12:00 〜 12:15
[U12-11] CO 触媒酵素のダイナミックなトンネル構造変化から紐解く初期炭素固定進化
キーワード:CO デヒドロゲナーゼ、微生物、炭素固定、バイオインフォマティクス
微生物は、しばしば CO を生命活動のエネルギー源 および/または炭素源として利用する。それを可能にするのは、 CO/CO2 の酸化還元反応 (CO + H2O ⇔ CO2 + 2H+ + 2e-; ΔrG' = -115.2 kJ/mol) を触媒するCO デヒドロゲナーゼ (CODH) と呼ばれる酵素である。CODH をもつ微生物の多くは細胞外の高濃度の CO (~100%) を消費し、増殖に必要な還元力を獲得する。また、CODH はアセチル-CoA 合成酵素 (ACS) と複合体を形成することで、CO2 から合成した CO を細胞材料として供給し、炭素固定経路(Wood-Ljungdahl 経路:WLP)を担う。WLP は地球生命の最終共通祖先 (LUCA) まで起源を遡る最古の炭素固定経路であると言われており、CODH を介した CO 代謝の起源も同等に古いと考えられる。
CODH は活性中心に NiFeS クラスターを配位する金属酵素であり、タンパク質の表面から貫入したトンネルで CO/CO2 ガス分子を活性中心まで運ぶ。NiFeS クラスターを配位するシステイン残基は配列間で高度に保存されるが、他のアミノ酸残基の保存性は低く、CODH 遺伝子配列は著しく多様化している。CODH のガストンネルの構造は配列によって変化し、ガス分子の選択性や反応効率に影響を及ぼすことが構造生物学解析により、示されている。ゆえに、CODHの配列多様性に基づき、CO 代謝の進化を理解する場合、CODH のトンネル構造の多様化プロセスを解明することが重要である。しかし、CODH の構造生物学研究はモデル生物に顕著に偏っており、利用可能な立体構造情報が片手で数えられる程度しか存在しないことが研究のボトルネックとなっていた。
そこで我々は CODH の立体構造情報の不足によるギャップを埋めるため、昨年ノーベル化学賞を受賞した AI 技術である AlphaFold (AF) に着目した。AF はアミノ酸配列からタンパク質立体構造を原子レベルの高精度で予測するプログラムであり、既に公共のタンパク質データベースに含まれる 2 億以上の配列について予測構造を提供している。我々はまず、公共データベースで CODH 遺伝子を検索し、多様な系統を網羅した 3,388 個の AF 予測構造を取得した。複数の CODH 構造の整列と NiFeS クラスターを起点とした探索的シミュレーションによるトンネル予測を自動化し、全ての AF 予測構造からガストンネルを予測した。トンネルを末端(タンパク質表面にあるガス分子の出入り口)の座標距離に基づいて 15 グループにクラスター分類し、CODH の系統樹と各クラスターの有無を統合することでトンネル構造の変遷を調べた。既往の系統解析より、CODHはクレード A–G の 7 個の系統グループに分類され、大きくは古細菌の WLP に由来する CODH を含むクレード A と、それ以外(主に細菌由来の CODH を含む)に分かれることが知られている。それらのガストンネル予測の結果、多くの CODH は 10 個程度のトンネルを持ち、CODH のクレードによって保存される(または淘汰される)トンネルが存在することが分かった。また、WLPと関連性の高い細菌由来のCODHが含まれるクレード E および F では、系統的に新しく分岐した CODH においてトンネルの数が半減する現象が認められ、ACS (WLP) の獲得がトンネル構造に影響を与えることが分かった。興味深いことに、クレード E と F の CODH では ACS に通じるガストンネルが異なり、いずれのクレードでも ACS と繋がらなかった方のトンネルは失われることが分かった。これは CODH/ACS の気密性を高め、CO の漏出を防ぐ構造変化により、 WLP の反応効率を上げるという構造レベルでの適応進化が、クレード E/F の中でそれぞれ独立に(収斂的に)起こったことを示唆する。ACSと協調し、無機炭素(COまたはCO2)固定が可能となったクレードA、E、FのCODH(つまり、CODH/ACS)のうち、少なくともクレード E/F に含まれる CODHはACSの獲得後に構造の大規模な適応進化が起こったことを示唆しており、WLP が LUCA から脈々と引き継がれてきたという従来のモデルに一石を投じる点で意義深い。本研究により、CODH の進化過程で起こったトンネル構造のダイナミックな変遷が明らかになった。今後は、実験も組み合わせることで、CODH のトンネル構造の変遷が起こった具体的な要因を明らかにするとともに、ゲノムコンテキスト、環境要因などの体系だった進化学的解析をすることで、CODH、および、初期炭素固定進化を明らかにすることを目指す。
