11:00 〜 11:15
[MIS16-08] 北海道日高沖の高メタン活動域での化学合成生物シロウリガイ類の発見
キーワード:表層型ガスハイドレート、シロウリガイ類、メタン湧出
北海道南東沖(広尾沖)では,これまでメタン湧水が報告されている(藤倉ら,2012など)。漁協の聞き取り調査などから北海道南西沖(日高沖)にもメタン湧水が存在する可能性があり,2016年8月1日~7日に東京海洋大学所属の研究実習船・海鷹丸による海洋調査(UT16 Leg. 2)を実施した。調査は,日高舟状海盆の4地点でオケアン型採泥器,ピストンコアラー,CTDを用いて行われた。その内の1地点でオケアン型採泥器によって化学合成生物であるシロウリガイ類を採集したので報告する。
今回の調査では,日高沖の4調査地点中3地点(水深692~988m)でオケアン型採泥器による堆積物の採取を行った。その内のG1603採集地点(水深988m)で35cm×35cm×16cmの堆積物と共にシロウリガイ類の3個体分の合弁と破片が採集されたが,いずれも死殻であった。底質は砂泥で,シロウリガイ類の他にゴカイ類やクモヒトデ類が採集された。
これまで北海道南東沖の広尾海底谷の北壁(水深1240m)では,メタン湧出とシロウリガイ類の生息が確認されている(藤倉ら,2013)。今回採集された日高沖のシロウリガイ類と広尾海底谷に分布するシロウリガイ類を比較したところ,貝殻の外形は似ているもののヒンジの形態が異なり,別種であると考えられた。シロウリガイ類には,生息水深の違いによる種分化があることが知られている(Fujikura et al. , 2000)。日高沖と広尾沖のシロウリガイ類の生息深度はほぼ同水深であるが,各産地間は約260km離れている。また,広尾海底谷は沈み込み帯である千島海溝の陸側斜面部に位置するが,今回の採集地点は千島海溝及び日本海溝陸側斜面よりさらに陸側の前弧海盆である日高舟状海盆の平坦部である。2種の分布については,今後分子系統解析や地質学的考察を必要とする。
今回の採集地点では,ほぼ同じ場所でピストンコアラーによる調査を行っており,ピストンコアラー引き上げ時に先端部からガスハイドレートが零れ落ちるのを観察している。また,ピストンコアラーで採取された堆積物間隙水中の分析結果では,SMI深度が非常に浅いことからも深部からのメタン供給が極めて高いことが分かった。さらに,採集地点周辺では,海鷹丸の音響測深機(PDR)によってメタンプルームも観測されている。これらの観測事実から,付近の海底には表層型のガスハイドレートが存在し,高い密度でシロウリガイ類が生息していることが示唆された。今回の発見により,北海道太平洋側の海域では,シロウリガイ類が表層型ガスハイドレートの発見の手がかりとなり得ることが分かり,資源探査の上からも重要な発見と言える。
【引用文献】
藤倉克則,奥谷喬司,丸山 正(2012)潜水調査船が観た深海生物:第2版.東海大出版会.東京.pp. 487.
Fujikura, K., Kojima, S., Fujiwara, Y., Hashimoto, J. & Okutani, T. (2000) New distribution records of vesicomyid bivalves from deep-sea chemosynthesis-based communities in Japanese waters. Venus, 59. 103-121.
今回の調査では,日高沖の4調査地点中3地点(水深692~988m)でオケアン型採泥器による堆積物の採取を行った。その内のG1603採集地点(水深988m)で35cm×35cm×16cmの堆積物と共にシロウリガイ類の3個体分の合弁と破片が採集されたが,いずれも死殻であった。底質は砂泥で,シロウリガイ類の他にゴカイ類やクモヒトデ類が採集された。
これまで北海道南東沖の広尾海底谷の北壁(水深1240m)では,メタン湧出とシロウリガイ類の生息が確認されている(藤倉ら,2013)。今回採集された日高沖のシロウリガイ類と広尾海底谷に分布するシロウリガイ類を比較したところ,貝殻の外形は似ているもののヒンジの形態が異なり,別種であると考えられた。シロウリガイ類には,生息水深の違いによる種分化があることが知られている(Fujikura et al. , 2000)。日高沖と広尾沖のシロウリガイ類の生息深度はほぼ同水深であるが,各産地間は約260km離れている。また,広尾海底谷は沈み込み帯である千島海溝の陸側斜面部に位置するが,今回の採集地点は千島海溝及び日本海溝陸側斜面よりさらに陸側の前弧海盆である日高舟状海盆の平坦部である。2種の分布については,今後分子系統解析や地質学的考察を必要とする。
今回の採集地点では,ほぼ同じ場所でピストンコアラーによる調査を行っており,ピストンコアラー引き上げ時に先端部からガスハイドレートが零れ落ちるのを観察している。また,ピストンコアラーで採取された堆積物間隙水中の分析結果では,SMI深度が非常に浅いことからも深部からのメタン供給が極めて高いことが分かった。さらに,採集地点周辺では,海鷹丸の音響測深機(PDR)によってメタンプルームも観測されている。これらの観測事実から,付近の海底には表層型のガスハイドレートが存在し,高い密度でシロウリガイ類が生息していることが示唆された。今回の発見により,北海道太平洋側の海域では,シロウリガイ類が表層型ガスハイドレートの発見の手がかりとなり得ることが分かり,資源探査の上からも重要な発見と言える。
【引用文献】
藤倉克則,奥谷喬司,丸山 正(2012)潜水調査船が観た深海生物:第2版.東海大出版会.東京.pp. 487.
Fujikura, K., Kojima, S., Fujiwara, Y., Hashimoto, J. & Okutani, T. (2000) New distribution records of vesicomyid bivalves from deep-sea chemosynthesis-based communities in Japanese waters. Venus, 59. 103-121.