15:30 〜 15:45
[MZZ41-07] 地震予知仮説から見た社会への情報発信と受けとめ方の変化
キーワード:地震予知、仮説、社会的影響
地球科学では、発生頻度が低く、時空間的スケールの大きい事象を扱う場合が多い。実験や観測が難しいため、メカニズムや法則性を説明する「仮説」は、提案されたあとに長い期間にわたってデータを蓄積して検証される。また仮説の中には、そもそも検証が極めて難しいものもあり、その場合には「言いっぱなし」のまま放置される。
日本において、地震は社会的関心が最も高い地球科学現象であり、その予知をうたう多くの仮説が提唱されている。たとえば「バヌアツの法則」というものが知られている。これは南太平洋バヌアツ付近で規模の大きい深発地震が発生すると、続いて日本周辺で被害が出るような地震が起こるというものである。だが、この「法則」は加藤(2023)によって、震源カタログにもとづく客観的な解析がなされ、かなり緩やかな基準を適用しても地震の誘発は成立しないことが示されている。
本研究では「熱移送説」(角田・藤, 2022)による地震誘発の検証を試みた。熱移送説はマントルプリュームからの水平方向への「熱」の移動によって地震および噴火がおこるという仮説である。著者によれば「国民の生命と財産を守るため、あえて世に問う”仮説の卵”」であり、これまでにいくつかのバージョンが提案され更新されている。2022年の時点では、深さ410kmから660kmで起こる深発地震のうちM5.5を超えるものが1ヶ月以内に5回以上連続発生すると、1年以内に(世界のどこかで)M7を超える地震が発生すると定義されている。この仮説の的中率は、著者による計算ではM7超地震で90.7%、M8超地震で90.0%と非常に高い。
加藤(2023)の手法を適用し、2000年から2020年までの21年間のISC地震カタログを用いて熱移送説を検証した(西原, 2025関西大学卒業論文)。まず、世界で発生するM7を超える地震の発生間隔が、仮説で定義された基準による連続深発地震が発生したことで短くなるかを調べた。連続して発生した浅いM7を超える2つの地震を取り出し、連続深発地震を間にはさむ場合と、はさまない場合の時間差の中央値を比較したところ、連続深発地震を間にはさむ場合の方が発生間隔は長くなり、深発地震によって浅いM7を超える地震が誘発される傾向は見られなかった。また、2つのM7を超える浅い地震の間に深発地震が連続発生した事例をとりだして調べると、連続深発地震の発生時期が後に発生するM7を超える地震に近いタイミングで起こる傾向は見られなかった。この仮説の的中率の高さは1年間という警報期間の長さによるもので、連続深発地震を前兆として後発の浅い大地震を予知するという熱移送説が提案している法則は成立しないと考えられる。
熱移送説には反プレートテクトニクスの思想的影響が強く見られる[角田(2016)、角田・藤(2024)]。これらの著書の中では、「プレート説は一つの仮説にすぎない」「プレート説は、前述したとおり観測事実に基づかない一種のイデオロギー」といった1970-80年代に一部の地質学者が繰り返し使ったフレーズが見られる。また「地震学者は先に地震の原因をモデル化し、現在の地質状況に見合ったモデルの適否を研究するのが一般的」といった、地震学への不理解も見られる。さらに「東京大学地震研究所は『マグニチュード7クラスの首都直下地震型地震が起きる確率は4年以内に70%である』と公表しています。この試算は、東日本大震災後のプレート活動の変化などから独自にはじき出したもののようです。」といった、プレートテクトニクスとは関係なく計算された地震発生確率の数値までこじつけて、読者に誤解を与える記述も少なくない。
泊(2008) では、1985年に雑誌「科学朝日」でプレートテクトニクスの特集をした際に、「牛来さんの地球膨張説や、藤田さんの日本海陥没説もあるのに、これらを取り上げないのはどうしてなのか、プレートテクトニクスだけがすべてではない」との抗議を受けたと記されている。あらゆる仮説を同列・並列に扱うことを求める思想が、熱移送説でよみがえったと見ることもできる。
