JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] [JJ] 古気候・古海洋変動

2017年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 国際会議室 (国際会議場 2F)

コンビーナ:入野 智久(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、北場 育子(立命館大学古気候学研究センター)、佐野 雅規(総合地球環境学研究所)、座長:池原 実(高知大学海洋コア総合研究センター)

11:15 〜 11:30

[MIS23-27] 始新世初期における海洋硫酸硫黄同位体比急変イベント

*中瀬 千遥2長谷川 卓1後藤(桜井) 晶子1外山 浩太郎1沖野 遼3 (1.金沢大学自然システム学系、2.金沢大学大学院自然科学研究科自然システム学専攻、3.三菱マテリアルテクノ)

キーワード:硫黄同位体比、始新世、硫黄、硫酸イオン、重晶石

海洋中の硫黄の大部分は硫酸態で存在し,膨大なリザーバーを形成している.その滞留時間は約10myrと非常に長い. 海洋硫酸イオンの硫黄同位体比(δ34S)についてPaytan et al. (1998: Science, 282) は遠洋性バライトの経年変動を公表し, 約50Ma において+17‰から+22‰への大きな正シフトを提示した. この変動の大部分は約1 myr の非常に短い期間で急激に生じている. 一方Ogawa et al. (2009: EPSL, 285)は北極海堆積物コアの分析を行い, 北極海での大量の黄鉄鉱埋没が始新世における約3‰の海洋全体のδ34S変動をもたらした可能性を提示した.それは55-44Maの10 myr余りに堆積した黄鉄鉱量から推定されたものであり,上述の短期間かつ大規模な正シフトを説明する仮説としては矛盾点もあり,海洋バライトの示す硫黄同位体曲線の検証が求められていた.そこで本研究の目的を始新世初期における世界の平均的なδ34S変動を明らかにすることとした. そのためにODP, IODP試料を用いて層序学的に連続なCAS (carbonate-associated sulfate)のδ34S値を求めた.同一試料からCASとバライト両方の抽出を試み,複数の海域, 複数のサイトでのδ34Sの比較を行った. CASとバライト両方が抽出できた試料は赤道太平洋の1試料のみであったが, ODP Site 1258, 1259 (赤道大西洋), Site 1262, 1263, 1265, 1267 (南大西洋)でCASのδ34S変動曲線を得ることができた.その変動はPaytan et al. (1998) とは異なり5 myr 以上に渡るもので,変動規模は最大でも5‰以下という結果であった.そのδ34S変動期間は北極海での約10 myrに渡る黄鉄鉱埋没と調和的なものであり, Ogawa et al. (2009) の議論した北極海水の流出によってより合理的に説明できる. またPaytan et al. (1998) が示す50Ma 付近における変動が,局所的なδ34Sの不均質性を反映している可能性がある.