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[G03-06] 事前の理科教育が震災の受け止めや被災後の防災意識に与える影響-熊本地震の事例におけるアンケート調査の分析-
キーワード:理科教育、心の減災、熊本地震
地震多発国の日本において、地震学の普及は重要であるが、人々の関心は被災生活にあるため、その差異を理解して専門知識を伝える必要がある。
この問題に対して本研究は、被災時に「なぜ自分がこのような辛い被災生活を経験しなければならないのか」を納得しやすくなる材料(光井、2018)としての地震学の重要性を探るべく、「2016年熊本地震の際に小学校当時の断層教育を思い出したことで気持ちが落ち着いた」という事例を調査している。これまでの概要を以下に示す。
・事例の概要(中川、2017)
益城町の小学校在籍当時(2000年頃)に理科の授業で、学校の直下にある布田川断層について学んでいた子供たちが、その後、熊本地震で被災した際に、地震を引き起こしたのがその布田川断層だったと思い出したことで気持ちが落ち着いた、という証言が複数名から得られた。
・教諭への面接調査(光井・吉武、2020)
事前の理科教育から被災時のストレス軽減に至る過程には多様な心理的プロセスが想定される。まず、事前の教育について、理科の専任教員として授業を担当したX教諭への面接を実施し、授業内容等を確認した。教諭が授業で重視していた点は「自分達の住む土地がどのようにできたか知る」「地球のダイナミックさを伝える」「野外等での観察を通じて地学現象のスケールの大きさを実感する」であった。また、地質図を見せながら『この辺を見てごらん、みんな、阿蘇の火砕流が積んだところだよ』など、自分達の住んでいる所の土地の成り立ちを説明し、布田川断層にも言及した。当時は、地震の発生をあまり現実的に思っていなかったため、『いざとなったら起こるかも』と話すと同時に『でも実際に起こる時は、断層からの距離はあまり関係なく一帯が揺れる』と説明した。
・教え子への面接調査(光井・他、2022;2024)
X教諭の教え子への面接を実施し、授業内容や熊本地震発生時の心理状況等を確認した。15名中6名が被災後に授業内容を思い出し、その全員が地震が起きたことに納得する傾向を示した。その他、(おそらく日奈久断層による)更なる地震の心配や、地盤の強さや断層の上盤/下盤と関連づけて被害の大きさを考える発言があった。一方、授業内容を思い出さなかった場合、人とのつながりのみによって被災経験を意味のあるものと捉える傾向がみられた。このことから、授業内容を思い出して被災経験を考える観点が増えたことで、被災後の心理状態に至る過程に差異が生じた可能性が示唆された。
そのため、面接時の会話を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析し、事前の理科教育から被災時の心理状況に至るプロセスの仮説を生成した。その結果、思い出した群では、被災時の災害に対する不安の変化と並行して、小学生当時の授業の記憶を思い出し納得するなどの記憶の想起による地震の受け止めの変化が生じたことで、適切な地震発生可能性の受け止めが行われ、災害自己効力感の醸成を主とした災害意識と防災行動へとつながっていた。一方、思い出さなかった群では、揺れや被災生活に関する非日常感や身近な人々や他地域の人々などの人との関わりが災害に対する不安の変化に影響し、人との関わりの良し悪しが、現在における被災経験の受け止めにも影響していた。よって、地震や断層の知識は、被災経験の多角的な受け止めに寄与し、災害意識と防災行動にも影響を与えると考えられる。
・アンケート調査(吉武・他、2024)
会話の分析結果を検証するWebアンケートを2024年2月末に実施した。被災時に「地震に関わる授業内容や知識を思い出した」と認知することが防災意識や災害の受け止めに与える影響を明らかにすることを目的とし、2016年熊本地震の前震もしくは本震の被災経験を持つ者を調査対象者とした。その結果、地震の知識を被災時に認知した者は、認知しなかった者と比較して防災意識や災害自己効力感が有意に高かった。さらに、小学校の授業内容や一般的な地震に関する知識の両方を被災時に認知した者は、「身の周りの被害について理解できた」ことが防災意識・防災行動意図・前向きな受け止めに影響を与えていたことが認められた。
これらの結果から、地震や断層等の地学(理科)を学び知識を得ること、特に自分の住む地域(身の周り)と知識のつながりを感じられることは、被災後の意識に重要な働きをする。よって、学んだ知識と身の周りのつながりを重視した防災教育が有益と思われる。