現在ではインターネットとSNSの普及で、誰もが情報を発信することができる。1980年代のように良識ある大手メディアが情報を選別する能力は著しく低下している。2024年能登半島地震、2024年南海トラフ地震臨時情報の発表など、地震学への不信感と不満は社会に根強くあり、そのような場面で熱移送説が影響力のあるメディアでポジティブに取り上げられることが続いている。発表では、この種の「仮説」が社会に与える影響などについて考察する。
日本において、地震は社会的関心が最も高い地球科学現象であり、その予知をうたう多くの仮説が提唱されている。たとえば「バヌアツの法則」というものが知られている。これは南太平洋バヌアツ付近で規模の大きい深発地震が発生すると、続いて日本周辺で被害が出るような地震が起こるというものである。だが、この「法則」は加藤(2023)によって、震源カタログにもとづく客観的な解析がなされ、かなり緩やかな基準を適用しても地震の誘発は成立しないことが示されている。
本研究では「熱移送説」(角田・藤, 2022)による地震誘発の検証を試みた。熱移送説はマントルプリュームからの水平方向への「熱」の移動によって地震および噴火がおこるという仮説である。著者によれば「国民の生命と財産を守るため、あえて世に問う”仮説の卵”」であり、これまでにいくつかのバージョンが提案され更新されている。2022年の時点では、深さ410kmから660kmで起こる深発地震のうちM5.5を超えるものが1ヶ月以内に5回以上連続発生すると、1年以内に(世界のどこかで)M7を超える地震が発生すると定義されている。この仮説の的中率は、著者による計算ではM7超地震で90.7%、M8超地震で90.0%と非常に高い。
加藤(2023)の手法を適用し、2000年から2020年までの21年間のISC地震カタログを用いて熱移送説を検証した(西原, 2025関西大学卒業論文)。まず、世界で発生するM7を超える地震の発生間隔が、仮説で定義された基準による連続深発地震が発生したことで短くなるかを調べた。連続して発生した浅いM7を超える2つの地震を取り出し、連続深発地震を間にはさむ場合と、はさまない場合の時間差の中央値を比較したところ、連続深発地震を間にはさむ場合の方が発生間隔は長くなり、深発地震によって浅いM7を超える地震が誘発される傾向は見られなかった。また、2つのM7を超える浅い地震の間に深発地震が連続発生した事例をとりだして調べると、連続深発地震の発生時期が後に発生するM7を超える地震に近いタイミングで起こる傾向は見られなかった。この仮説の的中率の高さは1年間という警報期間の長さによるもので、連続深発地震を前兆として後発の浅い大地震を予知するという熱移送説が提案している法則は成立しないと考えられる。
熱移送説には反プレートテクトニクスの思想的影響が強く見られる[角田(2016)、角田・藤(2024)]。これらの著書の中では、「プレート説は一つの仮説にすぎない」「プレート説は、前述したとおり観測事実に基づかない一種のイデオロギー」といった1970-80年代に一部の地質学者が繰り返し使ったフレーズが見られる。また「地震学者は先に地震の原因をモデル化し、現在の地質状況に見合ったモデルの適否を研究するのが一般的」といった、地震学への不理解も見られる。さらに「東京大学地震研究所は『マグニチュード7クラスの首都直下地震型地震が起きる確率は4年以内に70%である』と公表しています。この試算は、東日本大震災後のプレート活動の変化などから独自にはじき出したもののようです。」といった、プレートテクトニクスとは関係なく計算された地震発生確率の数値までこじつけて、読者に誤解を与える記述も少なくない。
泊(2008) では、1985年に雑誌「科学朝日」でプレートテクトニクスの特集をした際に、「牛来さんの地球膨張説や、藤田さんの日本海陥没説もあるのに、これらを取り上げないのはどうしてなのか、プレートテクトニクスだけがすべてではない」との抗議を受けたと記されている。あらゆる仮説を同列・並列に扱うことを求める思想が、熱移送説でよみがえったと見ることもできる。
現在ではインターネットとSNSの普及で、誰もが情報を発信することができる。1980年代のように良識ある大手メディアが情報を選別する能力は著しく低下している。2024年能登半島地震、2024年南海トラフ地震臨時情報の発表など、地震学への不信感と不満は社会に根強くあり、そのような場面で熱移送説が影響力のあるメディアでポジティブに取り上げられることが続いている。発表では、この種の「仮説」が社会に与える影響などについて考察する。