日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 防災リテラシー

2025年5月26日(月) 09:00 〜 10:30 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)、座長:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)

09:15 〜 09:30

[HDS09-02] YOU@RISK子ども版・洪水災害編を活用した防災教育プログラムの提案

*永田 俊光1,2、李 泰榮2、木村 玲欧3,2小田 隆史4,2、池田 真幸2 (1.気象庁新潟地方気象台、2.国立研究開発法人防災科学技術研究所、3.兵庫県立大学、4.東京大学)

キーワード:洪水災害、防災教育プログラム、Web-GIS、YOU@RISK、避難行動

近年、日本では風水害による被害が頻発化・激甚化しており、ハザードマップや自治体が発令する避難情報、安全な避難場所や避難経路等を正しく理解し、適切なタイミングで避難行動を取るための防災リテラシーの向上が求められている(防災白書2023)。特に学校教育においては、生徒が自然災害のリスクを正しく認知し、自らの命を守るための知識と行動力を身に付けることが重要である。本研究では、地図情報を活用して、洪水のリスクを視覚的に理解し、洪水災害から身を守るための知識と主体的に行動する対応力を身に付ける洪水防災教育プログラムを提案する。このプログラムは、GIGAスクール構想によるICT教育の推進を背景に、Web-GIS技術を活用したICT教材「YOU@RISK子ども版・洪水災害編」を基盤とし、地図リテラシーと防災リテラシーの向上を目的とした中学生向けの地理教育と防災教育を融合させた新たな教育モデルである。
YOU@RISKは、国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)が開発したICT教材であり、災害リスクを視覚的に理解し、地域の地形や危険箇所の把握、避難所と避難経路の選択など、災害時における安全な避難行動を学ぶための機能を備えている(図1)。従来の紙ベースのハザードマップと比較して、タブレット端末を活用することで、地図情報とリスク情報の重ね合わせ、避難経路の比較や選択を通じたインタラクティブな学習が可能である。YOU@RISKはこれまでに、先行研究の津波防災教育プログラム[1]や火山防災教育プログラム[2]で活用され、学校現場での実践を通じて、学習者のリスク認識や意思決定能力の向上に効果があることが確認されている。本研究では、これらの先行研究の知見を基盤に、全国の一級河川の浸水ハザードデータを実装した「YOU@RISK子ども版・洪水災害編」を教材として採用し、洪水リスクに特化した防災教育プログラムを開発した。
本プログラムは、教育学の学習理論であるインストラクショナルデザイン理論のADDIEモデルを採用した。ADDIEモデルは、教材開発において「分析(Analysis)」「設計(Design)」「開発(Development)」「実施(Implementation)」「評価(Evaluation)」の5つの段階で構成され、先行研究[1][2]や他分野の学術研究で広く採用されているフレームワークである(図2)。
本研究では、ADDIEモデルのうち、①Analysis(洪水防災教育の課題や教育現場のニーズを調査し、プログラムの学習目標を設定)、②Design(学習目標に基づき、3つの学習ステップを設計)、③Development(YOU@RISKを教材の中心に据え、タブレット端末を活用し、地域特性を反映した学習指導案を作成)の3段階に焦点を当てた。
本プログラムの対象は、教科学習の理科で基礎的な知識を履修し、社会科で地図情報を扱う中学生を対象としている。プログラムは、以下の3つの単元構成と学習目標を設定した(表1)。各単元の学習時間は、中学校の標準的な授業時間である50分とした。
単元1(基礎知識の学習)では、「1.洪水の特徴や被害、影響を理解する、2.洪水から身を守る備えを理解する、3.避難情報やとるべき行動を理解する」を学習目標とした。この学習では、生徒は地図情報や洪水リスクに関する基礎的な知識を深く理解し、基礎的なリスク認識能力を養う。単元2(地図学習)では、「1.学校周辺や地域の洪水リスクを調べ理解する、2.地域の危険エリアや避難場所を調べ理解する、3.避難経路や避難行動を調べ考える」を学習目標とした。この学習では、個人のタブレット端末を使い、YOU@RISKを操作しながら、洪水リスクや安全な避難場所を調べ、避難経路をシミュレーションする。これにより、地域特性を考慮した地理的技能を身に付け、生徒自身が最適な避難経路を判断する能力を育成する。単元3(グループワーク)では、「1.グループで協働し、地域の洪水リスクや適切な避難行動を考える、2.話し合ったことをまとめ、発表する」を学習目標とした。この学習では、グループディスカッションを通じて、生徒同士が意見を共有し合うことにより、協働的な問題解決力と主体的な意思決定能力を育成する。
これらの単元構成は、先行研究の成果を参考に設計しており、地理的技能や主体的な意思決定能力、防災リテラシーの育成を目指している。本研究では、3つの単元構成の学習を教員が実践するために必要な学習指導案を作成した(図3)。本研究は、先行研究の知見を採用して洪水防災教育プログラムを開発し、新たな教育モデルとして提案した。文部科学省が作成する「実践的な防災教育の手引き(2023)」の実践事例として掲載される予定であり、社会的な意義は大きい。しかし、本プログラムの有効性を学術的に検証するためには、教育現場での実践と効果測定が必要である。今後は、学習効果の定量的な評価や教師からのフィードバックを収集し、プログラムの改良を進める計画である。[1]https://bosai-kyoiku.jp/bousai/187/ [2]https://bosai-kyoiku.jp/bousai/641/