日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR05] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2025年5月29日(木) 13:45 〜 15:15 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:白井 正明(東京都立大学)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 )、吾妻 崇(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、里口 保文(滋賀県立琵琶湖博物館)、座長:石井 祐次(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所)

14:00 〜 14:15

[HQR05-14] 大分県姫島の更新統唐戸層におけるAso-4テフラ挟在層準の堆積環境

*納谷 友規1水野 清秀1堀内 悠2 (1.国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター、2.姫島村役場企画振興課おおいた姫島ジオパーク推進協議会)

キーワード:後期更新世、Aso-4テフラ、珪藻、瀬戸内海

瀬戸内海西部の周防灘と伊予灘の境界付近に位置する姫島は,丸石鼻層,川尻礫層,唐戸層,姫島火山群の活動による溶岩・貫入岩・火山砕屑物・火口湖堆積物などからなる(伊藤ほか,1997).最近,唐戸層は浅海成層と淡水成層からなる複数の堆積サイクルからなることが知られるようになった(水野,2018;Naya & Mizuno, 2021).唐戸層の堆積時期は前〜中期更新世と考えられてきた(伊藤ほか,1997)が,納谷ほか(2024)は唐戸層にはAso-4テフラが挟在することを報告し,唐戸層には上部更新統が含まれることを示した.納谷ほか(2024)は,2枚の浅海成層の間に挟まる淡水成層にAso-4テフラが挟まると報告した.しかしその後,試料間隔を密にして珪藻分析を実施した結果,浮洲におけるAso-4テフラ層は,海成層中に挟在されることが明らかになった.本発表では,浮洲における唐戸層の堆積環境と,Aso-4テフラ層とその他のテフラ層との層位関係について報告する.
 姫島北岸浮洲の干潟には波食棚を形成して唐戸層が分布する.この地点の唐戸層はみかけの傾斜が30–80°と変化に富み,走向も数10°の幅で変化する.また,異なる層相の地層が断層で接する場所も確認され,極めて複雑な地質構造を呈する.本発表では,その中で層厚約15mの地層が連続的に観察できた範囲を対象とする.調査地点の唐戸層は見かけ30°ほど傾いているが,明瞭な堆積構造を持たない泥層と砂質泥層を主体としており,地層の上下判定が極めて困難であった.本発表では堆積環境の推移やテフラ層の対比から上下が逆転していると判断して以下の記載を行う.
 珪藻化石群集を検討した結果,調査地点の唐戸層は下位より淡水成層(A層),浅海成層(B層),淡水成層(C層),浅海成層(D層),淡水成層(E層)からなることが明らかになった.淡水成層では,湖沼性珪藻であるAulacoseira nipponicaが優占することから,湖沼環境であったと考えられる.一方,淡水成層(A層,C層)の最上部は砂層および有機質泥層からなり,Diadesmis contentaHantzschia amphioxysなど陸生珪藻が多く産出することから,湖沼が浅くなり湿地や氾濫原環境へと変化したと考えられる.浅海成層(B層,D層)ではParalia sulcataP. fenestrataが優占し,次いでDelphineis cf. surirella, Cyclotella baltica complexなどが産出した.浅海成層の上位はAulacoseira nipponicaが優占する淡水成の砂質泥層が重なる.以上の結果から調査地点では、湖沼が浅くなり湿地や氾濫原となった後に海進によって海域が拡がり,その後,海水が淡水に置き換わり湖沼環境になる堆積サイクルが2回識別できた.なお,上位の海成層から貝化石が産出した.
 調査地点では4枚のテフラ層が確認された.A層とE層に挟まるテフラ層は黒雲母を多く含み角閃石を伴い硬石膏をわずかに含むガラス質テフラで,A層ではザクロ石が確認され,E層では基底部に火山灰と同じ岩質の流紋岩角礫が含まれる.両テフラの岩石学的特徴は,姫島火山群の達磨山火山と稲積火山の特徴に一致する.B層とC層には黒雲母を含む最大径10cmの灰白色流紋岩角礫が散在する.この流紋岩角礫の特徴は姫島火山群の城山火山と浮洲火山の特徴と一致する.C層の最下部には最大径10cmの発泡した軽石からなる軽石層と,それに重なるバブルウォール型火山ガラスを主体とする細粒火山灰層が挟まる.このテフラ層は火山ガラスの化学組成の特徴などからAso-4テフラに対比される.
 Aso-4テフラの降灰時期は,鹿島沖コアの底生有孔虫の酸素同位体比層序との対比に基づき,MIS 5b末期の8.7万年前とされる(Aoki, 2008).唐戸層のAso-4テフラは海成層の基底部に挟在されることから,堆積時の海水準が高かったと考えられる.このことは,唐戸層に堆積したAso-4テフラは海進にともなうラグ堆積物である可能性や,Aso-4の降灰時期には海水準が高かった可能性が考えられる.いずれの場合も,D層はMIS 5aの海進期ー高海水準期に堆積したと考えられる.調査地点の唐戸層に見られる2回の海進海退のサイクルが汎世界的氷河性海水準変動を反映しているとすると,A層はMIS 5d,B層はMIS 5c,C層はMIS 5c-b,D層はMIS 5a,E層はMIS 5a-4に堆積した可能性が高い.
 この結果は,姫島火山群の流紋岩質の火山活動が,少なくともMIS 5a-4の7–6万年前ごろまで継続しており,その噴出物が海底や湖底に堆積したことを示している.そして,その後,地層を著しく変形させる構造運動によって現在の海水準の位置まで隆起したと考えられる.

引用文献:Aoki (2008) Quaternary International, 178, 100–118;伊藤ほか(1997)地域地質研究報告(1/5万地質図幅),産総研地質調査総合センター;水野(2018)月刊地球号外, 69, 48–54;Naya & Mizuno (2021) Phytotaxa, 505, 85–96;納谷ほか(2024)日本地質学会131年学術大会講演要旨, T15-O-21.