JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG34] [EJ] 福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態

2017年5月25日(木) 13:45 〜 15:15 コンベンションホールA (国際会議場 2F)

コンビーナ:北 和之(茨城大学理学部)、恩田 裕一(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、五十嵐 康人(気象研究所 環境・応用気象研究部)、山田 正俊(弘前大学被ばく医療総合研究所)、座長:青山 道夫(福島大学環境放射能研究所)、座長:猪俣 弥生(金沢大学)

14:15 〜 14:30

[MAG34-15] 北太平洋における福島第一原子力発電所事故に由来する放射性セシウムの6年間の拡散状況

*帰山 秀樹1 (1.水産研究・教育機構)

キーワード:福島第一原子力発電所事故、放射性セシウム、北太平洋、モード水

福島第一原子力発電所事故による放射性セシウム(134Csおよび137Cs)の環境放出により北太平洋全域の表層の放射性セシウム濃度が上昇した。水産研究・教育機構では2011年3月より水産物の緊急モニタリング調査を開始、それ以降海洋生態系を構成する様々な生物群、環境試料における放射性セシウム濃度の把握と、放射性セシウムの海洋生態系内における挙動を解析してきた。本研究では、海洋生態系における放射性セシウムの挙動を把握する際の最も基礎となる情報である、溶存態放射性セシウムの北太平洋における拡散状況を採水調査の結果に基づき報告する。調査は漁業調査船による資源調査航海などの機会を活用し、バケツによる表層海水の採取や採水器を用いた鉛直多層採水により得た海水20L試料を対象とした。その他、福島県沿岸では漁船を用いた用船調査、福島県水産試験場の協力による小名浜地先の汲み上げ海水などを採取している。海水試料はリンモリブデン酸アンモニウム共沈法を適用し、ゲルマニウム半導体検器によるガンマ線測定に基づき放射性セシウム濃度を求めた。

北太平洋の広域拡散状況の把握という観点では144˚E、155˚Eおよび175.5˚Eにおける南北側線を設け、2011年7月、10月、2012年7月、2013年7月に表面海水採水による観測を実施しており、黒潮続流の北側における東方への拡散状況を把握している。また2012年9月の鉛直断面観測により、黒潮続流の南方においては亜熱帯モード水に補足された放射性セシウムを確認した。事故当時に減衰補正した134Csの総量は4.2±1.1 PBqと試算され、北太平洋全域における福島第一原発事故由来の134Cs放出量の22〜28%が亜熱帯モード水に存在すると推定された。亜熱帯モード水の輸送先である日本南方の亜熱帯海域に着目し、放射性セシウムの経年変化を137Csの水深0〜500mの水柱積算値で見ると2012年の3600 Bq m-2から2015年の1500 Bq m-2まで減少していることが明らかとなった。冬季の鉛直混合により亜熱帯モード水の一部は表層水塊へ表出し、移流・拡散により福島第一原発事故由来の放射性セシウムは希釈されたと推察される。

一方、福島第一原子力発電所近傍海域として小名浜地先における汲み上げ海水を週一回の頻度で採水し放射性セシウム濃度の時系列変動を解析している。小名浜地先における溶存態放射性セシウム濃度は基本的に緩やかな減少傾向を示すものの、夏季および冬季にスパイク状に濃度の上昇が認められる。特に冬季、爆弾低気圧が福島県沖合を北上した時期に顕著な放射性セシウム濃度の上昇が認められた。2013年12月から2014年2月の期間には福島第一原子力発電所と小名浜の中間に位置する四倉沖で物理観測を実施しており、その際の流速データは、四倉沖で強い南向きの流れが継続した時期と、小名浜地先で放射性セシウム濃度が上昇した時期が一致することを示している。すなわち福島第一原子力発電所近傍の海水が強い南下流により小名浜地先近傍まで希釈をされずに移流したと推察される。このように福島第一原子力発電所近傍海域における溶存態放射性セシウムの分布は時空間的に変動が大きく、今後も引き続きモニタリング調査が必要である。