CODH は活性中心に NiFeS クラスターを配位する金属酵素であり、タンパク質の表面から貫入したトンネルで CO/CO2 ガス分子を活性中心まで運ぶ。NiFeS クラスターを配位するシステイン残基は配列間で高度に保存されるが、他のアミノ酸残基の保存性は低く、CODH 遺伝子配列は著しく多様化している。CODH のガストンネルの構造は配列によって変化し、ガス分子の選択性や反応効率に影響を及ぼすことが構造生物学解析により、示されている。ゆえに、CODHの配列多様性に基づき、CO 代謝の進化を理解する場合、CODH のトンネル構造の多様化プロセスを解明することが重要である。しかし、CODH の構造生物学研究はモデル生物に顕著に偏っており、利用可能な立体構造情報が片手で数えられる程度しか存在しないことが研究のボトルネックとなっていた。
そこで我々は CODH の立体構造情報の不足によるギャップを埋めるため、昨年ノーベル化学賞を受賞した AI 技術である AlphaFold (AF) に着目した。AF はアミノ酸配列からタンパク質立体構造を原子レベルの高精度で予測するプログラムであり、既に公共のタンパク質データベースに含まれる 2 億以上の配列について予測構造を提供している。我々はまず、公共データベースで CODH 遺伝子を検索し、多様な系統を網羅した 3,388 個の AF 予測構造を取得した。複数の CODH 構造の整列と NiFeS クラスターを起点とした探索的シミュレーションによるトンネル予測を自動化し、全ての AF 予測構造からガストンネルを予測した。トンネルを末端(タンパク質表面にあるガス分子の出入り口)の座標距離に基づいて 15 グループにクラスター分類し、CODH の系統樹と各クラスターの有無を統合することでトンネル構造の変遷を調べた。既往の系統解析より、CODHはクレード A–G の 7 個の系統グループに分類され、大きくは古細菌の WLP に由来する CODH を含むクレード A と、それ以外(主に細菌由来の CODH を含む)に分かれることが知られている。それらのガストンネル予測の結果、多くの CODH は 10 個程度のトンネルを持ち、CODH のクレードによって保存される(または淘汰される)トンネルが存在することが分かった。また、WLPと関連性の高い細菌由来のCODHが含まれるクレード E および F では、系統的に新しく分岐した CODH においてトンネルの数が半減する現象が認められ、ACS (WLP) の獲得がトンネル構造に影響を与えることが分かった。興味深いことに、クレード E と F の CODH では ACS に通じるガストンネルが異なり、いずれのクレードでも ACS と繋がらなかった方のトンネルは失われることが分かった。これは CODH/ACS の気密性を高め、CO の漏出を防ぐ構造変化により、 WLP の反応効率を上げるという構造レベルでの適応進化が、クレード E/F の中でそれぞれ独立に(収斂的に)起こったことを示唆する。ACSと協調し、無機炭素(COまたはCO2)固定が可能となったクレードA、E、FのCODH(つまり、CODH/ACS)のうち、少なくともクレード E/F に含まれる CODHはACSの獲得後に構造の大規模な適応進化が起こったことを示唆しており、WLP が LUCA から脈々と引き継がれてきたという従来のモデルに一石を投じる点で意義深い。本研究により、CODH の進化過程で起こったトンネル構造のダイナミックな変遷が明らかになった。今後は、実験も組み合わせることで、CODH のトンネル構造の変遷が起こった具体的な要因を明らかにするとともに、ゲノムコンテキスト、環境要因などの体系だった進化学的解析をすることで、CODH、および、初期炭素固定進化を明らかにすることを目指す。
