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[MTT38-P01] 船舶レーダによるメソ対流系の観測:九州西方海上の梅雨前線帯における事例解析
キーワード:船舶レーダ、梅雨前線、メソ対流系、黒潮、 ひまわり8号雲画像
1.はじめに
東シナ海北東部の黒潮流域上の大気環境場は,九州における線状降水帯形成の要因になっている可能性がるため,2022年6・7月,長崎・鹿児島・三重大学等と気象庁/気象研究所により,九州西方海上で船舶を用いた大気・海洋環境場の集中観測が実施された。この観測は,黒潮系暖水と沿岸系冷水の境界域に梅雨前線帯が位置する絶好の条件のもとで,最大80mm/hの非常に強い降水の中で実施された。このデータを解析し,Manda et al. (2024)は,この強雨が総観規模の発達した低気圧がない状況で起こったこと,対流圏中層の大規模な水蒸気流入と海面付近のほぼ飽和水蒸気状態にある大気環境が重要だったことを示した。さらに,Nakashita et al. (2024)は,観測データを用いたデータ同化実験を通して,観測期間中に観測海域で発生した2回の広域降水イベントの内,2回目の降水イベントは海面水温の影響が大きかったことを指摘した。
本研究は,この集中観測の際,鹿児島大学付属練習船「かごしま丸」の船舶レーダを用いて取得した,雨雲画像を解析したものである。船舶レーダは,約2.5秒で1回転するため,積乱雲の成長と組織化のような短時間で発達するメソ対流系の現象の観測に適している。本研究は,海上で発達するメソ対流系の発生・発達・消滅過程に関する数少ない観測事例である。
2.観測概要と解析方法
2022 年6 月19 日8 時(日本時間)から21 日11 時までの26時間,九州西方海域において,長崎・鹿児島・三重大学の練習船3隻を用いて,ラジオゾンデを用いた高層気象観測とXCTD(水温・塩分計)を用いた海洋観測が実施された。「かごしま丸」では,この観測に合わせて,XとSバンド船舶レーダのPPIスコープ形式の画像を,レーダのコンソールに接続したパソコンに保存した。航海データ(船首方位と船位)を用いて,各画像の方位補正と緯度・経度の位置決定を行い,反射強度(画像の輝度値)のデータセットを作成し解析した。
まず,全観測期間の雨雲画像の動画を作成し,複数のメソ対流系を抽出した。その内,積乱雲とその組織化の状態が画像として明瞭に捉えられていた事例について,個々の雲と雲群の輪郭を画像処理ソフト上でトレースした。そして,個々の雲が組織化していく過程として,雲の発生位置,組織化された形状・規模,発生から成熟そして消滅までの時間を計測し,Kato (2020)に従って,組織化の過程を,a)バックビルディング型(次々に発生する積乱雲が線状に並ぶタイプ)とb)ブロークンライン型(いっせいに積乱雲が線状に発生するタイプ)に分類した。さらに,ひまわり8号の雲画像(熱赤外:2km,10分間隔)と船舶レーダ画像(約200m, 2.5分間隔)を比較し,人工衛星では捉えられない雲の特徴を考察した。
3.結果
現時点では,5つのメソ対流系を抽出した。観測期間内に広域降水イベントが2回起きた。1つ目の広域降水イベントに3つの事例(ケースA, B, C)が属しており,2つ目の広域降水イベントに2つの事例(ケースD, E)が属していた。5事例の内,ケースAは,船位の周辺でメソ対流系が発生したため解析不能であった。あとの4事例について,雲と雲群の輪郭を海面水温分布に重ねた図を作成して考察した。その結果,ケースBとDはバックビルディング型の線状降水帯に分類された。ただし,ケースBは単純なバックビルディング型とは考えられず,黒潮の高水温帯に沿って発生したブロークンライン型との融合型とみなすのが適切かもしれない。ケースCについては明確な判別が難しいが,複数のバックビルディング型の集積,ケースEはブロークンライン型と考えられた。ケースB,C,Dについては,個々の雲が出現する位置は,共通して黒潮高水温帯であった。海面水温分布が海面付近の上昇流を励起していることが指摘できる。
ひまわり8号の雲画像との比較では,ひまわり8号の雲画像は,高積雲に覆われて対流雲(積乱雲)の成長や組織化の過程が明瞭に捉えられないのに対して,船舶レーダの雨雲画像は鮮明に捉えられていた。
4.まとめ
船舶レーダはほとんどの船舶に設置されており,かつ気象レーダと比べると比較的安価である。現段階では,雨雲画像の輝度値から雲水量(雲を構成する粒径状の水の量)を推測するまでには至っていないが,レーダ方程式に基づいてこの量的推定が可能になれば,複数船の船舶レーダを組み合わせて海上の広範囲の雨雲を観測するシステムを構築できる。したがって,船舶レーダの雨雲情報を用いて,ひまわり雲画像を補完することによって,海域の対流雲の特性を詳細に理解できる可能性がある。今後,船舶レーダの利用は,海上での雨雲の有効な観測手段になると考えられる。
