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[AOS24-03] 絶対塩分測定技術の開発
キーワード:絶対塩分、音速、密度
海水の塩分の測定には電気伝導度計が広く用いられている。電気伝導度による塩分の測定は、海水の組成比が世界中どこでも一定という仮定に基づく。しかし、ケイ酸塩など非イオン溶存物や河川の影響などにより、電気伝導度計で求めた塩分(実用塩分)と実際の塩分(絶対塩分)は異なる場合がある(例えば、太平洋深層で0.02 g/kg程度)。2009年に30年ぶりに改訂された新しい海水の状態方程式(TEOS-10)では、絶対塩分と実用塩分(正確には標準組成塩分)の差である絶対塩分偏差を求める簡便な推定式が採用された。絶対塩分偏差に関わる主な溶存物としては、ケイ酸塩、硝酸塩、アルカリ度、全炭酸がある。外洋域ではこれらの溶存物は相関を持って変化することが多いので、データが豊富なケイ酸塩の関数として絶対塩分偏差を推定している。しかし、北極海表層など河川水の影響を強く受ける海域では、推定式の誤差が大きい。また、ケイ酸塩の気候学的平均分布を用いた推定式では、人為起源二酸化炭素の増加に伴う全炭酸濃度の増加などの時間変化を評価できない。これらの問題を解決するために、音速計を用いて、絶対塩分を海洋の現場で高精度に直接測定する手法を開発した。通常の電気伝導度・水温・圧力の関数として塩分を求める代わりに、音速・水温・圧力の関数として0.001 g/kgの分解能で絶対塩分を求めることが可能になる。ただし、音速計や音速方程式の誤差が大きく、そのままでは実用的な精度で絶対塩分を求めることができない(絶対塩分の誤差は表層で0.04 g/kg、6000 mで0.4 g/kg程度)。そのため、採水試料に対して振動式密度計で求めた絶対塩分(分解能は0.0013 g/kg)を基に、音速計で求めた絶対塩分を現場校正が必要になる。振動式密度計は、通常、純水の測定値を基に、状態方程式で計算される密度に一致するように校正される。しかし、振動式密度計の非線形性により海水の測定値には誤差が含まれる。そこで、密度の絶対測定法である液中ひょう量法を基に、標準海水の密度を国際単位系SIにトレーサブルに求め、標準海水を用いて振動式密度計を校正する。これらにより、現場での絶対塩分測定システムを実現した。