JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS17] [JJ] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2017年5月20日(土) 13:45 〜 15:15 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:松澤 孝紀(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、谷川 亘(国立研究開発法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、座長:飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:廣野 哲朗(大阪大学 大学院 理学研究科 宇宙地球科学専攻)

15:00 〜 15:15

[SSS17-12] 地震マグニチュードとモーメントマグニチュード
ー見掛の破壊エネルギーの破砕帯厚依存性ー

*山本 清彦

キーワード:破壊エネルギー、地震波効率、マグニチュード、モーメントマグニチュード、破砕帯断層模型、臨界破損変位

はじめに:地震波エネルギーEsとマグニチュードMsの関係や地震モーメントMoとモーメントマグニチュードMwの関係は、通常、以下の式で表される。
logEs=1.5Ms+4.8  (1)
logMo=1.5Mw+9.1  (2)
以後ここでは、この式にほぼ従う地震を標準的な地震と呼ぶ。
 日本海溝沿いに起こった比較的大きい地震では、MsがMwより小さい。前学会で、山本は無限長で均一な厚さの破砕帯断層模型を使ってこの差が地震波効率の違いによっている可能性を示した。一方、陸域の地震では(Mj–Mw)>0.2 になる場合が多い。例えば1995兵庫県南部地震の(Mj、Mw)は(7.3、6.9)、2000鳥取県西部地震は(7.3、6.8)、2008年岩手・宮城内陸地震は(7.2、6.8~6.9)であり、Mj=Msとすると、いずれの地震も(Ms–Mw)>0.2 である。厚さが均一な破砕帯断層模型によれば、標準的な地震の場合、地震波効率が0.8以下ではMw>Ms、それ以上ではMs>Mw、地震波効率が1のとき(Ms-Mw)=0.2である。したがって、標準的な地震で(Ms-Mw)>0.2は考えにくい。ここでは、(Ms-Mw)>0.2 になる要因を検討する。
見掛の破壊エネルギー:破砕帯断層模型とは断層を厚さのある破砕帯領域とアスペリティー(AS)領域とから成るとした模型である。この模型では、すべり面が破砕帯領域に拡大する際、破砕帯に回転を生じさせる。見掛の破壊エネルギーはこの回転によって生じる断層面に垂直な変位が、法線応力になす仕事に等価である。この模型では、破砕帯は完全に緩和状態であり、ASの剛性率μと剪断破壊強度tfは母体のそれと等しい。断層の厚さが均一で、無限の断層長を持つ模型を「均一模型」、断層厚が不均一で断層長が有限な模型を「不均一模型」と呼ぶ。
結果:「均一模型」で地震波効率を1とすると、Es=(δt/2μ)Moが得られる。ここで、δtは応力降下量である。したがって、δtが大きければ、Ms−Mw>0.2が満たされ得る。AS領域が断層面に占める割合φは、ASが破壊する時の弾性的剪断歪み量ef=tf/μと地震波効率だけで決まり、地震波効率が1の場合2xefである。よって ef=10-2のとき、φ=2x10-2 である。δtは常にtfxφであるから、Ms−Mw>0.2になる一つの可能性として、ASの剪断破壊強度が大きい場合があげられる。AS破壊時の歪efを1.5x10-2とした場合、地震波効率が0.8のとき、(Ms−Mw)はおよそ0.2になる。これは、均一模型を採用した場合の可能性である。
 より一般的には、断層は有限な長さを持ち、厚さも不均一であろう。破砕帯中にすべり面が拡大する時、その先端にはすべりによる変位が必要であろう。ここでは、その量をASの破壊に必要な臨界破損変位量と等価で、破砕帯中のいかなる場所においても同じであると仮定する。すなわち、すべり面の拡大に必要なすべり量は破砕帯厚に無関係に一定とする。この場合、破砕帯厚を小さくすると、単位面積当たりで、見かけの破壊エネルギーはASに蓄積されていた歪みエネルギーの2倍に近づくことが分かる。ある厚さの断層帯中のASが破壊するとすべり面ができ拡大が生じる。以上のことは、すべりの先端が狭い破砕帯領域に達すると、拡大が抑制される可能性を示している。それによって、同一寸法のASに対して生成される断層面の面積が、均一な破砕帯厚を持つ無限の断層の場合よりも小さく、応力降下量は大きくなるであろう。これが他の一つの可能性である。
考察:以下の場合に(Ms−Mw)>0.2 が生じる。 1)標準的な地震では、地震波効率が0.8以上の場合。2)平均応力降下量が標準的なものより大きい場合。応力降下量が大きくなる原因として、2-1) ASの剪断破壊強度が標準的地震の場合に比べて大きい。2-2)破砕帯の厚さがAS領域の外で小さいとき。(2-2)は断層面が幾何学的に非一様である場合に相当する。内陸の地震で(Ms-Mw)>0.2 になるのは、地震が発生する断層が、プレート境界にある断層よりも構造が複雑であること、より具体的には、断層の端の効果を無視できないことに起因していると考えられる。結論を得るには、断層の力学的構造や破壊伝播速度を知る必要があろう。