東シナ海北東部の黒潮流域上の大気環境場は,九州における線状降水帯形成の要因になっている可能性がるため,2022年6・7月,長崎・鹿児島・三重大学等と気象庁/気象研究所により,九州西方海上で船舶を用いた大気・海洋環境場の集中観測が実施された。この観測は,黒潮系暖水と沿岸系冷水の境界域に梅雨前線帯が位置する絶好の条件のもとで,最大80mm/hの非常に強い降水の中で実施された。このデータを解析し,Manda et al. (2024)は,この強雨が総観規模の発達した低気圧がない状況で起こったこと,対流圏中層の大規模な水蒸気流入と海面付近のほぼ飽和水蒸気状態にある大気環境が重要だったことを示した。さらに,Nakashita et al. (2024)は,観測データを用いたデータ同化実験を通して,観測期間中に観測海域で発生した2回の広域降水イベントの内,2回目の降水イベントは海面水温の影響が大きかったことを指摘した。
本研究は,この集中観測の際,鹿児島大学付属練習船「かごしま丸」の船舶レーダを用いて取得した,雨雲画像を解析したものである。船舶レーダは,約2.5秒で1回転するため,積乱雲の成長と組織化のような短時間で発達するメソ対流系の現象の観測に適している。本研究は,海上で発達するメソ対流系の発生・発達・消滅過程に関する数少ない観測事例である。
2.観測概要と解析方法
2022 年6 月19 日8 時(日本時間)から21 日11 時までの26時間,九州西方海域において,長崎・鹿児島・三重大学の練習船3隻を用いて,ラジオゾンデを用いた高層気象観測とXCTD(水温・塩分計)を用いた海洋観測が実施された。「かごしま丸」では,この観測に合わせて,XとSバンド船舶レーダのPPIスコープ形式の画像を,レーダのコンソールに接続したパソコンに保存した。航海データ(船首方位と船位)を用いて,各画像の方位補正と緯度・経度の位置決定を行い,反射強度(画像の輝度値)のデータセットを作成し解析した。
まず,全観測期間の雨雲画像の動画を作成し,複数のメソ対流系を抽出した。その内,積乱雲とその組織化の状態が画像として明瞭に捉えられていた事例について,個々の雲と雲群の輪郭を画像処理ソフト上でトレースした。そして,個々の雲が組織化していく過程として,雲の発生位置,組織化された形状・規模,発生から成熟そして消滅までの時間を計測し,Kato (2020)に従って,組織化の過程を,a)バックビルディング型(次々に発生する積乱雲が線状に並ぶタイプ)とb)ブロークンライン型(いっせいに積乱雲が線状に発生するタイプ)に分類した。さらに,ひまわり8号の雲画像(熱赤外:2km,10分間隔)と船舶レーダ画像(約200m, 2.5分間隔)を比較し,人工衛星では捉えられない雲の特徴を考察した。
3.結果
現時点では,5つのメソ対流系を抽出した。観測期間内に広域降水イベントが2回起きた。1つ目の広域降水イベントに3つの事例(ケースA, B, C)が属しており,2つ目の広域降水イベントに2つの事例(ケースD, E)が属していた。5事例の内,ケースAは,船位の周辺でメソ対流系が発生したため解析不能であった。あとの4事例について,雲と雲群の輪郭を海面水温分布に重ねた図を作成して考察した。その結果,ケースBとDはバックビルディング型の線状降水帯に分類された。ただし,ケースBは単純なバックビルディング型とは考えられず,黒潮の高水温帯に沿って発生したブロークンライン型との融合型とみなすのが適切かもしれない。ケースCについては明確な判別が難しいが,複数のバックビルディング型の集積,ケースEはブロークンライン型と考えられた。ケースB,C,Dについては,個々の雲が出現する位置は,共通して黒潮高水温帯であった。海面水温分布が海面付近の上昇流を励起していることが指摘できる。
ひまわり8号の雲画像との比較では,ひまわり8号の雲画像は,高積雲に覆われて対流雲(積乱雲)の成長や組織化の過程が明瞭に捉えられないのに対して,船舶レーダの雨雲画像は鮮明に捉えられていた。
4.まとめ
船舶レーダはほとんどの船舶に設置されており,かつ気象レーダと比べると比較的安価である。現段階では,雨雲画像の輝度値から雲水量(雲を構成する粒径状の水の量)を推測するまでには至っていないが,レーダ方程式に基づいてこの量的推定が可能になれば,複数船の船舶レーダを組み合わせて海上の広範囲の雨雲を観測するシステムを構築できる。したがって,船舶レーダの雨雲情報を用いて,ひまわり雲画像を補完することによって,海域の対流雲の特性を詳細に理解できる可能性がある。今後,船舶レーダの利用は,海上での雨雲の有効な観測手段になると考えられる。