JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC53] [JJ] 固体地球化学・惑星化学

2017年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SGC53-P04] 冥王代地殻の主成分元素組成:高圧融解実験からの制約

*近藤 望1小木曽 哲1 (1.京都大学大学院人間・環境学研究科)

キーワード:冥王代、地殻、主成分元素組成、高圧融解実験

冥王代(>4.6 Ga)にマントルと地殻がどのように分化していたか、そして地殻がどのような組成であったかを知ることは、地殻の抽出とリサイクルによるマントル化学組成進化の初めの様相を理解する上で必要不可欠である。これまで、冥王代ジルコンや太古代初期の泥質片麻岩の分析から、冥王代花崗岩質−安山岩質地殻の存在が活発に議論されてきた(Hopkins et al. 2010; Kemp et al. 2010; Iizuka et al. 2015; Komiya et al. 2015; Reimink et al. 2016)。しかし、冥王代に地殻がどのように形成され、どのような定量的組成であったのかはいまだによくわかっていない。本研究では、冥王代地殻の主成分元素組成を決定し、冥王代におけるマントル−地殻分化の初めの段階を制約することを目的とした。

先行研究によると、冥王代にはマントルのポテンシャル温度(MPT)が高かったと考えられる(Korenaga 2013)。そしてMPTが高い場合、マントルカンラン岩の融解によっ生成される地殻はコマチアイト質となる(Takahashi & Scalfe 1985)。冥王代ジルコンの酸素同位体比から液体の水の存在が示唆されている(Mojzsis et al. 2001)ことと、冥王代の高温のマントルによって地殻の地温勾配は急であった可能性があることを鑑みると、冥王代の苦鉄質−超苦鉄質地殻は沈み込む際に含水融解し、花崗岩質−安山岩質のメルトを生成した可能性がある。

我々はまず、先行研究の高MPTにおけるマントル対流モデル(Korenaga 2009; Foley et al. 2014)を参考に、冥王代の火成活動様式と未分化カンラン岩の融解によって生成される地殻の組成を推定した。プレートテクトニクス開始以前においては、カンラン岩がソリダス至近の温度で極わずかに融解して生成されたメルトが、厚い(〜200 km)リソスフェアの底で分離して地殻を形成し、プレートテクトニクス開始以降は、カンラン岩が海嶺下で大規模に部分融解して生成されたメルトが地殻を形成していたと考えられる。そして我々は、プレートテクトニクス開始以前における地殻の組成を高圧融解実験(Kondo et al. 2016)から推定し、プレートテクトニクス開始以降の地殻組成はpMELTS(Ghiorso et al. 2002)を用いた計算によって推定した。どちらの場合でもメルト組成はコマチアイト質と推定されたが、プレートテクトニクス以前の場合の方がFeOやTiO2、Na2O、K2O含有量が高くなることがわかった。このFeとTi、アルカリ元素に富んだコマチアイト組成をS(solidus)-コマチアイト質と呼ぶ。

我々は、プレートテクトニクス以前の間歇的かつ滴り落ちるような沈み込みのある状況(Foley et al. 2014)で、このS-コマチアイト質地殻が含水融解することを想定した。これまでに、コマチアイトの含水融解はほとんど研究されてきていない。我々は、S-コマチアイト組成の出発物質を酸化物と炭酸塩の粉末から合成し、ピストンシリンダー型高圧発生装置を用いて、1-3 GPaの圧力、1000-1300 °Cの温度でS-コマチアイトの含水融解実験を行った。この実験において、我々は特に酸素フガシティを注意深く調整、評価した。実験結果として、S-コマチアイトの含水融解によって生成されるメルトの主成分元素組成はピクライト質となり、出発物質の組成を反映して、Tiとアルカリ元素に富むことがわかった。したがって、冥王代のプレートテクトニクス以前の状況では、まず未分化マントルカンラン岩の融解からS-コマチアイト質地殻が形成され、そして沈み込みに伴うS-コマチアイトの含水融解によって、Tiとアルカリ元素に富んだピクライト質地殻が形成されていたと考えられる。