16:15 〜 16:30
[HCG21-10] セディメントトラップを用いた秋田県一ノ目潟の年縞堆積過程の解明

キーワード:年縞、堆積過程、一ノ目潟、マール、セディメントトラップ
年縞堆積物は,生物擾乱がないので年・季節スケールでの環境変化を理解できるだけでなく,気候変動のような長い周期の環境変化も高解像度に堆積物に反映しており,古気候・古環境復元においても有用である。年縞堆積物は,有機質年縞,石灰質年縞 (Kelt and Hsu, 1978) ,砕屑質年縞 (Strum, 1979) ,鉄質年縞 (Anthony, 1977) など,堆積環境に応じていくつか種類があり,詳細な古環境の復元のためには,それぞれの湖沼での堆積過程を解明することが重要である。福井県水月湖は汽水湖であり,年縞の堆積が確認されている。水月湖の年縞堆積物は,春先の珪藻ブルームと同じ群集組成で特徴づけられる明灰色薄層は春季に,水温躍層形成時の還元環境で沈殿する菱鉄鉱や黄鉄鉱が多く観察される不透明鉱物濃集層は夏季に,秋の珪藻ブルームと同じ群集組成の珪藻殻がみられる暗灰色薄層は秋季以降にそれぞれ堆積したと推定されている (福沢, 1995) 。秋田県男鹿地域の一ノ目潟は淡水湖で,爆裂火口に形成されたマール湖であり,水月湖と同様に年縞堆積物を有している。山田ほか (2014) によって採取されたコアは,主に珪藻殻からなる明灰色層と不定形有機物や砕屑物からなる暗灰色層が観察され,層序や古環境復元などが行われている。一方で,年縞の堆積過程については,コア試料のSEM観察から,春季の珪藻ブルームによって明灰色層が堆積し,秋季から冬季にかけて生物生産が高まり,暗灰色層が堆積したとの推測に留まっている。そこで本発表では,2023年4月からの定期観測と,設置したセディメントトラップから得られた沈降粒子の情報を用いて,一ノ目潟年縞の堆積過程を議論する。
2023年4月29日からおおよそ30日ごとに,水試料の採取や水温データの測定を一ノ目潟の湖心で行った。また,セディメントトラップは水深約20 mと湖底から1 m直上に回収容器がついたものを湖心に設置し,毎回の調査ごとに沈降粒子試料を回収した。水塊ごとに採取した水試料ではプランクトン群集観察およびセルカウントを行い,沈降粒子試料ではスメアスライド観察やRock-Eval分析をおこなった。
湖心における底層水温の測定と鉛直方向水温の測定の結果,一ノ目潟では成層化が夏季の8月~9月に最大となり,全層循環が冬季の12月下旬に開始し2月まで継続することが分かった。水塊ごとのプランクトン群集観察の結果では,2月以降に表層 (水深0 m) と中層 (水深20 m) のどちらにおいても珪藻 Asterionella sp. が繁茂していた。2024年に於いては3月19日がブルームの極大で,セルカウントの結果個体数は7.1×102 cells/mlであり,ブルームは6月21日まで続いている様子が観察された。しかし,Asterionella sp. は水塊の成層化が進むにつれ個体数も減少していき,11月に入ると観察されることはなくなった。セディメントトラップで得られた沈降粒子中の珪藻殻の割合と月ごとのフラックスの積は5月が最大となり,ブルームの極大期とは約二か月の差があった。沈降粒子のRock-Eval分析の結果,HI(Hydrogen Index;mg CH/g TOC)とOI(Oxygen Index;mg CO2/g TOC)は,珪藻の生産が高い4~9月の時期にはHIが350~400と高く,OIが120~160と低い値をとり,中層と底層では大きく値が異ならなかった。しかし,珪藻の生産が低くなる11月以降ではHIが徐々に減少し,2月の沈降粒子は中層で205,底層で234とそれぞれ最小をとった。また,OIは11月以降上昇し,2月の沈降粒子は中層で246,底層で226とそれぞれ最大をとる。さらに,パイログラムからは11月から2月の沈降粒子中の有機物において,易分解性の成分が分解されていることが示された。
