日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

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[O-08] キッチン地球科学:多様な到達点を生む実験

2025年5月25日(日) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:熊谷 一郎(明星大学理工学部)、鈴木 絢子(東洋大学)、下川 倫子(奈良女子大学)、栗田 敬(東京工業大学 地球生命研究所)

17:15 〜 19:15

[O08-P05] 二酸化炭素センサーを用いた高校探究授業の試み 第3報 都立調布北高校での実践

★招待講演

*城戸 文1栗田 敬2 (1.東京都立調布北高等学校、2.東京科学大学 地球生命研究所)

キーワード:探究、二酸化炭素、納豆菌、宇宙農業、デジタル活用

本発表は2023年および2024年のJPGUのセッションでの発表「宇宙生物学への道、高校における『探究型授業』の試み」の続報として、都立調布北高校での授業における実践例を報告する。都立調布北高校は全日制普通科の都立高校である。2015年度より東京都の理数研究校に指定され、理数教育の基盤を築いてきた。2020年度からは総合的な探究の時間を他の都立校に先駆けて導入し、2年生の個人研究において特色のあるゼミ活動を展開するなど、生徒の科学的探究心を引き出す探究活動の場の充実を推進している。2年生での個人研究のゼミの一つに、理科系の探究活動を行う「理科ゼミ」を設定している。この理科ゼミを希望する1年生に探究的な実験の手法を体験させることをねらいとして、東京科学大学の栗田敬先生のご指導の下、実習型授業の「キッチン地球科学」を2023年度より2年連続で実施している。

例えば同授業の「二酸化炭素センサーを用いた実験」では、納豆菌の増殖を二酸化炭素濃度で評価する。実験には「火星で土を作るために微生物の生存条件を知る」という背景があり、全4回で実施する。第1回「センサーに慣れる」では、実験の背景を説明するとともにCO2センサーと生徒のスマートフォンを接続する。また、少しずつ培養条件を変えた納豆菌とセンサーをセットする。第2回「納豆菌を計ってみる」では、第1回でセットした各培養条件における二酸化炭素濃度の1週間分のデータをダウンロードし、PCを用いてExcelでグラフを作成する。そして納豆菌の培養条件をさらに変えて(電子レンジ処理、糖の添加、アルコール添加など)、1週間培養する。第3回「各班の研究」では、第2回の結果をふまえて、『納豆菌が増殖する物質は何か?』『納豆菌が死滅する物質は何か?』『添加する物質によって納豆菌の増殖や様態にどのような変化が起きるか?』等、生徒の自由な発想で条件設定を行い、納豆菌を2週間培養する。第4回「成果のまとめ」では、生徒が各自のアイデアで実験を行った研究結果を発表する。二酸化炭素は気候変動との関連など生徒にとって関心を持ちやすい対象である上、手を動かして実験をする機会、またデータの処理・グラフ化などのデジタル活用能力育成の機会ともなる。また「宇宙農業」「納豆菌」「二酸化炭素」などを背景に持つことで宇宙・微生物・土壌・気候変動など、探究活動の切り口として多様な展開の可能性をもっている。2023年度受講生徒は本実験の手法を利用して、「分解可能な繊維を作ろう!」という切り口で1年間の探究活動を行うことができた。

探究活動では「教員がどこまで指導するか」の加減が難しい。教員が指導し過ぎると生徒には退屈である一方で、適度に指導すると探究活動の質が上がることも明らかである。本授業では、実験の背景や、面白い予備知識などは積極的に生徒に教え、実際に手を動かしてから起こる事象や対応については生徒に考えさせるようにしている。また生徒発表については、2023年度は漫然としたプレゼンが多かったが、2024年度は「その物質を選んだ理由は何か」「実験結果が信頼できる根拠は何か」などプレゼンに盛り込むべき内容を課したところ、格段に発表の質が高まった。

高校の「探究活動」の実践においては、生徒が学ぶプロセスと教員の指導とのバランスがとても難しい。探究活動においては、時間をかけながら思考の順序を自分なりに体得していくことが極めて重要であるが、高校では大学入試「総合型選抜」に向けての対策という側面も求められていることは否定できない。実際、探究的に考えるための思考の順序を書いた「探究の教科書」も存在するほどである。しかし探究の根本にあるのは「××はどうなっているのか?」「〇〇を△△したらどうなるだろう?」という好奇心である。本実験授業は背景を教えつつも、結果は誰も知らないような生徒オリジナルの実験ができる構成になっている。未知なるテーマに対し「もっと知りたい」「もっと実験してみたい」という生徒の探究心を引き出すため、生徒と共にわくわくしながら、生徒に絶妙なパスを出すことが教員の腕の見せ所である。

生徒だけではなく私自身も学んだ探究の手法は、探究だけではなく授業にも生かしたいと考えます。2023年度は東京都理数研究校予算、2024年度は文部科学省DXハイスクールの予算を使用しました。本校生徒にこのような機会をいただき、ご関係のみなさまに深く感謝いたします。