日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS09] 地震波伝播:理論と応用

2025年5月30日(金) 10:45 〜 12:15 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹尾 明子(東京大学地震研究所)、澤崎 郁(防災科学技術研究所)、加藤 政史(株式会社地球科学総合研究所)、二宮 啓(産業技術総合研究所)、座長:澤崎 郁(防災科学技術研究所)、二宮 啓(産業技術総合研究所)


11:30 〜 11:45

[SSS09-07] 奥会津地熱地帯でのS波スプリッティングを用いた地下亀裂のモニタリング

*森本 光貴1吉光 奈奈1岡本 京祐2 (1.京都大学、2.産業技術総合研究所)


キーワード:S波スプリッティング、地熱

地球温暖化への対策が求められる中,日本では豊富な地熱資源への注目が高まっている.一方で地熱発電所の長期にわたる稼働に伴い,地下の熱水や蒸気の減少が原因で発電出力の低下が報告されている.そのため持続的な地下の監視によって地下流体や亀裂の時空間変化を推察する必要がある.また,亀裂と水の関係のモニタリングは,放射性廃棄物の地層処分やCO2の地中貯留など,近年進んでいる幅広い目的の地下環境利活用にも役立つと期待される.本研究では微小地震の波形を利用することによる安価で長期的な地下モニタリング手法について,地下の不均質状態の時空間変化の検出と,手法の有用性評価をおこなう.
S波スプリッティングとは,S波が異方性媒質中を通過する際に速いS波と遅いS波に分離する現象である.速いS波の振動方向は亀裂に並行で,亀裂の卓越方向と一致するということが知られており,2つのS波の到達時刻の差は地震波が通過した領域の地下亀裂の密度や閉塞度を表す指標といえる.我々はS波スプリッティング解析を複数の地震波に適用し,地熱貯留層の不均質性の時空間変化の検出を試みる.
調査対象の柳津西山地熱発電所(福島県)では,発電所稼働に伴う熱水や蒸気の減少によって,1995年の稼働当初は65000kWだった定格出力を,2017年には30000kWへと変更した.この蒸気の減少を緩和するために2015年から涵養注水試験が実施されている.断続的な注水試験を経た後,2019年7月以降に連続的な大規模な注水が開始された.発電所周辺には地表観測点5つ(観測点YAE-1~5),ボアホール観測点4つ(YAE-6~9)の計9つの3成分地震計が設置され,サンプリング周波数1000 Hzで収録がおこなわれている.我々は2017年11月以降に着目し,波線が地熱貯留層を通過したと思われる267個の地震の速度波形を使用する.スプリッティング解析にはcross-correlation法を使用し,S波到達0.05秒前から0.30秒間の波形に3から60 Hzのバンドパスフィルタをかけたものを使用する.南北方向と東西方向の波形に0度から90度までの回転行列を作用させ,0.001秒ずつずらしながら相互相関を計算し,それぞれのイベントで最も相関係数が高い時の回転角,到達時刻の差を相関値とともに記録する.
注水に伴う亀裂の変化を検出するため,大規模注水開始以前(2017年11月から2018年7月)と以後(2019年7月から2020年3月)の結果を比較する.9つある観測点は主要な貯留層領域(YAE-2,5,8,9),注水井南側(YAE-1,7),注水井東側(YAE-3,4,6)の3つに分類できる.まず,亀裂の卓越方向について,主要な貯留層領域と注水井南側の複数の観測点で注水前後での方向変化が確認された.特にボアホール観測点であるYAE-8,9での変化が大きく見られた.また,時期に関わらず卓越方向は,NW-SE と NE-SWの2つに大別することができた.一般的に速いS波の振動方向は,亀裂の卓越方向,すなわち最大主応力軸方向や付近の断層や断裂系の影響を大きく受けると考えられている.今回得られたNW-SE という方向は,日本の地殻応力データベース (AIST, 2024) の最大主応力軸の方向とほぼ一致し,還元井付近の断層の方向とも一致している (Dian et al., 2024).さらにNE-SW 方向は,還元井の北西に位置する主要な断層の方向と一致している.次に,2つのS波の到達時刻の差について,主要な貯留層領域であるYAE-2,8,9において,注水後で増加している傾向が確認された.これらの結果は,注水での亀裂が熱水や蒸気によって満たされた可能性を示唆しており,地熱地域のモニタリングツールとしてのS波スプリッティングの有用性を示している.