セディメントトラップで得られた沈降粒子の分析から,以下のように一ノ目潟の年縞堆積過程をより詳細に理解することができた。まず,12月下旬から開始した水塊の全層循環によって,底層の栄養塩が湖水全体に供給され,遅れて2月から珪藻ブルームが引き起こされることが確認できた。珪藻の生産は,成層化が発達する9月まで高い状態であり,おおよそ3月から10月までは珪藻由来の沈降粒子からなる明灰色層が堆積することが示唆された。11月から2月では,易分解性成分が水塊中で分解されて,残存したOIの値が高い腐植物質が主成分の沈降粒子が暗灰色層として堆積することが示唆された。全層循環によって堆積物直上水中の懸濁粒子が巻き上げられることでも,これらの腐植物質に富む粒子の堆積が促進されたと考えられる。
2023年4月29日からおおよそ30日ごとに,水試料の採取や水温データの測定を一ノ目潟の湖心で行った。また,セディメントトラップは水深約20 mと湖底から1 m直上に回収容器がついたものを湖心に設置し,毎回の調査ごとに沈降粒子試料を回収した。水塊ごとに採取した水試料ではプランクトン群集観察およびセルカウントを行い,沈降粒子試料ではスメアスライド観察やRock-Eval分析をおこなった。
湖心における底層水温の測定と鉛直方向水温の測定の結果,一ノ目潟では成層化が夏季の8月~9月に最大となり,全層循環が冬季の12月下旬に開始し2月まで継続することが分かった。水塊ごとのプランクトン群集観察の結果では,2月以降に表層 (水深0 m) と中層 (水深20 m) のどちらにおいても珪藻 Asterionella sp. が繁茂していた。2024年に於いては3月19日がブルームの極大で,セルカウントの結果個体数は7.1×102 cells/mlであり,ブルームは6月21日まで続いている様子が観察された。しかし,Asterionella sp. は水塊の成層化が進むにつれ個体数も減少していき,11月に入ると観察されることはなくなった。セディメントトラップで得られた沈降粒子中の珪藻殻の割合と月ごとのフラックスの積は5月が最大となり,ブルームの極大期とは約二か月の差があった。沈降粒子のRock-Eval分析の結果,HI(Hydrogen Index;mg CH/g TOC)とOI(Oxygen Index;mg CO2/g TOC)は,珪藻の生産が高い4~9月の時期にはHIが350~400と高く,OIが120~160と低い値をとり,中層と底層では大きく値が異ならなかった。しかし,珪藻の生産が低くなる11月以降ではHIが徐々に減少し,2月の沈降粒子は中層で205,底層で234とそれぞれ最小をとった。また,OIは11月以降上昇し,2月の沈降粒子は中層で246,底層で226とそれぞれ最大をとる。さらに,パイログラムからは11月から2月の沈降粒子中の有機物において,易分解性の成分が分解されていることが示された。
セディメントトラップで得られた沈降粒子の分析から,以下のように一ノ目潟の年縞堆積過程をより詳細に理解することができた。まず,12月下旬から開始した水塊の全層循環によって,底層の栄養塩が湖水全体に供給され,遅れて2月から珪藻ブルームが引き起こされることが確認できた。珪藻の生産は,成層化が発達する9月まで高い状態であり,おおよそ3月から10月までは珪藻由来の沈降粒子からなる明灰色層が堆積することが示唆された。11月から2月では,易分解性成分が水塊中で分解されて,残存したOIの値が高い腐植物質が主成分の沈降粒子が暗灰色層として堆積することが示唆された。全層循環によって堆積物直上水中の懸濁粒子が巻き上げられることでも,これらの腐植物質に富む粒子の堆積が促進されたと考えられる。