日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-ZZ その他

[M-ZZ42] 地球化学の最前線:新しい挑戦と将来の展望

2025年5月30日(金) 15:30 〜 17:00 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、羽場 麻希子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、角野 浩史(東京大学先端科学技術研究センター)、井上 麻夕里(岡山大学大学院自然科学研究科)、座長:小畑 元(東京大学大気海洋研究所海洋化学部門海洋無機化学分野)、羽場 麻希子(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、角野 浩史(東京大学先端科学技術研究センター)、井上 麻夕里(岡山大学大学院自然科学研究科)

15:30 〜 15:45

[MZZ42-06] 次世代波数分解能ラマン分光分析と理論計算によるナフタレンの波数校正

*福山 鴻1井上 裕貴2荒川 雅1山本 順司1 (1.九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門、2.九州大学 大学院理学府 地球惑星科学専攻)

キーワード:ラマン分光分析、高波数分解能、ナフタレン、513 cm−1、510 cm−1

ナフタレン (分子式: C10H8)はネオンランプと並び、ラマン分光分析の波数校正に最もよく用いられている標準物質の1つである。特に、波数位置513.8 cm−1, 763.8 cm−1での代表的なラマンピークが報告されていることから (McCreery research group)、低波数領域での校正には不可欠といってよい。このように、長年にわたりラマン分光分析の要となっているナフタレンだが、実測及び理論計算から、波数位置513 cm−1のほかに波数位置510 cm−1にもラマンピークが存在することが示唆されていた (e.g., Hanson and Gee, 1969; Shinohara et al., 1998)。しかし、後続の研究によってはこのラマンピークは報告されておらず (e.g., Ohta and Ito, 1977; Librando and Alparone, 2007)、波数位置510 cm−1にナフタレンのラマンピークが存在するのかどうか、従来のラマン分光装置の波数分解能では未解明のままであった。このことから、500 cm−1付近の低波数側に主要なラマンピークを持つ、quartz (SiO2), olivine ((Mg, Fe)2SiO4), bridgmanite ((Mg, Fe)SiO3)といった造岩鉱物において、最大3 cm−1に及ぶ波数差を生じさせてしまう可能性が懸念されていた。
 そこで、本研究ではラマン分光分析と理論計算 (Scaling factor: TPSSh/6-311G)から、ナフタレンの高精度波数校正に挑んだ。ラマン分光分析には、九州大学太陽惑星系物質科学グループ地球システム化学研究室に設置された次世代級の高波数分解能ラマン分光分析装置を用いた。ラマン分光分析時は、グレーティング、露光時間、レーザー出力、レーザー波長をそれぞれ1200本/mm、30 s、50 mW、633 nmに各々設定した (ピクセル分解能: 0.16 cm−1)。波数校正にはネオンランプを使用した。また、実測で得られたナフタレンのラマンシフトの波数位置は、理論計算からナフタレン由来であることを確かめた。
 結果として、実測と理論計算の双方から、ナフタレンには既存の波数位置513cm−1のラマンピークに加え、波数位置509 cm−1にもラマンピークが存在することが分かった。さらに、これら2つの513cm−1と509 cm−1におけるラマンピークの強度比はナフタレンの結晶方位に依存する可能性があり、両ピークを分離できない波数分解能の分光装置を用いた場合,波数位置にも方位依存性が現れるであろう。
 上記の成果から、ナフタレンを用いて波数校正が行われて得られた低波数側のラマンシフトは再検討する必要があることが示唆された。さらに、ラマン分光装置を用いた造岩鉱物の化学組成の決定 (Yasuzuka et al., 2009; Ishibashi et al., 2012)や、低波数側にラマンピークを持つrubyやzirconに基づく圧力校正 (e.g., Mao et al., 1978; Schmidt et al., 2012)の高精度化が今後期待できる。