一連の研究結果は、被災時に「なぜ自分がこのような辛い被災生活を経験しなければならないのか」を納得しやすくなる材料としての地震学の重要性を示す学術的根拠となり得る。
この問題に対して本研究は、被災時に「なぜ自分がこのような辛い被災生活を経験しなければならないのか」を納得しやすくなる材料(光井、2018)としての地震学の重要性を探るべく、「2016年熊本地震の際に小学校当時の断層教育を思い出したことで気持ちが落ち着いた」という事例を調査している。これまでの概要を以下に示す。
・事例の概要(中川、2017)
益城町の小学校在籍当時(2000年頃)に理科の授業で、学校の直下にある布田川断層について学んでいた子供たちが、その後、熊本地震で被災した際に、地震を引き起こしたのがその布田川断層だったと思い出したことで気持ちが落ち着いた、という証言が複数名から得られた。
・教諭への面接調査(光井・吉武、2020)
事前の理科教育から被災時のストレス軽減に至る過程には多様な心理的プロセスが想定される。まず、事前の教育について、理科の専任教員として授業を担当したX教諭への面接を実施し、授業内容等を確認した。教諭が授業で重視していた点は「自分達の住む土地がどのようにできたか知る」「地球のダイナミックさを伝える」「野外等での観察を通じて地学現象のスケールの大きさを実感する」であった。また、地質図を見せながら『この辺を見てごらん、みんな、阿蘇の火砕流が積んだところだよ』など、自分達の住んでいる所の土地の成り立ちを説明し、布田川断層にも言及した。当時は、地震の発生をあまり現実的に思っていなかったため、『いざとなったら起こるかも』と話すと同時に『でも実際に起こる時は、断層からの距離はあまり関係なく一帯が揺れる』と説明した。
・教え子への面接調査(光井・他、2022;2024)
X教諭の教え子への面接を実施し、授業内容や熊本地震発生時の心理状況等を確認した。15名中6名が被災後に授業内容を思い出し、その全員が地震が起きたことに納得する傾向を示した。その他、(おそらく日奈久断層による)更なる地震の心配や、地盤の強さや断層の上盤/下盤と関連づけて被害の大きさを考える発言があった。一方、授業内容を思い出さなかった場合、人とのつながりのみによって被災経験を意味のあるものと捉える傾向がみられた。このことから、授業内容を思い出して被災経験を考える観点が増えたことで、被災後の心理状態に至る過程に差異が生じた可能性が示唆された。
そのため、面接時の会話を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析し、事前の理科教育から被災時の心理状況に至るプロセスの仮説を生成した。その結果、思い出した群では、被災時の災害に対する不安の変化と並行して、小学生当時の授業の記憶を思い出し納得するなどの記憶の想起による地震の受け止めの変化が生じたことで、適切な地震発生可能性の受け止めが行われ、災害自己効力感の醸成を主とした災害意識と防災行動へとつながっていた。一方、思い出さなかった群では、揺れや被災生活に関する非日常感や身近な人々や他地域の人々などの人との関わりが災害に対する不安の変化に影響し、人との関わりの良し悪しが、現在における被災経験の受け止めにも影響していた。よって、地震や断層の知識は、被災経験の多角的な受け止めに寄与し、災害意識と防災行動にも影響を与えると考えられる。
・アンケート調査(吉武・他、2024)
会話の分析結果を検証するWebアンケートを2024年2月末に実施した。被災時に「地震に関わる授業内容や知識を思い出した」と認知することが防災意識や災害の受け止めに与える影響を明らかにすることを目的とし、2016年熊本地震の前震もしくは本震の被災経験を持つ者を調査対象者とした。その結果、地震の知識を被災時に認知した者は、認知しなかった者と比較して防災意識や災害自己効力感が有意に高かった。さらに、小学校の授業内容や一般的な地震に関する知識の両方を被災時に認知した者は、「身の周りの被害について理解できた」ことが防災意識・防災行動意図・前向きな受け止めに影響を与えていたことが認められた。
これらの結果から、地震や断層等の地学(理科)を学び知識を得ること、特に自分の住む地域(身の周り)と知識のつながりを感じられることは、被災後の意識に重要な働きをする。よって、学んだ知識と身の周りのつながりを重視した防災教育が有益と思われる。
一連の研究結果は、被災時に「なぜ自分がこのような辛い被災生活を経験しなければならないのか」を納得しやすくなる材料としての地震学の重要性を示す学術的根拠となり得る。