日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 月の科学と探査

2025年5月30日(金) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:仲内 悠祐(立命館大学)、小野寺 圭祐(岡山大学惑星物質研究所)、石原 吉明(宇宙航空研究開発機構)、池田 あやめ(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

17:15 〜 19:15

[PPS08-P13] 無水鉱物への重水素イオン照射実験に基づく希薄大気天体-太陽風相互作用による水生成過程の表層形状依存性の調査

*新井 雄大1木村 智樹1森田 里咲1唐戸 俊一郎2、Jiang Qinting2斎藤 義文3仲内 悠祐4 (1.東京理科大学、2.イエール大学、3.宇宙航空研究開発機構、4.立命館大学)


キーワード:太陽風、月、かんらん石、イオン照射

希薄大気天体の表層における水生成・維持の過程は月・水星・小惑星等に普遍的であり、衝突を介して初期地球の水の供給源となった可能性がある(Daly et al., 2021)。そのため、地球の水の起源解明にとって非常に重要である。水星ではMESSENGER搭載の中性子分光計の観測によって、極域の永久影での水氷の存在が示唆されている(Lawrence et al., 2013)。月ではChandrayaan-1搭載のM3による赤外分光観測によって、極域の永久影での水氷の存在が示唆されている(Li et al., 2018)。また、赤外天文台SOFIA(Stratospheric Observatory for Infrared Astronomy)による観測では水分子特有の6.1μm輝線スペクトルが月の高緯度の表層で検出されている(Reach et al., 2023)。これらの観測によって月・水星の永久影における水の存在可能性が高まっている。月・水星の水の起源として2つの過程が考えられている(Schörghofer et al., 2021)。水を含んだ隕石、小惑星、彗星等の天体衝突による供給(Watson et al., 1961; Chabot et al., 2018)と太陽風中の水素イオンと表層鉱物中の酸素原子の化学反応である(Zeller et al., 1966; Jones et al., 2020)。後者の反応では水素イオン照射を受けた表層鉱物がOH基を形成し、さらに水素イオンが照射されることによりH2Oが生成される(Jones et al., 2020)。しかし、どちらの説が供給源として量的に有意であるかは未解明である。先行研究では、水星や月表層における太陽風照射に水生成説を検証するために、これらの天体の表層を模した粉体サンプルに太陽風を模した水素や重水素イオンを照射して水生成率が定量化されてきた(例:北野,木村他, JpGU, 2023; 森田,木村他, JpGU, 2024)が、水星や月の表層鉱物にみられる多様な表面形状(結晶、レゴリス等)への依存性は未解明である。

そこで本研究は、月や水星の表層のバルク結晶構造を模したサンプルに重水素イオンを照射する実験を行い、太陽風による水生成の再現を試みる。本研究で得られた水生成率を、過去の粉体実験の結果と比較することによって表層物質の表面形状依存性を明らかにする。水星や月における代表的な表層鉱物と考えられている無水ケイ酸塩鉱物(かんらん石、(Mg, Fe)2SiO4)の表面をcolloidal silicaで鏡面研磨を行ったサンプルに、5keVの重水素イオンを照射した。水素の同位体である重水素を照射し、それによって生成されるD2OやHDOの生成水の圧力を測定することで、サンプルの付着水による影響を排除しつつ照射による水生成のみ評価した。重水素イオンを5.66×1013 ion/cm2/s のflux、6.11×1016 ion/cm2 のfluenceで照射した。その結果、H2Oの分圧は照射開始10分後に3.3×10-6 Paのピークに到達したのち、150分後にはバックグラウンド(3.0×10-6Pa) と同等の分圧値に落ち着いた。HDOはバックグラウンド(1.4×10-7Pa)から増加していき60分後には1.5×10-7 Paまで到達した。D2Oは照射直後には4.0×10-8 Paまで増加したが照射10分後にはバックグラウンドと同程度の分圧値3.5×10-8 Paに落ち着き、照射90分後にはバックグラウンドの分圧値を下回った。本実験におけるサンプルのH2O、HDO、D2Oの生成は粉体サンプルの実験での水生成率(Yield換算で2.9×10-2 D2O/incident ion、森田, 木村他, JpGU2024)と比較して、ほぼバックグラウンドレベルであり、有意に少ないことが分かった。これは照射粒子と相互作用するサンプル物質の表面積の違いに起因すると考えられる。粉体サンプルは、バルク結晶サンプルよりも入射粒子と相互作用する面積が大きく、水生成率が高いことが示唆される。今後は粉体の表面形状をモデル化し粉体サンプルとバルク結晶サンプルとの面積比を算出し水生成率を補正することによって、表面積依存性を定量的に評価する予定である。本発表では上記の現状を報告する。