平太郎3廣内 大助4松多 信尚5白濱 吉起2堤 浩之6、後藤 玲奈1藤波 哲平3澤田 渚1 (1.富山大学、2.東京大学地震研究所、3.中央大学、4.信州大学、5.岡山大学、6.同志社大学)

キーワード:能登半島地震、海岸隆起、離水生物遺骸群集

2023年5月5日に能登半島北東部で発生したM6.5の地震(地震調査研究推進本部,2023),および2024年1月1日に発生したM7.6の地震(地震調査研究推進本部,2024)に伴う地殻変動や地形変化を明らかにすることを目的として,生物遺骸の分布高度等を基準とした海岸隆起調査を行った.
1.2023年5月5日の地震による海岸隆起調査
 国土地理院(2023)のSAR干渉解析によれば,2023年5月5日の地震による隆起量は,珠洲市北部の折戸町シャク崎付近を中心とした半径8 kmの範囲で最大約20 cmとされている.地震直後の2023年5月6日に行った現地調査では,海岸沿いの岩礁や岸壁の海面上にケガキ(Saccostrea kegaki Torigoe & Inaba)やマガキ(Crassostrea gigas),旧汀線の指標として有効とされるヤッコカンザシ(Spirobranchus akitsushima)など,潮間帯に生息する固着生物の遺骸が露出しており,地震時の隆起により死滅したものと考えられた.そのため,珠洲市北部の各地でこれらの生物遺骸の海面からの分布高度を計測し,この計測値から計測時の潮位観測記録と5年間の平均潮位の差を減じた値を隆起量とした.その結果,隆起量は最大0.3 m程度であり,折戸町狼煙漁港(折戸)からシャク崎付近の約1 kmの範囲をピークに東西へ減少することが分かった.この結果はSAR干渉解析や,本研究と同じく現地で固着生物遺骸の計測を行った宍倉ほか(2023)と調和的であり,海域活断層の変位量分布を反映している可能性がある.
2.2024年能登半島地震(M7.6)に伴う海岸隆起調査
 2024年能登半島地震(M7.6)後の現地調査では,隆起域全体で砂浜海岸・岩石海岸が大きく広がり,潮間帯以深に生息するピリヒバ(Corallina pilulifera)群集の上方境界が海面より上に露出し,水平方向に連続する様子が確認された.この上方境界は,多くの地点でヤッコカンザシの分布下限と一致する.さらに,岩礁地帯ではノッチを境に上方にヤッコカンザシの,下方にピリヒバの遺骸が密集する様子が確認された.これらのことから,ピリヒバの上方境界がほぼ隆起前の平均海面を示すと考えられた.そこで,能登半島北部全域の合計98地点で,ピリヒバの上方境界の海面からの分布高度をレーザ計測等により計測した.現在能登半島北部では潮位観測記録が欠測しているため,天文潮位と5年間の平均潮位の差を計測値から減じて隆起量としたところ,珠洲市北部と輪島市西部の最大隆起量はそれぞれ約2.6 m(珠洲市長橋町鞍崎周辺),約4.7 m(輪島市門前町深見周辺)となった.海岸隆起は能登半島北部の広い範囲に及んでおり,国土地理院(2024)のSAR干渉解析による隆起量分布と概ね整合的である.また,隆起量分布は,宍倉ほか(2020)で報告された低位段丘面群の旧汀線高度分布と概ね整合しており,能登半島北部の低位段丘面群が,海域活断層によるM7〜M7後半クラスの地震の繰り返しにより形成された可能性が示唆される.すなわち,低位段丘面群の離水年代を特定することで,能登半島沖の海底活断層の活動時期と再来間隔を推定できる可能性がある.なお,著者らは現在,追加調査として死滅ピリヒバの上端―下端境界の高さを計測しており,発表時にはより精度の高い結果を報告する予定である.
謝辞
 本研究の実施にあたっては,科学研究費補助金(特別研究促進費23K17482)「2023年5月5日の地震を含む能登半島北東部陸海域で継続する地震と災害の総合調査」の一部を使用しました.記して感謝申し上げます.
引用文献
国土地理院,2023,「だいち2号」観測データの干渉解析による石川県能登地方の地震(2023年5月5日)に伴う地殻変動(2023年5月8日発表),https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20230505noto.html(2024年4月6日閲覧).
国土地理院,2024, 「だいち2号」観測データの解析による令和6年能登半島地震に伴う地殻変動(2024年1月19日更新),https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20240101noto_insar.html(2024年4月6日閲覧).
宍倉ほか,2020,活断層研究,No. 53,pp. 33-49.
宍倉ほか,2023,日本地震学会秋季大会,S22P-08.